【2011年全国メディア接触・評価調査】子どもからシニアまで、高まる新聞への期待

 日本新聞協会が、「2011年全国メディア接触・評価調査」の結果を発表した。今回のトピックスは、「震災後の新聞の印象・評価」「70歳代の生活実態、消費意欲」「子ども向け新聞の評価」の3点。調査を監修した慶應義塾大学商学部教授の清水 聰氏に、調査結果のポイントについて聞いた。

震災後、新聞の詳報性や信頼性への評価ポイントが上昇

──「震災後の新聞の印象・評価」の調査結果のポイントは。

清水聰氏 清水 聰氏

 新聞に対する評価は近年伸び悩んでいましたが、今回の調査では全体的に上がり、特に「情報が詳しい」「情報の信頼性が高い」といった項目で大きくポイントが伸びました。この2つの項目は、NHKも伸びています。震災後、人々があらゆる情報を取ろうとする中で、「本当に大切なことを伝えているメディアは何か」ということを、改めて見つめ直した結果ではないかと思います。

 また、青森、岩手、宮城、秋田、山形、福島の東北6県で、76.9%の人が、「新聞は地域に密着していると感じた」と回答しています。震災直後はどのメディアも被災状況などを詳しく報道しましたが、時間経過につれて減っていきました。そうした中でも新聞が東北の情報をフォローしていたことの表れだと思います。また、「新聞の情報は正確だと感じた」「新聞の役割を再認識した」「これまでより、新聞をよく読むようになった」「自分にとって、新聞の存在感が増した」などの項目においても東北の評価が全国を上回りました。(グラフ 報告書P8、9)

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図1 震災後の新聞の印象・評価 図1 震災後の新聞の印象・評価
図2 震災後の新聞の印象・評価(全国/東北) 図2 震災後の新聞の印象・評価(全国/東北)

 「新聞は世論を形成する力があると感じた」という評価も、全国で62.7%、東北で68.2%と高いスコアでした。「2009年全国メディア接触・評価調査」で、「ベースメディア」という観点からの結果分析を行い、新聞とネットの両方から情報を得ている人に、情報感度や世帯年収が高い傾向が見られましたが、そのことと無関係ではないと思います。情報の間口の広さは新聞、奥行きの深さはネットがそれぞれ得意としており、両方をベースメディアとしている人が、世論形成の大きな一翼を担っているのではないでしょうか。

──「70歳代の生活実態、消費意欲」の調査結果のポイントは。

 これまで70歳代以上は、「あまり消費をしない」と見なされ、調査対象とされませんでしたが、今回の結果から、旺盛な消費意欲がうかがえました。約4割が「買い物やショッピングが好きで、よく出歩く」、約3割が「興味や関心のあることについては積極的に調べる」「旅行によくでかける」と回答しています。
  また、70歳代は、新聞をくまなく読んでいる人が多いこともわかりました。「社会奉仕、ボランティア活動をしている」と回答した人の割合が50歳、60歳代を上回るなど、知的好奇心が高く、社会活動にも積極的です。今のシニア層は、若い頃は「太陽族」などと呼ばれ、消費や遊びを経験している人たちです。シニア層が社会との接点を感じられるような仕掛けや、活動意欲を引き出すような記事や広告が期待されます。(グラフ 報告書P11)

表1 50歳代以上の生活実態、消費意欲 表1 50歳代以上の生活実態、消費意欲
図3 各メディアに接触している人の割合 図3 各メディアに接触している人の割合

──「子ども向け新聞の評価について」の調査結果のポイントは。

 小学校における新聞の活用について「よいことだと思う」という回答が87.0%にのぼり、子どもの頃から新聞を読む習慣を肯定的にとらえる人が大半であることがわかりました。受験対策として「天声人語」を読む学生は昔からいましたが、最近は入試に出題される内容が時事問題全般に及んでいるため、積極的に子どもに新聞を読ませようとする親も増えています。
  その一方で、新聞に接触している人の割合が、20歳代、30歳代で減り、代わりにネットの接触率が増えています。子どもの頃に新聞を読む習慣がないと、大学生や社会人になっても「ネットで充分」ということになってしまうのではないかと思います。

──調査全体を通して、特に印象的だった結果は。

 まず、メディアに接触している人の割合を見ると、新聞は87.3%とテレビに次いで相変わらず高い数字が出ています。年代別では、新聞の接触者の割合は年代が上がるごとに高くなっています。閲読頻度で見ても、朝刊を毎日読む人が70%と、身近で習慣性のあるメディアであることがわかります。

 また、新聞の記事内容を、政治、経済、スポーツ、テレビ欄、生活面など全部で29に分け、どこを読んでいるのかを答えてもらいました。そのうち回答の多い20の記事を、読み方の類似性から「主要ニュース」「社会ニュース」「暮らし情報」「趣味・トレンド情報」の4ジャンルに分類し、読み方の違いを見ていきました。(グラフ 報告書P4)

図4 「読んでいる記事」別の読者分布(年代)

図4 「読んでいる記事」別の読者分布(年代)

