広告賞への応募は、自分の仕事を検証する機会

 グラウンド代表でチーフ・クリエイティブディレクターの高松聡氏は、世界初の宇宙ステーションでの撮影となった大塚製薬ポカリスエットの「宇宙CM」、日清カップヌードルの「FREEDOM-PROJECT」などで、メディアや広告の枠を超えた新たなコミュニケーションを展開し、国際的に高い評価を得ている。海外の広告祭などで多くの受賞を手にした高松氏に、世界の広告祭や広告コミュニケーションの潮流、そこから見えてくる朝日広告賞についての考えを聞いた。

――世界の広告賞の潮流をどうご覧になりますか。

 カンヌ国際広告祭で1999年、媒体の活用手法を評価する「メディア部門」が創設されたことに象徴されるように、4マス媒体以外のメディアを使う広告やキャンペーンが、海外の大きな広告賞で評価されるようになりました。具体的には8年ほど前からその動きが強まったと思います。当初は、びっくりするようなメディアの使い方やアイデアを実現した事例が受賞していましたが、だんだん広告主も広告会社も冷静になってきたのか、それを果たして一体どれだけの人が見てくれたのか、どれだけの効果があったのかを考えるようになってきました。

 そこで、新しいメディアの活用に加え、インタラクティブ、さらにマス4媒体の価値を見直した上での活用によるキャンペーンが台頭してきました。新聞やテレビといったコンベンショナル(伝統的)なメディアを使ったアプローチと、ノンコンベンショナルなアプローチの両方を統合した形で一体何ができるのかが、広告主や広告会社が目指すべきゴールとなりました。2006年にはカンヌで統合キャンペーンを対象とした「チタニウム&インテグレーテッド部門」が創設され、広告賞としても統合型の事例が評価されるようになってきています。この部門は、いまやカンヌのフィナーレを飾るメーンアワードです。カンヌ以外のクリオ賞、アドフェストといった海外の大きな広告祭でも、インテグレーテッドな事例を評価する部門が重要な賞となっています。

 この2、3年で世界的に賞を取った主だったキャンペーンを見ても、CMや新聞広告1点が単体で評価されるというよりも、一つひとつのクリエーティブがいいことは前提の上で、キャンペーン全体としてどれだけ多くの人に届いたか、驚かせたか、効果があったかが評価されています。ようやくキャンペーン全体を総合的に評価する軸ができ、かつ、欧米を中心に広告会社の側も総合的に組み立てる力をつけてきた。それがここ数年の広告賞や広告の潮流だと見ています。

 

アイデア作りや表現の純粋さを大事に
「一般公募の部」へのチャレンジを

――高松さん自身、国際的な広告賞を多く受賞されています。受賞経験は、その後手がける仕事にどんな影響を与えていますか。

 僕にとっては、受賞よりも、広告賞に出品することの方が重要だと感じています。自分でいいと思っていて、クライアントからも世間からも評判がいいと、「いいキャンペーンだった」で終わってしまいがちです。しかし広告賞に出品すると、応募用紙に広告の目的、課題、それを解決するためのアイデアを書かなければならない。これは、自分の仕事を改めて整理し、評価し直す作業になります。そして、実際に広告祭に足を運ぶことで、どういう点は評価され、どんなところが評価されなかったのかを検証できます。正直、国際的な広告賞に出品するのは非常に面倒くさい作業なのですが、年に1回参加することで、そのときの自分の仕事に欠けているものやアドバンテージが見えてくる。さらに、世界の広告界における自分や自分の仕事がどういったポジションになるのかをニュートラルに確認することもできます。受賞はもちろんうれしいのですが、たとえ受賞しなくても 、その先の仕事には必ずいい影響をもたらしてくれています。

――朝日広告賞については、どのような印象をお持ちですか。

 個人的にとても好きな賞で、受賞作品は毎年チェックしています。「一般公募の部」は、若いクリエーターにとっては、昔も今もまさに「登竜門」でしょう。国際的な広告祭の潮流の話でも触れたとおり、実際のキャンペーンではインテグレーテッドキャンペーンが評価の中心になってきていますが、一方で、個々のメディアのクリエーティブが大事ということは変わっていない。特に一般公募の部は、「新聞広告」というひとつのルールの中でクリエーティビティーを競うというのが、新人クリエーターにとってとても良い場だと思います。

 実際の新聞広告は、特に日本では、あれもこれも言いたい、事業部の意見も入れなきゃいけない、問い合わせ先を入れる慣習になっている……など、色々な「不純物」が混ざりがちです。でも、一般公募の部の作品は、そうした不純物を入れなければならないというプレッシャーがなく、研ぎ澄まされたメッセージをどう伝えるかにフォーカスして作られているので、とても純粋。見ていてすがすがしいのはそのためだと思います。僕は、実は朝日広告賞の一般公募の受賞作品は、国際的にも通じる表現なんじゃないかと感じています。

 挑戦するクリエーターには、朝日広告賞に出品したときのアイデア作りや表現の純粋さを大事に、その後の広告づくりをしてほしい。また受賞した人は、「アイデアを作る力」だけではく「いいアイデアを人に理解してもらう力」、つまり、クライアントの宣伝部長などを説得するといったプレゼン力を身につけてほしいですね。さらに、新聞広告の可能性を示すためにも、クライアントや新聞社には、受賞した作品を実際の広告として出稿できる仕組みなどを検討してもらえたらと期待しています。

高松聡氏の代表的な仕事

2002年・2006年 「パブリック・ビューイング・イン・東京」 スカイパーフェクト・コミュニケーションズ(現スカパーJSAT)
国立競技場を借り切ってサッカーをバーチャル観戦したイベント。高松氏が実行委員長となり、FIFAとの契約や警察への協力要請、国会議員とのやり取りなどハードな交渉をこなした。会場は超満員に。

2005年 「goo」キャンペーン NTTレゾナント
新聞広告(左上 二連版30段)、大量の駅張りポスター、電車から、屋形船、ヘリコプターまでもメディアにしたキャンペーン。新聞広告は、2005年度朝日広告賞でグランプリに輝いた。
高松 聡(たかまつ・さとし)

グラウンド 代表/チーフ・クリエイティブディレクター

1963年栃木県生まれ。1986年筑波大学基礎工学類を卒業後、電通入社。営業局を経て、クリエーティブ局に転局。2005年にクリエイティブエージェンシー「ground」、宇宙映像制作会社「SPACE FILMS」を設立。主な仕事に、大塚製薬ポカリスエット「宇宙CM」、スカイパーフェクTV!(現スカパー!)、アディダス、NTTレゾナント「goo」、日清カップヌードル「NO BORDER」「FREEDOM」など。2003年「パブリック・ビューイング・イン東京」でカンヌ国際広告祭金賞(メディアライオン)、2006年「教えて!goo」で米国クリオ賞グランプリ、アドフェスト グランプリ、NY ADC賞ハイブリッド部門金賞など、受賞多数。従来の枠を超えた企画で国際的にも注目されている。