第1部 一般公募の部
第1部の応募総数は1,732点。厳正な審査を重ね、候補作品が33点に絞られた段階で中間講評を実施。各審査委員より推薦作品や今年の傾向について意見が述べられた。この場で最も評価の声が高かったのがキヤノンマーケティングジャパンの課題を扱った作品(1)で、結果的に最高賞に輝いた。
朝日広告賞
(1)キヤノンマーケティングジャパン
〈「iVIS HF21」の新商品告知、認知獲得のための広告〉5点シリーズ 波間知良子、佐野真弓
ビジュアルは、観光地などで被写体を必死にカメラにおさめようとしている人たち。微妙な中腰や、地面にはいつくばる後ろ姿が、えも言われぬおかしみを醸している。「人がいちばんかわいい生き物。」というコピーに思わずうなずいてしまう5点シリーズだ。同作品には、 「カメラの広告というと、被写体の美しさをアピールする自己陶酔的なものが多いが、これは目線が新しい」(佐々木宏氏)
「とにかく写真がいい。ふだんのキヤノンの広告と違う切り口できたことも評価できる」(副田高行氏) 「撮れそうで撮れない写真。直接性能は語ってないが、性能あってのブランド力、カメラへの愛着というところまで語れている。自分の評価では頭一つ抜きん出ていた作品」(タナカノリユキ氏)
など、多くの賞賛の声が寄せられた。
準朝日広告賞
(2)大日本除虫菊
〈金鳥の渦巻(蚊取線香)〉 吉森太助、宇禄
“蚊の目線”を想像させる写真の臨場感が高く評価された。 「蚊取り線香の煙を吸いクラクラして墜落していく感じがうまくビジュアル化できている。アングルや窓からの光の漏れ方など、いかにも“この世の最期”という感じ」(佐藤可士和氏)
「体感的にいいなと思えた広告。今までの同社の広告にない答え方」(森本千絵氏)
「ノンコピーで蚊が最期に見る風景を見事に表現。写真がリアル」(副田氏)
(3)小学館
〈世界大地図〉3点シリーズ 山形孝将、榎本弐輝、吉井健文
子どもの想像力をスケール感たっぷりにとらえ、『世界大地図』の魅力を伝えた3点シリーズ。 「コピーとビジュアルのバランスがいい。3点の中でも特に『世界の広さと、子供の頭のなかは、だいたい同じ大きさです。』というコピーは秀逸。地図のロマンみたいなものを、これから未来に向かっていく子どもを通してうまく出している」(児島令子氏)
「取ってつけたような乱暴なデザインが強さになっている。コピーにも説得力があった。実際に掲載されたら『子どものときは確かにこんな感じだったな』と共感を呼ぶのではないか。親の購買にも結びつきそう」(佐々木氏)
「子どもが絵本を見るような楽しさで大人も地図を楽しめるという感じがよく伝わってきた。力作の多い課題だったが、この作品が一番『世界大地図』を見てみたいと思わせてくれた」(佐藤氏)
(4)旭化成ホームズ
〈ヘーベルハウス「ロングライフ住宅」を訴求してください〉
金城博英、上田崇史、枝川昌幸
長持ちする住宅を、「鈴木さん宅前」というバス停で表現。 「ただの冗談に見えなくて、ちゃんと家の歴史を想像させる。商品広告にも企業広告にもなっているよくできた作品」(葛西薫氏)
「切り口がユニーク。長持ちする家を、家そのものでなくバス停で示しているところが面白い。家がランドマークになるというのは住人にとって名誉なこと。バス停になったうれしさまでも伝わってくる。これを見た人はヘーベルハウスにいい印象を持つと思う」(児島氏)
「30段の大きさで見せたのがよかった。バス停の表示に『次は森下海岸』とあるあたりも、絵が思い浮かんでよかった」(佐々木氏)
今年の傾向については、 「言葉を大事にした広告と、映像で一発勝負する広告の両極が見られた。特に映像、写真、ビジュアルで訴えかけるものが多かった気がする」(浅葉克己氏)との意見があった。
審査の過程で審査委員から口々にあがったのは、多少荒削りでも新聞広告の新しい表現を予感させる作品、広告主の既存の表現にとらわれない作品、未来を提示している作品に光を当てていきたい、という声だった。その期待に応えた上位作品の数々が、広告主やクリエーターを刺激し、良い奮発材料になることを願う。来年度の応募者も、未来を照らす新しい表現に貪欲(どんよく)にチャレンジしてほしい。
入 選
(5)コマツ
〈コマツの建設機械〉
山下隼太郎、高橋律仁
「時代的に、穴を埋めたり不安を埋めたりするような広告が多いが、この作品は未来を提示している。実際にこういう広告があったらいいと思った」(前田知己氏)