 閲覧者の30%がほぼすべての面をまんべんなく読んでいますが、残りの70%はそうではありませんでした。まんべんなく読む人が50歳以上で70%を占め、社会ニュースしか読まない人が40歳以下で70%を占める、といったことも明らかになりました。性別では、主要ニュースを読む層に男性が多いのに対して、読まない層に女性が多い傾向が見られました。職業で比べても、常勤者、専業主婦、学生、無職などによって読む記事にバラつきがありました。つまり、年齢や性別、職業によって新聞の読み方は異なっており、広告出稿においてターゲットをしぼりやすいメディアであることがわかりました。

 ヤフーやグーグルなど検索サイトのニュースの発信元が報道機関であることを認識している人が、ネット利用者のうち58.5%もいることにも驚かされました。さらに、インターネットで情報発信する際、参考にしたことがある情報源として、新聞と新聞社のニュースサイトが合わせて26%にのぼりました。ソーシャルメディアの発達によって新聞の存在感が薄れるのではないかとささやかれますが、共存できることの証明だと思います。

デジタル時代、アーカイブが新聞の可能性を広げる

──調査結果から、新聞を「キュレーションメディア」と位置づけできるのではないかという視点も生まれました。

 キュレーションとは、情報を収集し、ある視点のもとで分類し、新しい価値を持たせて共有することをいいます。そういう意味からすると、フェイスブックも一つのキュレーションメディアです。人々がフェイスブックから得ているのは、自分が信用する人物が発信した情報や、「いいね!」とクリックした情報です。これと差別化できる新聞の強みは、今回の調査結果に見られる「情報の信頼性が高い」「情報が整理されている」「バランスよく情報が得られる」「情報の重要度がよくわかる」といったことだと思います。さらに、アーカイブ、すなわち過去の記事が、新聞の発展の大きなカギを握るのではないかと思っています。

 新聞のアーカイブの有効活用については、ネット上で実現できると思います。近い将来、ビジネスマンが通勤電車で読む情報は、紙の新聞からスマートフォン上のデジタル新聞へと移行していくでしょう。新しいデバイスの普及は、新聞にとってピンチではなく、むしろチャンスです。スマートフォンの待受画面に、グーグルやヤフーではなく、デジタル新聞のトップページをすえる人が増えるかもしれません。ただ、今日の紙面をPDFで載せるだけではダメで、本日の記事から関連記事を過去にさかのぼって見られるアーカイブ機能を充実させることができれば、ほかのメディアにはない際立った個性になると思います。

──紙の新聞の可能性については、どのように考えますか。

 今回の調査結果で、平日の朝刊が読まれる時間帯は、7時台にピークがあり、20時台にも2つ目のピークがあることがわかりました。朝刊を夜に読んでいる人は、速報性ではなく、ニュースの社会的背景や論説や社説をじっくり読んでいると想像できます。記事に深い関心があれば、紙面をずっと取っておくこともあるでしょう。一方、ネットの情報は、ある程度の時間が経過すると消されてしまいます。保存して詳しい情報をじっくり読めるという意味では、紙の新聞の優位性は歴然とあると思います。

 読者としてリクエストすると、スクラップで切り抜いたときに記事がA4サイズに収まるように紙面構成してほしいですね。新聞をスクラップしている人は多いので、そうしたちょっとしたことに配慮があるとうれしいですね。
  また、健康に関する記事の裏を返してみたら製薬会社の広告が入っているとか、美術に関する記事の裏に美術館の広告が入っているとか、切り抜いたときに表裏で関連した情報を得られるような工夫があっても面白いかなと思います。

──新聞広告に期待することは。

 新聞広告は読者を感動させることができると思っています。私も一読者として新聞広告から感動を受けることがよくあります。例えば、一昨年、IHIグループが、小惑星探査機「はやぶさ」が地球に還ってきた直後の写真を展開して同社の技術を紹介した広告や、同じ年に東芝が、LED電球に移行するため、一般白熱電球の製造を停止した工場の光景を写し出した広告を見たときの感動は今でも覚えています。
新聞広告のキーポイントは、ニュースと連動しながら、いかに「感動」を提供できるか、ではないでしょうか。

清水 聰(しみず あきら)

慶應義塾大学 商学部教授

1986年、慶應義塾大学商学部卒。1991年、慶應義塾大学大学院商学研究科博士課程単位取得。博士(商学)。明治学院大学経済学部教授を経て、2009年から慶應義塾大学商学部教授。日本商業学会 学会誌「流通研究」編集長、日本消費者行動研究学会理事。主な著書に『新しい消費者行動』『消費者視点の小売戦略』『戦略的消費者行動論』(すべて千倉書房)。

Information

「2011年全国メディア接触・評価調査」

 日本新聞協会では、「2011年全国メディア接触・評価調査」の結果をまとめた報告書と小冊子「新聞は究極のキュレーションメディア」を発行した。「全国メディア接触・評価調査」は、全国の男女個人を対象に、2001年から隔年で実施している調査。今回から調査対象を70歳代まで拡大し、新聞、テレビ、ラジオ、雑誌、インターネットの5メディアへの接触や評価を調べた。

【お問い合わせ】日本新聞協会 広告担当 03-3591-4407

※「2011年全国メディア接触・評価調査」の報告書・小冊子は日本新聞協会のウェブサイトでPDFをダウンロードすることができます