広告制作者、企業、読者、それぞれにとって意義のある朝日広告賞

 1978年から朝日広告賞審査委員を務める浅葉克己氏に、朝日広告賞の意義や最近の潮流、応募者に求めることなどについて聞いた。

 

グラフィックが重要な役割を果たしている、最近の応募作品

――これまでの朝日広告賞の意味や位置づけをどうとらえていますか。

 広告界ではクリエーターの登竜門ということで注目度が高く、また、広告は社会の窓、企業の窓ですから、企業にも大きな刺激を与えていると思います。特に「一般公募の部」に課題を出している企業にとって、若いクリエーターがその企業をどう見ているのかがわかりますし、企業活動に有利に働くこともあるでしょう。受賞作品は新聞紙上に載るので、読者にとってはどんな広告がいいクリエーティブなのか、目を養う機会にもなると思います。

――近年の応募作品の傾向をどのように見ていますか。

 一般公募の部は、見開き30段の大きな面積を使って、ビジュアルでメッセージを伝えるような作品が多くなってきています。小スペースでも伝えられるメッセージはあると思いますが……。
 ただ、全体的にデザインの質は高くなっていると感じますね。「広告主参加の部」も同様で、昔に比べ、グラフィックデザインが果たす役割が大きくなっているように思います。これからは、アートディレクションの中でグラフィックデザインの重要性が高まってくるのではないでしょうか。朝日新聞でも、アートディレクターがエディトリアルデザインを行う、デザインのクオリティーの高い「朝日新聞GLOBE」という紙面も登場したし、そういう傾向にあるんじゃないかと思います。

――「広告主参加の部」の最近の傾向はいかがでしょうか。

 内容に深みがなくなってきていて、もう少し言うべきことがあるんじゃないかと思うような広告が少なくないですね。一方で、毎年上位に残る企業は、宣伝部のレベルの高さや、経営者の考え方がしっかりしていることを感じます。

 

応募者は新聞を読み、観察し、手を動かす努力を

――メディアが多様化する中、新聞広告はどのような価値を追求していくべきだと思いますか。

 ただ情報を得たいということだけなら、インターネットでも事足ります。ただ、新聞広告は、文字の力でメッセージを深く届けられる媒体です。漢字と平仮名と片仮名でどう表現するか、合わせる絵はどうするか……。そこを決めるまでにドロドロとした葛藤(かっとう)が必要で、新聞広告を手がけるクリエーターは、漢文学者の白川静氏の仕事あたりから文字についての勉強をしたらいいのではないでしょうか。

――広告制作の過程において、どんなことが重要だと思いますか。

 コピーライターとデザイナーがとことん話し合って絞り出す「発想」、言葉と、写真やイラストレーションなどアートとの兼ね合いを見る「現場」、最終的にデザインを仕上げる「定着」、この3つがちゃんとそろっていなければ、いいものはできないというのが僕の持論です。

――「一般公募の部」に応募する若い人にはどんなことを求めますか。

 若い人には、もっと勉強しなさいと言いたいですね。伝統のある広告賞ですし、過去10年、20年をさかのぼって見るだけでも、淘汰(とうた)された表現、生き続けている表現など、いろいろ探せます。新聞を読むのは当然のことだし、本を読んだり、日々の事象を観察したりすることも大切です。そのなかで心に芽生えたものを、実際に手を動かして記録する。コピーライターなら原稿用紙に字を書く、デザイナーならスケッチブックに絵を描く、とういことです。ラフが描(か)けないのはイメージがないということです。苦しんで消したり書いたりする作業がなければ、新しい発想は生まれてこないと思います。実際、そういう努力がしのばれる作品がグランプリを取っていて、最近では、第55回のトンボ鉛筆、第56回の大関の作品などが印象に残っています。
 夏目漱石の『門』で、主人公が禅寺の老師の問いに対し、用意していた答えを言ったら、「もっと、ギロリとしたものを持って来なければ駄目だ」「そのくらいな事は少し学問をしたものなら誰でも云える」という一節がありますが、僕も、視覚的に、内容的に、さっぱりしていて、すっと通り過ぎてしまう作品ではなくて、「ギロリとした」作品を求めたいです。また、昔、「小学5年生でもわかるような広告じゃないとダメだ」と先輩に教わったことがありますが、わかりやすさも大切だと思います。
 

2006年度 一般公募の部 朝日広告賞 トンボ鉛筆による課題作品
日本デザインセンター 植松晶子氏

2007年度 一般公募の部 朝日広告賞 大関による課題作品 
電通 川腰和徳氏、栗田雅信氏
浅葉克己(あさば・かつみ)

アートディレクター

1940年神奈川県生まれ。桑沢デザイン研究所、ライトパブリシティを経て、1975年浅葉克己デザイン室を設立。サントリー、西武百貨店、日清食品、ミサワホーム等数々の広告を手がける。東京タイプディレクターズクラブ理事長として同クラブを運営する傍ら、アジアの多様な文字文化に着眼し、文字と視覚表現の関わりを追求している。東京ADC賞グランプリ、紫綬褒章など受章多数。東京TDC理事長、JAGDA理事、デザインアソシエーション会長、エンジン01文化戦略会議幹事、東京ADC委員、AGI(国際グラフィック連盟)日本代表。東京造形大学・京都精華大学客員教授、桑沢デザイン研究所 浅葉ゼミ講師。中国の象形文字「トンパ文字」に造詣(ぞうけい)が深い。卓球六段。