広告主は、「一般公募の部」受賞作品のアイデアを採用して世の中に刺激を

 宝島社や日本医師会の広告などで朝日広告賞の各賞を受賞し、2006年からは「一般公募の部」の審査委員を担当している前田知巳氏に、朝日広告賞の印象や、同賞への思いを聞いた。

 

ずっと注目してきた「広告主の部」の受賞作品

――「一般公募の部」に応募された経験はありますか。また、朝日広告賞にどのような印象を持っていましたか。

 新人のときに上司に言われて出したことはありますが、そもそも賞に応募することにあまり興味がなかったので(笑)、その一度きりです。ただ、受賞作品は毎年注目していて、特に「広告主の部」の上位はあこがれの対象でした。クリエーティブの質が粒ぞろいで、「しのぎを削る」という言葉にぴったりの賞だと思っていました。

――印象に残っている受賞作品は。

 歴史のある広告賞なので、さかのぼれば好きな広告はたくさん見つかりますが、リアルタイムで刺激を受けたのは、80年代後半から90年代半ばまでのサントリー「ジャック・ダニエル」、ラコステ、メルセデス・ベンツ、ボルボ……といった広告です。特に、安全ピンが車の形になっているボルボの広告には衝撃を受けました。それと、佐藤可士和がアートディレクションを手がけたSMAPの広告(2000年度)がグランプリを受賞した時、すごくうれしかったのを覚えています。既成の型にとらわれず新しい表現を選ぶ朝日広告賞はさすがだなと。あの広告は広告業界では話題になっていましたが、広く一般の人の目に触れる新聞社主催の賞があれを選んだことに感心しました。

朝日広告賞 「広告主参加の部」 グランプリ

1987年度 サントリー
1988年度 大沢商会(当時)ラコステ
1996年度 ボルボ・カーズ・ジャパン
1993年度 メルセデス・ベンツ日本
1994年度 メルセデス・ベンツ日本
2000年度 ビクターエンタテインメント

――「おじいちゃんにも、セックスを。」「ことし、子供をつくろう。」「国会議事堂は、解体。」「団塊は、資源です。」、別冊宝島のシリーズ広告など宝島社の広告や、日本医師会の広告など、数々の受賞歴をお持ちです。初めて最高賞を受賞した時のご感想、また、周囲の変化について、聞かせてください。

 最初に朝日広告賞をいただいたのは、「ことし、子供をつくろう。」「国会議事堂は、解体。」で、後者が幅広い層から反響があったのに対して、前者は圧倒的に女性からの反響が多い広告でした。受賞するなら後者だと思っていましたが、両方で受賞し、しかも前者のほうが評価が高かったと後で聞いて、やはり人の受け取り方というのは面白いなと思いました。
 周囲の反応で一番多かったのは、「最高賞まだ取ってなかったの?」という声でしたが、受賞は自信になりましたし、モチベーションも上がりました。また、得意先をはじめ友人や家族からも祝福の連絡があったりして、この賞は業界以外の多くの人にも目に留まるんだなということを再認識しました。

「広告主参加の部」 宝島社 受賞作品

1998年度 準朝日広告賞
2002年度 朝日広告賞
2002年度 朝日広告賞
2006年度 朝日広告賞

2004年度 準朝日広告賞「別冊宝島1000号達成広告3点シリーズ」

「広告主参加の部」 日本医師会 受賞作品

2003年度 特別賞
2006年度 準朝日広告賞

――一連の受賞作品は、広告主の明確な意志とクリエーターに対する信頼がいい広告を生み出すということを強く印象づけました。

 伝わるメッセージが世に出るかどうかは、ひとえに広告を「選ぶ」側の資質にかかっていると僕は思います。メッセージの主眼をどこに絞り込むかという度胸と判断力、無駄な要素を捨てる勇気……。実は受賞後、「宝島社の広告みたいな広告を作りたい」という頼まれ方をすることが多くなりました。宝島社の広告は、発信元がメディアだからできるたぐいのもので、表現が強烈であればいいというものでもない、と説明するのですが、そういう依頼をいただくことには励まされます。企業としてメッセージを発信することの重要性や、新聞広告の持つ発信力というものがちゃんと認識されているということですから。

 

クライアントが出稿したくなる広告を期待

――審査委員として見渡した応募作品の印象、また、審査会の印象は。

 予想はしていましたが、最初に審査に参加した時は、作品のレベルの高さに改めて驚きました。でも、全体的な印象としては、小型広告は別として、15段や30段の広告では、言葉がドーンと主役を張ったような作品が少ないなと。このことと「質が低い」というのはもちろん別のことだし、時代的なトレンドもあるかもしれませんが……。審査会は、審査委員同士が自由に意見をやり取りしながら進められるので、違った見方を聞いて作品に対する評価が変わったり、いろんな刺激があって楽しいですね。

――応募作品と、広告主が実際に出稿する広告の関係をどうご覧になりますか。

大関 小型広告シリーズ 大関 小型広告シリーズ

 一般公募の部で受賞した作品を、課題を出した広告主が実際に出稿するようになったらすばらしいと思うんです。「そうすると、応募者がクライアントの目を意識し過ぎて、振り切った作品が出てこなくなるんじゃないか」という考え方もありますが、そういう線引きをしている限り発展性はないと思うんですよ。それまでの広告スタイルとは違っていても、広告主が「これは使いたい!」と目を輝かせるようなものが提案され、出稿されれば、他の広告主も若手の制作者たちももっとインスパイアされていく。たとえば最高賞を受賞した大関の広告(第56回)は、実際の広告に使われましたが、それを見た時は広告主に拍手を送りたい気持ちでした。企業の皆さんもせっかく自ら課題を出しているんだから、そこまで上手に利用しないともったいなさ過ぎると思います。

――応募するクリエーターにメッセージをお願いします。

 広告主の思惑、表現の仕方に思いをはせるとともに、自分自身と正直に向き合うことが大事だと思います。たとえば車の広告を考えるということは、「あなたは車という存在をどう思いますか?」と問われているということ。表現とは、器用に料理すれば伝わる、というものでは決してない。自分の中にある思いと、広告主の思い、そして表現、この3つが合わさって化学変化して、はじめてコミュニケーションパワーになるということを、意識してほしいと思います。

――朝日広告賞へのご提言は。

 こういう時代だからこそ、この先もずっと続けてほしい、ということだけです。そして新聞広告が培ってきた伝える力とか文化を次世代につないでいってほしいですね。メディア全体の環境が変化する中、新聞広告はもはや効かない、で済ませるのは簡単です。でも逆に、やり方次第で他のメディアが到底及ばない効果を発揮する、と考えたほうが今こそ面白いし賢いと思う。そういう意味でも、話題となった広告が、実は朝日広告賞の受賞作品だった、という事例が広がっていったら最高なんですけどね。

前田知巳(まえだ・ともみ)

フューチャーテクスト コピーライター/クリエーティブディレクター

1988年博報堂入社。1999年同社を退社し、2001年フューチャーテクスト設立。主な仕事に、宝島社、シャープ、森ビル、キリンビール、日本医師会などの広告制作のほか、ユニクロをはじめ様々なブランドのコンセプトワークやネーミングを手がける。