ソフトバンクのSmapのCMや、サントリーの「速水いまいちシリーズ」など、数々の話題のCMを手がける権八成裕氏。権八氏は、第47回・1998年度朝日広告賞第1部最高賞を受賞。宝島社の課題を扱った作品は、水道の蛇口をモチーフにユーモアのある視点で雑誌『別冊宝島』のキャラクターを表現し、評価された。当時の思いや、朝日広告賞を目指すクリエーターへのアドバイスを聞いた。
純粋にクリエーティブを追求できた貴重な経験
――「一般公募の部」に応募した動機は。また応募してよかったと思うことは。
当時は電通に勤めていましたが、朝日広告賞への応募は新入社員の必須課題でした。改めて振り返ると、なかなか得がたい機会だったと思います。まだ1年生でしたから実務での成果はなく、実務を重ねたら重ねたで、どうしてもスタッフやクライアントやタレントとの意見調整が生じます。純粋に自分の納得できるクリエーティブを追求できるチャンスは意外に少ないからこそ、あのときの経験は貴重でした。
――制作にかける意気込み、印象深い思い出は。
応募することに意義がある、とは全然思ってなくて(笑)、当時は超小生意気な若造だったので、やるからにはグランプリと最初から本気で思っていました。すいません(笑)。制作にあたっては、上司や先輩から過去の作品集を見て傾向と対策を勉強したほうがいいと促され、実際に作品集を何冊も集めました。でも正直あまり心動かされるものがなくて、見るのをやめてしまいました。そこからは模範解答がなくて苦しかったですが、一緒に制作したアートディレクターの渡辺裕文君と議論を尽くし、時にはケンカしながらアイデアを絞っていく作業はとてもスリリングで楽しかったですね。
――最高賞の知らせを受けた時の感想は。
渡辺君とも、自分たちの作品は、今までにないアイデアだと評価されるか、まったく無視されるか、どちらかだと話していました。実は、アイデアが完成した時、社内の先輩方に見せて回ったのですが、あまりにもみんなの意見が違うので、やっぱり途中でやめたんです。それに、力を出し切ったという充実感があって、今思うとほんっっとに生意気な話ですが、「審査委員にこのアイデアがわかるか、どうだ!」という気持ちでした。ですから知らせを聞いた時は、自分たちの感覚がダイレクトに評価された喜びがあって、自信になったというより、おぼろげながら思っていたものが確信に変わったという感じで、デスクで小さくガッツポーズ(笑)。
――コピーを入れない決断をしたのは権八さんだったとか。入社1年目ということで、「言葉で表現したい」という思いはなかったのでしょうか。
電通の規則で一応コピーライターという肩書きをもらっていましたが、もともとぼんやり映像をやりたいと思ってたくらいで、自分の書いたコピーで評価されたいみたいな欲はあまりなかったんです。ただ、過去の受賞作や他の広告賞でも評価されるコピーにどこか理屈っぽさを感じていて、理屈よりエモーショナルな部分で勝負したいという思いはありました。そのスタンスは今もあんまり変わっていません。映画でも本でも、感覚的に圧倒される作品が好きなので、広告制作者としてというより、僕の好みなのだと思います。
AD・C・P 渡辺裕文/AD・C 権八成裕
審査委員を試すくらいの気概で
――受賞後、どんな変化がありましたか。
受賞の翌年に部署異動があったのですが、「何か新しいことをしでかすんじゃないか」という目で見てもらえるようになった気がしました。まぁ、自意識過剰だったんですけど(笑)。でも当時は、早く仕事を任せてもらって自分のアイデアを世に出したいという焦りがあったので、社内で名前を覚えてもらえたことは大きかったし、「サブとしてチームに入らないか」という誘いも増えてうれしかったですね。調子に乗っていた自分がますます調子に乗ってしまった(笑)。
――応募する若手クリエーターへのメッセージをお願いします。
僕が言うのもおこがましいのですが、朝日広告賞は、常に新しいセンス、従来にない広告話法を求めている印象があります。ですから、過去の受賞作を参考にしたり、先輩の意見を聞いたりするよりも、自分の考えを妥協せず貫き、審査委員を試すくらいの気概で臨んだほうがいいのかなと……。それで落選しても、納得できると思うんですよね。
――課題選びのポイントは。また、広告主の目をどう意識したらいいと思いますか。
僕が宝島社の課題を選んだ時、実際に展開されている広告自体が面白く、いろんな表現を受け入れてくれそうな広告主なので激戦になる、やめたほうがいいという周囲の意見もありました。でも、いろんな感情を引き出してくれそうな広告主を選んだほうがアイデアがポンポン出ると思って選び、奏功しました。それと矛盾するようですが、今は、有名なのにちっとも刺激されない広告主をあえて選ぶのもありかな、なんて思います。
広告主については、勉強するにこしたことはないとは思いますが、実際にオリエンを受けるわけではありませんし、自分が広告主の事業やサービスをどう見ているかを第一に考えればいいのではないでしょうか。大事なのは、広告主の社会における役割を本質的にとらえる努力だと思います。
――現在、朝日広告賞をどうご覧になっていますか。また、改めて受賞作品をご覧になり、思うことは。
広告業界の注目度が高く、日常の広告の仕事と比較して評価したり、反発したり、少なからずクリエーターに影響を与えている賞だと思います。若手のみならず、ベテランになっても応募し続けている人もいて、脳みその違う筋肉が鍛えられ、“青い心”が刺激される賞なのかなとも思います。
そして、いま受賞作品を見ると、過去に評価された作品を否とし、新しい提案をするんだ!とかホントに周りに公言しながら制作に臨んだ日々が思い出され、当時の自分をほめてやりたいです(笑)。あと、なんかせつない(笑)。初心を忘れてはいけないと改めて思います。
シンガタ CMプランナー
1974年生まれ。慶応義塾大学環境情報学部卒業。電通に入社1年目で、朝日広告賞「一般公募の部」グランプリを受賞。2003年、電通を退社後、シンガタに所属。主な仕事に、サントリー ビタミンウォーター「速水いまいちシリーズ」「BLACK BOSSシリーズ」「BOSS SILKY BLACK ORCHESTRA」他、au「最後のメール」「Designers KDDI」、東京海上日動「Help!Smap!」、全日本空輸「SMAP沖縄の歌」「LIVE/中国/ANA」シリーズ、ドール「香取慎吾のJDoleマン」、明治乳業「明治おいしい牛乳シリーズ」立ち上げから数年間、“予想GUY”、ブラッド・ピット、武蔵丸、Smapなどを起用したソフトバンクモバイルの「COME ON !」CMなど多数。TCC最高新人賞、ACCベストプランナー賞他、国内外の受賞歴多数。SMAP楽曲の作詞なども担当。
朝日広告賞の応募方法や課題一覧など、詳細は朝日広告賞ウェブサイトhttp://www.asahi.com/aaa/
をご覧下さい。お問い合わせは、朝日広告賞事務局 TEL 03-5565-4561 まで。