第58回 朝日広告賞(第2部 広告主参加の部)

第2部 広告主参加の部

朝日広告賞

振り込め詐欺抑止プロジェクト実行委員会〈振り込め詐欺抑止キャンペーン(千葉エリア)〉

朝日広告賞 振り込め詐欺抑止プロジェクト実行委員会
朝日広告賞 振り込め詐欺抑止プロジェクト実行委員会

暗い時代だから響く前向きなメッセージ

 第2部の最高賞は、振り込め詐欺抑止プロジェクト実行委員会。アサツーディ・ケイと朝日新聞社が企画したブランケット判2ページ(裏表)のエリア広告特集で、本紙に折り込んだときに1万円札が挟まっているように見えるクリエーティブだ。
「ポイントは飛び出した紙幣の仕掛けにつきる。パッと見て『あっ』と思わせるし、時代をとらえた発想が見事だった。知恵があれば新しい広告主を掘り起こせるという可能性も示した」(浅葉克己氏)
「ATMに張り紙をしてもなかなか減らない振り込め詐欺。新聞という媒体を使ったことで大きく目立ち、効果的な警告になった。思わずつまみたくなるリアリティーのある印刷技術にも脱帽」(中島祥文氏)
「地味なようで、お札の印刷が相当細かいところまで再現され、びっくりするくらいよくできていると思った」(弘兼憲史氏)

準朝日広告賞

準朝日広告賞 サントリーホールディングス 準朝日広告賞 サントリーホールディングス

サントリーホールディングス〈モデレーション広告〉
準朝日広告賞は合計3点。サントリーホールディングスは、「柳家小さんの落語」を通して飲酒のマナーを伝えた広告。
「表現的にとても“抜けている”と思う。オチもうまい」(岡田直也氏)
「小さん師匠の顔のインパクトがすばらしい。テレビCMは若いきれいな女性が活躍できるメディアだが、新聞は中身のある男性の内面を引き出し、すばらしく表現できるメディアだと思った」(林真理子氏)
「飲酒運転はよくない、節操をもって飲みなさいという広告で、つまり“行け”ではなく“行くな”というシグナルを出している。それでいて小さん師匠の写真はお酒のおいしさを伝えているという、じつに高度な広告だと思う」(茂木健一郎氏)

準朝日広告賞

準朝日広告賞 東芝
準朝日広告賞 東芝

東芝〈CELLレグザ・2点シリーズ〉

 東芝は、大画面、高精細のテレビ「CELLレグザ」を、見開き30段で迫力たっぷりに伝えた広告。
「全体のトーンはモノクロだが、ほんの小さなテレビの電源の部分だけブルーになっているのを見て4色刷りだと分かり、大変驚いた。写真がすばらしい」(松永真理氏)
「テレビの広告というと、テレビの画質をそのまま紙面に“ハメコミ合成”して高精細をアピールするものがよくあるが、この写真は明らかに“ハメコミ”でないと分かる。精密な写真を用いてあえて画面の大きさや広がりを表現したと思うと、テレビの広告としては斬新」(茂木氏)

準朝日広告賞

準朝日広告賞 宝島社 準朝日広告賞 宝島社

 

宝島社〈宝島社の女性誌〉
宝島社は、安野モヨコのイラストレーションと切れ味鋭いコピーで進化する女性たちの姿をとらえ、女性誌のアピールにつなげた広告。
「『いつか、女性は男性など必要とせずに、自分たちの子孫を増やしはじめるのではないか。』など、ボディーコピーの過激さ、すごさに驚愕(きょうがく)。女性の進化もついにここまできたかという感じ」(林氏)

 

 

 総評としては、
「昨年は政権交代もあった変化の年で、制作者の意識がどのくらい変わってきたかということを注意深く見ていったが、グランプリの作品をはじめ、クリエーターの苦心、工夫が見られる広告が数々あった。新しい広告主が出てきている印象もあった」(浅葉氏)
「今年から審査委員に加わったが、100年に1度の大不況と言われる中で、クリエーターがどれだけがんばっているか、新聞独自の表現に取り組んでいるか、メッセージ性があるか、ということを中心に審査した。上位に残った作品は力作ばかり。ただ、図抜けた表現はなかったという気がする」(岡田氏)
「景気が悪いといっても、最終的には企業がしっかり力を注いで作った広告がそろった。特にシリーズ広告に印象深いものが多かった」(島村氏)
「傑出してインパクトのある広告がないぶん粒ぞろいという印象。『映す広告新聞』(A部門賞)など新聞をモノとして扱った広告や、新聞の味わいを模したビジュアルなど、新聞ならではの新しい表現が生まれていて、可能性を感じた。これからも面白いアイデアが期待できそう」(玉村豊男氏)
「こんな時代だからこそ、しっかりしたコミュニケーションがあらわれ、消費者への信頼につながると考えられるのではないか。今こそ新聞広告がそういう方向に向かうチャンスという気がする」(中島氏)
「外資系のファッション広告や、デパートの広告など、華やかな広告が減って女性としてはさびしい」(林氏)
「広告だけでなく、若い読者の開拓など、媒体そのものとしての新聞のあり方も考えていかなければならないと思う」(茂木氏)
といった意見が聞かれた。広告主参加の部は、不況下でもさまざまなチャレンジが見られ、新聞広告の可能性を感じさせる審査会となった。

第2部★審査評 ふだん見えないものが見える

朝日広告賞審査員 エディター・松永真理氏

 審査会場に入る前から、おおかたの予測はついていた。昨年まで賞に輝いた老舗(しにせ)百貨店や、ラグジュアリーブランドが鳴りをひそめ、地味な印象がぬぐえないことを。
広告が経済環境と密接につながっている以上、これまでのような盛り上がりに欠けてしまってもそれは仕方がないことだと。
ところが、審査が進んでいくにつれ、杞憂(きゆう)に過ぎないことがわかってきた。ふだん見えないものが見えてきたのである。
サントリーの「今夜は、エアウイスキー。」は、酒がないのにうまそうな酒がそこにある。ト、ト、トと酒を注ぐ音まで聞こえてくるではないか。「飲酒運転。その噺だけは乗れません。」というオチも決まっている。
「振り込め詐欺抑止キャンペーン」は、記事風の実直な作りのなかで、振り込め詐欺の魔の手が伸びてくる様を目撃できる。1万円札の裏にこんな鳥の絵があったことに初めて気づかされ、改めて紙幣をしげしげと見ることになる。
東芝の「CELLレグザ」は、鯨の目の周りの線や月面の凹凸を高精細に写し出す。モノクロ写真と思って見ていると、4色分解されたモノトーンの写真だとわかったときのうれしさといったらない。次世代テレビの登場感が伝わってくる。
未来が見えにくく閉塞(へいそく)感がたちこめる時代だからこそ、日々の暮らしを、丁寧に見つめることが大事なのかもしれない。立ち止まって、目を凝らすと、これまで見えなかったものが見えてくる。
新聞独自の広告表現、仕掛けもあって、耐え忍ぶ一年ではあったけれど、当初の寂しさではなく、新しい可能性を感じられホッとした気持ちで会場を後にした。

(エディター 松永真理)