震災後もマスメディアへの接触状況に変化なし スマートフォンのメディアとしての存在感が上昇

 博報堂DYメディアパートナーズのメディア環境研究所は、生活者のメディア接触の現状を分析する「メディア定点調査」を毎年実施している。最近発表された今年の調査で特に注目すべき結果について、主任研究員の中杉啓秋氏に解説してもらった。

スマートフォンの普及でモバイルからのネット接触が急増

中杉啓秋氏 中杉啓秋氏

――調査の概要、ねらいについて聞かせてください。

 メディアのデジタル化で、次々と登場する「ハードウエア」や「そこに提供されるサービス」について、生活者のメディア接触の実態を把握し、広告メディア市場形成の「兆し」を発見しようという目的で、2004年から継続している定点調査です。東京都、大阪府、愛知県、高知県の4エリアに住む15歳から69歳の男女に対して毎年2月に郵送調査で行っています。

――全体のメディア接触時間について聞かせてください。

※画像は拡大します。

 東京地区の調査結果によると、生活者のマス4媒体とインターネット2媒体(パソコン、携帯電話*スマートフォン含む)を合わせた1日のメディア接触時間は、5時間51分(週平均)でした。2010年から大きな増減はなく、1日のメディア接触時間は生活時間の中ですでに飽和状態になっていると推定されます。昨年は、東日本大震災、地上デジタル放送への完全移行などがありましたが、その影響は特に見られません。

――今回の調査結果で特徴的だったことは。

 やはりスマートフォンの普及と、それに伴ってモバイルからのインターネット接触が急速に増加したことです。
  スマートフォンの所有状況は、この1年で東京で約2倍、愛知、高知で2倍以上、大阪については3倍以上という高い伸びを示しました。性・年齢別では、東京地区は男性の20代と30代、女性の20代においては所有率が約6割。若い世代では、半数以上がスマートフォンを持つようになったようです。一方、60代については男女とも2%以下と、まだほとんどの人が使っていない状況がうかがえます。

 ここ数年、パソコン、携帯電話(スマートフォン含む)からのインターネット時間が増加してきましたが、今回の調査では携帯電話からのネット接触時間がかなり増えました。08年からの4年間で2倍以上に増えています。そして、これまでは10代女性の接触が高い傾向にあったのですが、10~40代男女の幅広い層で時間が長くなっています。パソコンからのインターネット時間に若干の減少の兆しが見られることからも、スマートフォンの普及によってモバイルでのネット接触にシフトしていることがうかがえます。

 ソーシャルメディアの利用時間も増加しており、男女10~30代で利用時間が長い、という結果になりました。特に東京地区での利用が高く、地方に行くほど少ないという結果になっています。急速に利用者が増えているソーシャルメディアですが、主に東京で利用されているサービスということが明らかになりました。また、ソーシャルメディアを使いながらテレビ番組を見るといった行動も増えており、今後、スマートフォンの普及によるネットメディアと既存メディアの組み合わせがさらに重要になってくるものと考えられます。

若い層はネット、シニアはマス情報経路は年代によって異なる傾向

――マス4媒体への接触状況などで注目すべき点はありましたか。

 60代は、テレビ、ラジオ、新聞に非常に長く接触していて、シニアの情報摂取経路は依然マスメディアが強いようです。一方、10、20代の若い世代は、マス4媒体を合計した時間よりも、ネットに接触している時間の方が長くなっています。メディア接触とデジタルメディアのサービスの利用経験は性・年齢によって大きく異なり、その傾向がより顕著になっているように感じました。

 また、マス4媒体とPC、携帯電話のメディアイメージの調査も行いました。新聞は「情報が信頼できる」「情報が幅広い」「役立つ情報が多い」というイメージを持たれていますが、この数値が若干減少する傾向にあります。これは、スマートフォンの普及などによりインターネットからニュースなどをチェックする人が増えており、ネットからの情報収集が増えたことで、イメージ構造の変化が生じているということなのでは、と推測します。ただし、新聞に「ポリシーやメッセージを感じる」という項目は増える傾向があります。近年、新聞各社が独自のカラーを出すようになっており、それが反映されたのではないでしょうか。
  スマートフォンについては、今後ますますメディアとしての存在が注目されていくのではないかと思われます。

「メディア定点調査・2012」
■調査目的:メディア環境の変化に伴い、既存のメディア、新しく出現した メディアのライフステージを定点観測(俯瞰)し、市場形成の兆しを発見すること。
■調査地区:東京都・大阪府・愛知県・高知県
■調査対象者:15~69歳男女
■調査方法:郵送調査法
■標本抽出方法:RDD(Random Digit Dialing)
■標本構成:2651サンプル(東京659、大阪666、愛知676、高知650)2011年度住民基本台帳に基づき性・年代でウエイトバックを実施
■調査期間:2012年2月3日(金)~2月16日(木)
■調査実施機関:㈱ビデオリサーチ