あたりまえの日常に斬新な切り口を見つける

 第53回・2004年度朝日広告賞第1部グランプリを受賞した濱田雄史氏。ファミリーレストランの店頭に大学の合格実績を示す看板を掲げたアイデアは、「意外なようでいてリアリティーがある」などと賞賛された。応募の経緯や受賞後の変化などについて聞いた。

 

傾向分析と複数応募を繰り返し、ようやく受賞

――「一般公募の部」に応募した動機は。

 東急エージェンシーに入社して2年目の頃、会社の先輩に「この仕事を本気でやるなら、絶対に挑戦したほうがいい」と言われ、応募し始めました。最初の年は、適当に思いついたアイデアを出したのですが、全然だめで、たびたび受賞・入選している先輩に、どうしたら取れるのかと秘訣(ひけつ)を聞いてみました。先輩は、「方法はない。でも、確率は上げられる。1つは過去の受賞作の傾向を分析する。もう1つは、とにかく数を出す」と教えてくれました。そこで、過去30年分くらいの受賞作を徹底的に分析しました。
 

応募にあたり、過去30年分くらいの朝日広告賞受賞作を、コピーの束にして徹底的に分析した 応募にあたり、過去30年分くらいの朝日広告賞受賞作を、コピーの束にして徹底的に分析した

 数を出す、というのは当たり前の話ですが、なるほどと思い、2年目はがんばって13個出したところ、資生堂の「アウスレーゼ」を扱った作品で入選しました。ものすごくうれしかったのですが、「偶然かもしれない、次も絶対に取ってやる」という思いにかられて、次の年は別の新聞社の広告賞もあわせて合計40個くらい作りました。土日も含めて会社に寝泊まりして制作しましたが、朝日広告賞にはかすりもせず、相当落ち込みました。もう出すのをやめようかなとさえ思いましたが、やっぱり、この季節がやってくると作ってしまうんですね。さすがに数は減りましたが、2002年は10本、2003年は7本出しました。入選した2001年から70個くらい作ったのですが、結局取れずじまいで、もう取れないのかなと思い始めていた2004年。特に仕事が忙しく、1個も作れないかも、という状況でした。でもやっぱり、締め切り間際にどうしても気持ちがざわざわして・・・・・・。一緒に仕事をしていたアートディレクターの丸田さんに「1個だけでいいから作ろうよ!」とお願いし、仕事中に1時間だけブレストして作りました。それがグランプリをいただいたガストの作品です。
 

2001年度「一般公募の部」入選 資生堂の課題による作品

<アウスレーゼ トロッケン オーデコロン>2点シリーズ
CrD・C 濱田雄史/AD・D・P 松井直美


――受賞作の傾向を分析する中で見えてきたものとは。

 過去の作品を見たことでよかったのは、「過去には面白い作品がたくさんある。でも、これと同じものを作ったらダメなんだろうな」と、自分の作るものをチェックできたことだと思います。朝日広告賞の課題は消費者になじみのある商品やサービスが多く、見慣れたものにどんな価値があるのかを本質的に考え、今までにない表現を探す訓練ができたという気がします。受賞したガストの作品も、ファミリーレストランというみんなが知っているもので、普段、みんながなんとなく思っていることを、今までにないカタチで表現できたことが評価につながったと思いますし、そうしたアプローチは常々の仕事でも必要なことだと思っています。


――最高賞の知らせを受けた時の感想は。また、受賞後、どんな変化がありましたか。

 まさかグランプリを取れると思っていなかったので、会社で狂喜乱舞して、あまりのうるささに怒られました(笑)。
 以前勤めていた東急エージェンシーでは、通常の業務をやりつつ、仕事をしてみたいクライアントに売り込みに行ったりしていました。最高賞をいただいてからそれをネタに営業したところ、半年くらいしてあるクライアントさんから指名で仕事をいただき、まだ30歳でしたが、2つの商品に関してクリエーティブディレクター、コピーライター、プランナーをやらせていただきました。そこまで規模も予算も期待も大きい仕事を任されるのは初めてだったので、胃を痛めるほどプレッシャーを感じましたが、とてもいい広告を作ることができて、チャンスをくださったクライアントさんに感謝しています。また、電通に移った際も、受賞が大きな力になりました。いろんな意味で、人生を変えてくれた賞です。

2004年度「一般公募の部」グランプリ ガストの課題による作品

<もっと気軽に、もっと身近に、あなたの街のあなたのガスト>
C 濱田雄史/AD 丸田昌哉/P 三井 実


 

朝日広告賞は、僕の青春

――応募する若手クリエーターへのメッセージをお願いします。

 いろいろ他の業界を見ていると、力や才能があってもなかなか認めてもらえないことが多いと思うんです。一方、広告業界は、とてもフェアだなと僕は思います。どんな人でも、賞を取りさえすれば誰かが認めてくれ、仕事をもらえるきっかけになる。ですから、広告が好きな人、広告に対して志のある人は、ぜひ挑戦したほうがいいと思います。僕みたいに才能がなくても、しつこくあきらめずに努力すればむくわれることもある。入選しなくても、作ったものを尊敬する先輩に見せ、アドバイスをもらうだけで勉強になるし、自分がどういうポテンシャルを持つ制作者なのか、アピールにもなります。やって悪いことはないので、おすすめします。


――朝日広告賞に対し、今後期待することは。

 期待とは違うかもしれませんが、受賞作はすべてタダで出稿してみたら面白いのでは?と思います。それに対して、人気ランキングを作ってみたり、こういう面白い新聞広告に対して読者がどう反応するかをリポートしたり……。そうすれば、「こんな広告を作ってみたい」と触発される企業も増えるかもしれないし、広告がもっともっと面白くなりながら、より機能するようになるかもしれない。そうなったら、クライアントも、読者も、制作者も、みんなハッピーですよね。


――改めて、応募の意義をどう振り返りますか。

 当時は賞を取りたいという思いだけでしたが、振り返ると、企業や商品のことをとことん考える機会になりましたし、いい広告をたくさん見て勉強になりました。また、若い頃は現業で自分のアイデアを最終まで形にすることがなかなか難しいだけに、それをやり、いろいろな発見と反省ができたことは、自分の血となり骨になっていると思います。朝日広告賞は、一言でいうと、僕の青春でした。実はグランプリを取った次の年も挑戦したのですが、だめでした(笑)。ホンマに、難しいですね。
 今も朝日広告賞はワクワクしながら見ています。改めて受賞作品を見て、もう1回挑戦したくなってきました。やっぱり、広告って面白いですね。自分は広告が大好きなんだ、こんな楽しい仕事をできて幸せだと、再確認できました。ありがとうございました。

 
 

濱田雄史(はまだ・たけふみ)

電通 CMプランナー/コピーライター

1975年大阪府生まれ。1999年早稲田大学政治経済学部卒業後、東急エージェンシー入社。2007年、電通に中途入社。現在の主な仕事に、キヤノン「EOSKiss」、日本ハム「シャウエッセン」、NTTドコモ、日本マクドナルド。東急エージェンシー時代の主な仕事に、サントリー「ペプシ」「ゲータレード」、マルハペットフード、フマキラーなど。TCC部門賞、ACCシルバー、カンヌ国際広告祭シルバーなど国内外の受賞暦多数。

 
朝日広告賞の応募方法や課題一覧など、詳細は朝日広告賞ウェブサイトhttp://www.asahi.com/aaa/
をご覧下さい。お問い合わせは、朝日広告賞事務局 TEL 03-5565-4561 まで。