自分の原点である新聞広告の、未来に向けた役割を見つけたい

 来年2月に開かれる第58回朝日広告賞審査会で新しく審査委員に加わる岡田直也氏に、朝日広告賞の印象や役割、審査に向けた抱負などについて聞いた。

 

コピーを重視している賞。広告のあるべき姿を示す役割も

――審査委員に就任されたご感想は。

 僕は1980年にコピーライターとして仕事を始めましたが、当時の仕事は新聞を中心とする平面媒体が主流でした。ですから新聞広告は自分の原点ともいえる思い入れの深いメディアで、審査委員の依頼はとてもうれしかったです。毎年どんな作品が受賞するのか楽しみでしたから。

――どのようなことを期待していますか。

 来年の審査会に限っていえば、ウェブなど新しいメディアが台頭する中で、その影響が新聞広告に出ているのか出ていないのか、とても興味があります。もう一つは、金融危機の影響が、その後の広告に出ているのかいないのか。それらを包括的に眺めたうえで、未来に向けた新聞広告の役割、新しい芽を見つけられたらいいなと思います。

――朝日広告賞に抱いていた印象とは。

 時代性を見つめ、さらにコピーを重視してきた賞という印象があります。もっとも、近年はビジュアル重視の受賞作も多く見られますが、それは、映像メディアに慣れた読者の広告を見るスピードが速くなっていることをふまえたところもあるのでしょう。いずれにしても僕はコピーライターなので、朝日広告賞は気になる賞でした。TCC(東京コピーライターズクラブ)賞は業界の方々に評価された喜びがありますが、朝日広告賞の審査委員は、作家や大学教授など異業種の方もいるので、また違った価値を感じます。

――「広告主参加の部」の受賞作は、さまざまな企業へのメッセージになると考えていますか。

 それは大いにあると思います。有名タレントやキャラクターを使えばいいという安易な発想ではなく、光るアイデアがあり、コピーとビジュアルでメッセージをきちんと伝える。そうした広告のあるべき姿を追求し、広く示す役目を受賞作は負っていると思います。

――岡田さんは、「広告主参加の部」の受賞者でもあります。思い出深い作品は。

 数々のとしまえんの広告ですね。4月1日のエイプリルフールに掲載された「史上最低の遊園地。」や、バブル崩壊に伴って景気回復を祈るパロディーとして掲載された「祈景気回復」は思い出深いです。朝日新聞紙上に自分の名前が載ったときの感慨はひとしおでしたね。
 あとは、「私は、バリバリの『鬱』です。」というコピーを書いた塩野義製薬の治験広告。治験希望者を一般から募るという、当時としてはかつてなかった試みで、クライアントと1年がかりで作った広告でした。

1990年4月1日 朝刊 としまえん1990年4月1日 朝刊 としまえん
2000年1月29日 朝刊 塩野義製薬2000年1月29日 朝刊 塩野義製薬
1993年4月27日 夕刊 としまえん 1993年4月27日 夕刊 としまえん

 

審査基準は「クリエーターの視点」

――昨今の広告界の現状をどう見ていますか。それをふまえたうえで、審査会では何に注目していきますか。

 最近は、一時期さかんに言われていた「ブランディング」という言葉もかつてほど聞かなくなって、価格訴求を前面に押し出した広告が目につくようになってきていますよね。そうした中で、価格とは違う価値をきちんと訴求している広告、たとえばサントリーのプレミアムビールの広告やサッポロのヱビスビールの広告などを見るとうれしくなるんです。
 時代の閉塞(へいそく)感から、どの企業も冒険ができなくなってきていますが、そこに同調するのではなく、縮こまっている背筋を伸ばしてあげるのが広告制作者の使命ではないかと考えます。したがって審査も、そうした役割を制作者がちゃんと果たせているかどうかを見ていきたい。広告主の姿勢がすばらしいという審査基準もありますが、僕は「クリエーターの視点」を第一の審査基準にしたいと思っています。

――朝日広告賞の課題は。

 朝日広告賞は一般に開かれた賞で、業界向けのメディアにしか載らない広告賞とは違い、受賞作が朝日新聞紙上に載る。これはとても大きなことなので、今後も続けてほしいし、広告主に同賞の持つ波及力の大きさをもっと知ってもらえたらいいなと思います。

――「一般公募の部」に応募するクリエーターに期待していることは。

 クリエーターとしていかに技量を持っているか、いかに世の中の空気を反映しているか、いかに課題を提供した広告主の意図をくんでいるかといったことよりも、人と違った発想、個性を何より求めたいですね。

 

岡田直也(おかだ・なおや)

コピーライター、クリエーティブ・ディレクター

1955年生まれ。1980年東京大学文学部美術藝術学科を卒業後、博報堂に入社。2003年、岡田直也事務所を設立。広告制作・ブランディングから作詞・執筆・講演など、幅広く活動している。豊島園「プール冷えてます」「史上最低の遊園地」、西武百貨店「川崎事件」「ポスト・フダン」「池袋には、ファッションが足りない」、塩野義製薬「私は、バリバリの『鬱』です。」など代表作多数。