「機械の広告だがものづくりの開拓精神をビジュアル化して伝えたところに新しいアプローチを感じた。かっこいい会社に見えるし、ブルドーザーの運転手が誇りに思えるような広告。世界的なブランドというグローバル感も出ていた」(佐藤氏)
(6)資生堂
〈資生堂シャンプー「TSUBAKI」〉3点シリーズ
八木彩、小川祐人、高木佳代、小川直之
「実際の『TSUBAKI』の広告の世界観と全く違っているところが面白い」(副田氏) 「今こそこういうくだらなさが必要ではないか。従来の広告をまったく気にしていない心意気がいい」(前田氏)
(7)セイバン
〈「天使のはね」ランドセル〉2点シリーズ
増田貴昭
「ランドセルを背負う楽しさ、機能的な軽さ、元気な子どもの様子、いろんなことを想像させる」(タナカ氏)
「ものすごくスピード感がある。『Dr.スランプ アラレちゃん』の『キーン』みたいな感じ。一つのシンプルなものに向かっていく勢いがあり、理屈ではなくいいと思えた」(森本氏)
(8)光文社
〈光文社古典新訳文庫〉15点シリーズ
澤井恵一、藤原奈緒
「憲法第9条の改正の記事に『武器よ、さらば』、盛りヘアーの記事に『椿姫』など、硬軟の話題をうまく織り交ぜ、今までにない小型広告の形を見せてくれた」(児島氏)
「1個1個がとても上手にできている。大麻栽培の記事に『秘密の花園』、インフルエンザ流行の記事に『種の起源』など、記事と本のタイトルの結びつけ方のセンスがいい。“お題拝借”が、ちゃんとキャッチフレーズになっていて、商品に落とし込めている。実際に実現できそう」(佐々木氏)
(9)小学館
〈世界大地図〉
三島靖之、苅田哲平
「コピーが、何か自分のことを言われているみたいで、ぐっときた」(葛西氏)
「地図を一切出さずに、お父さんの頭の中の話に集約しているところが、すごくシンプルだけど奥が深いと思った」(児島氏)
(10)全国都道府県及び18指定都市
〈スクラッチ〉3点シリーズ
杉山元規、栗塚達也、高梨遼平、神原誠、伊藤みどり
「スクラッチをやっている横で、今まさに当たったらジャーンとしようとする感じ、こういうユーモアは日本の広告にはなかなかない。海外の広告っぽい感じがした」(副田氏)
(11)新潮社
〈新潮文庫〉2点シリーズ
久道美貴子、片野陽子
「人物相関図を見ると韓流ドラマのよう。『あ、そんな話なんだ、ちょっと読んでみたいかな』と思わせるような表現になっている」(児島氏)
(12)チロルチョコ
〈楽しいお菓子で世の中明るく〉
森大地
「チョコレートの家というのはよくあるが、小さなチョコレート1個で家を造っているところが好ましかった」(葛西氏)
(13)大塚チルド食品
〈スゴイダイズヨーグルトタイプ、飲料タイプを自由に表現ください〉
世古貴久
「コピーに深みはないが分かりやすく、鬼の顔が間抜けであったかい気持ちになった。意外にスピード感がある」(佐藤氏)
(14)大日本除虫菊
〈金鳥の渦巻(蚊取線香)〉
畑英之、川野晃
「小粒だが、緑の丸で囲んで『よくねれました』という表現がかわいい」(葛西氏)
小型広告賞
(5)日本レジストリサービス
〈JPドイメンのブランド広告〉30点シリーズ
鳥海雅弘、田中ことは、佐藤ヒロアキ
(6)フェリシモ
〈フェリシモの「500色の色えんぴつ」を魅力的に伝えてください〉501点シリーズ
竹上淳志、中島淳志、井澤良介、小原健司、矢木重治、中島英貴、浅井貴行、竹上悦子、今村みさき、甲斐昭
小型広告賞
コピー賞
(17)河合塾
〈東大・難関大・医学部合格をめざすなら、河合塾〉
杉村和彦、水谷真一郎、平富風作
イラストレーション賞
(18)岩波書店
〈岩波文庫〉
千本聡、南場杏里
デザイン賞
(19)ミズノ
〈企業広告「明日は、きっと、できる。〉4点シリーズ
森川亮
その他、入選したものも準賞との差異はほとんどないぐらい、どれも新しい体感をさせてくれる元気なものが選ばれました。正しいことをそのまま伝えるだけでもなく、賞をとるというルールにはまったものではなく、この時代の中で、もがき発見し、自身でも感動できることを、ちゃんと伝える姿勢に私たちは心動かされ、眼が喜ぶのです。習慣化することはなく、商品と共に広告がずっと成長し続ける可能性を見ることができました。入選、入賞した作者たちには大きな拍手を送りたい。
(アートディレクター・森本千絵)