不況に負けず、新しい広告表現による多くの新聞広告が見られた2009年度朝日広告賞第2部(広告主参加の部)。応募作品にどんな傾向が見られたのか。評価が集まったのはどんな作品だったのか。新聞広告の役割、朝日広告賞の役割とは? 1992年から審査委員を務める中島祥文氏にお話をうかがった。
いい広告は時代に左右されない
――2009年度朝日広告賞の入賞作品全体の印象をお聞かせください。
一時期見られた「新聞広告のポスター化」が影を潜め、新聞の特性をとらえたクリエーティブがそろった印象です。かつて、特に好景気の頃は、テレビCMで印象づけたビジュアルをそのまま他のメディアに転用してすませてしまうような広告が増え、それが新しい流れと見る向きさえありました。しかし今は、「商品や企業への理解が深まる情報を効率的に伝えられるメディア」という新聞独自の力を生かした広告が主流で、朝日広告賞でもそうした視点を持った表現に評価が集まりました。ある意味、投資効率がシビアに問われる時代になったおかげと言えるかもしれませんね。
――上位作品について、どのような評価がなされたのでしょう。
グランプリを受賞した「振り込め詐欺抑止キャンペーン」の広告は、クリエーター、新聞社、千葉県警、金融各社、自治体、それぞれの意欲がうまく一致して成立した広告で、新聞広告の可能性を探る実験的な試みとして、今後に一つの好例を示したと思います。
準朝日広告賞についてですが、まずサントリーの広告は、ビジュアルのアイデアに加え、コピーのアプローチが光っていました。東芝は、商品の目新しさを従来の同社の広告イメージにない切り口で伝えることに成功しました。宝島社は、常に新しいチャレンジをクリエーターに要求し、クリエーターも見事にそれに応えるというすばらしい関係ができあがっていて、今回も新鮮な驚きをもたらしてくれました。次も期待したくなる広告主です。
また、シリーズ展開によってより深いイメージ浸透をはかれるというのも新聞広告の特性です。そういう意味では、地道に出稿を重ね、商品特性を分かりやすくアピールしているスウェーデンハウスの広告、マンガのキャラクターの15段9面ジャックにより異質の世界を展開した集英社の広告、インターナショナルな視点で企業の特質を示し、スター俳優やトップアスリートなどと商品の関係性をうまくビジュアル化したオメガの広告などが目を引きました。
――2009年は「100年に1度の大不況」と言われた年ですが、新聞広告が不況や時代のムードに影響されていると思いましたか。
広告は、商品や企業の考えがまずあって、それを伝えるベストな表現は何かというアプローチで作っていくものです。もちろん、その結果がたまたま時代にマッチしたり、逆手に取る形になったり、ということはあるでしょう。しかし、本当に強いメッセージというのは、時代に影響されるものではありません。誇れる商品があり、誇れる企業理念があり、メディアの特性にのっとって発信していく。それが基本だと思うので、私はあまり不況や時代のムードという視点で広告を眺めないのですが……。少なくとも広告主や広告制作者にはそういったことに影響されない姿勢が大事だと思います。
新聞広告はコミュニケーション戦略の基軸
――メディア環境が変わる中、改めて新聞広告の役割について考えを聞かせてください。
新聞広告は、テレビCMやポスターのようにビジュアル先行でもなく、ウェブのように無制限に文字やビジュアルを詰め込めるわけでもない。言い換えれば、十分なビジュアルのインパクトを持ち、情報やメッセージの核心を伝えることができる。新聞広告でしっかりとクリエーティブを固めておけば、あとはメディアに応じていくらでもアレンジがききます。つまり、コミュニケーション戦略における基軸、骨格になり得るもので、広告主もそれをふまえると広告展開がやりやすくなると思います。
――若手クリエーターに望むことは。
最近は新聞を読んでいない若者もいますが、広告制作者にそういう人がいるとすれば大変な問題ですね。読者の気持ちが分からなければ、真に心に届くメッセージなど作れないと思いますから。また、業界誌も含めたクリエーティブ界全体の流れとして、海外の広告賞を意識する傾向が強まっていて、アイデアが一風変わっていればいい、見た目が面白ければいい、というアプローチが増えている気がします。目立って新しいことをやったという達成感はあるかもしれませんが、納得できる言葉選びや文字の配列、日本語に合ったデザインなど、地味ながらも広告主や読者のためになる表現を突き詰めてこそコミュニケーション力のあるクリエーティブになるので、そこを見失ってほしくないと思います。
――朝日広告賞に今後期待することは。
クリエーティビティーのレベルアップのためには広告表現者の競争が必須で、朝日広告賞はとても重要な責任を負っています。2009年度から応募条件が緩やかになり、より多くの広告主が参加できるようになりましたが、今後も意欲のある企業にはどんどん門戸を開いて質の高い広告表現に光を当て続けてほしいと思います。
多摩美術大学グラフィックデザイン学科教授/アートディレクター
1944年愛知県生まれ。66年多摩美術大学卒業。スタンダード通信社、デザインオフィスナーク、J・W・トンプソンを経て、81年ウエーブ クリエーションを設立。おもな受賞歴に、東京アートディレクターズクラブ最高賞、日本経済新聞企業広告最高賞、日経流通新聞最高賞(4年連続)、消費者のためになった広告コンクールグランプリ、東京ADC会員最高賞、ACC賞 ほか多数。2009年、広告の教科書として『考えるデザイン』(美術出版社)を出版。