【寄稿】新聞閲読時間の長短と新聞広告への反応

1. はじめに

 このたび、「電通新聞広告イノベーション研究会」(注)に参加し、ビデオリサーチ社による大規模調査である全国新聞総合調査J-READのデータを用いて、新聞や新聞広告に関する読者の意識と新聞広告をみての反応について分析する機会を得た。その分析結果の一部は、日経広告研究所報掲載論文(「新聞・新聞広告に対する意識と新聞広告への反応に関する研究」、日経広告研究所報 267号)として発表したところである。詳細についてご関心のある方は当該論文をご覧いただければと思うが、その分析の中で、新聞閲読時間の長短によって、読者の新聞広告に関する意識が広告をみての反応に及ぼす効果に違いがある可能性があることが確認された。それでは、新聞閲読時間の長短によって、新聞広告への反応に差異が生じるのはどのような場合であろうか。こうした点についても分析を行ったが、当該論文では、紙幅の制約で掲載できなかったこともあり、本稿で紹介することとしたい。

2.どのようなデータを用いたか

 研究会の分析で用いたJ-READとは、一般紙をはじめ、スポーツ紙や夕刊紙も含む全113紙について、全国47都道府県の全域、満15-69歳の男女個人を対象にRDD(ランダム・デジット・ダイヤリング)法で標本抽出して行うものである。2001年度から行われており、今回は2011年に実施された第11回調査のデータ(有効標本数:28,859)を用いた。J-READは新聞の閲読状況から生活行動・消費実態までを捉えるもので、多様な分析が可能となる。今回は、主にふたつの項目を用いた。すなわち、「ふだんの平日、自宅内・外を問わず、新聞(朝夕刊)をどのくらい読むか」と「ここ1年間で新聞広告をみて行ったこと」のふたつである。

3.新聞閲読時間の長短が影響する場合は何か

 冒頭で言及した日経広告研究所報論文で、新聞閲読時間が10分未満の読者と30分以上の読者の間には、新聞や新聞広告に関する意識と新聞広告をみての反応の構造に差異がある可能性が確認されている。そこで、本稿では、これらふたつの閲読時間となっている読者を対象に、新聞広告をみて行ったことの割合を比較し、統計的な検定を行った。比率差の検定に当たっては、対象となる比率の高低の影響を制御するために、各比率に対して三角関数の逆関数を用いて角変換した値を用いた。また、効果量については、Cohen(1988, pp.179-213)に基づき、変換変数の差の2倍の値を用いた。結果は図に示す通りとなり、*印を付した項目が、統計的にみて両者のグループの間の比率に差異があると考えられるものである。

 まず、今回の結果で示された興味深いことのひとつは、新聞閲読時間の長短がすべての項目で広告を見ての反応率と対応しているわけではないことにある。例えば、広告をみて、百貨店、レジャー施設、映画館、飲食店に行ったかどうかについては、比較的反応率が高いにもかかわらず、新聞閲読時間の長短による差異があるとは言えない。次に、反応率に差のあるものをみると、「新聞広告をみて、本・雑誌を買いに行った」項目の場合に差異の幅が大きいことがわかる。これについては、平日の新聞閲読時間が30分超と長い読者の場合、活字メディアに慣れている、または、依存度が高いことがひとつの要因として考えられる。そのほかの*印のついた項目についてみると、観光地・レジャー施設、地元の催し・イベント、新聞社の催しに行ったというものがある。例えば、季節的な行事など季節に左右されることから、時間をかけて新聞を読む読者ほど、新聞記事と実際の行動が結びつきやすくなるということが考えられる。

4.まとめ

 本稿では、J-READに基づいて、新聞閲読時間の長短と新聞広告をみての反応の差異について分析した内容を簡単にご報告した。今回の分析では、広告をみての反応の項目によって、差異が認められる場合とそうでない場合があることが確認された。

 いわゆる、メディアエンゲージメントといわれる研究では、消費者が広告によって受ける影響は、広告そのものだけではなく、新聞やテレビなどの広告を伝える媒体が消費者とどのような結びつきをもっているかによって異なると指摘されている。これらの媒体は、広告にとって単なる伝達手段にとどまるのではなく、媒体の持つ文脈が広告に影響を与える。媒体がどのようなものであるかが、消費者の広告に対する反応を変え得ることを踏まえると、読者が持つ、メディアである新聞に関する意識、新聞広告に関する意識、そして、それらの意識と新聞広告をみての反応との関係を明らかにすることは重要である。J-READという長期かつ大規模なデータの蓄積を活用して、こうした関係をさらに科学的に検証し、解明することが期待される。

(注)電通新聞広告イノベーション研究会
田中秀幸(東京大学)、林香里(東京大学)、喩静媛(東京大学)
北原利行(電通)、有賀勝(電通)、榊原理恵(電通)

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図. 項目別にみた接触時間による反応率の差の比較

図. 項目別にみた接触時間による反応率の差の比較