J-MONITOR連絡協議会 議長 産経新聞東京本社 営業局 開発二部部長 鵜澤裕子氏
J-MONITOR連絡協議会 広報幹事 読売新聞東京本社 広告局 マーケティング戦略部次長 国友美江氏
J-MONITOR連絡協議会 連絡会議担当幹事 朝日新聞東京本社 広告局 業務推進部次長 遠藤真也
「広告効果の客観的データがない」という広告主の声に、メディアの中で最初に取り組んだのが新聞だ。新聞広告共通調査プラットフォーム「J-MONITOR(ジェイ・モニター)」がスタートして1年。これまでの広告効果指標作りへの取り組みと今後の活動について、今年4月に設立された「J-MONITOR連絡協議会」の三役に聞いた。
——「J-MONITOR」をスタートさせた経緯からお聞かせください。
鵜澤 広告を取り巻く環境が大きく変わる中で、日本アドバタイザーズ協会(JAA)から「新聞には効果データがない」と長年言われ続けてきましたが、新聞業界として回答が出せない状況が続いていました。そこで2009年10月に全国紙5紙の広告局長が集まり、まずは研究会という形で共通の広告効果を測るにはどうしたらいいか現場レベルで検討してみようということになったのです。それを受けて発足したのが「新聞広告効果指標研究会」です。朝日新聞、毎日新聞、読売新聞、日本経済新聞、産経新聞、それから広告会社として電通、博報堂DYメディアパートナーズの7社から主に調査にかかわる部署のメンバーが集まって、1回目の会合がその年の11月に開かれました。最初は何から手を付けていいかわからない状況だったのですが、会議を重ねていくにしたがって、共通のプラットフォームを作って、同じ土俵で調査データを比較できるような仕組みを作ってみようということになったのです。
方向が決まった2010年3月、調査会社の選定を行い、最終的に選ばれたビデオリサーチにも、そこから研究会に参加してもらい、プラットフォームの実現に向けて準備を進めました。
それまで各社個々に実施していた掲載広告の広告効果調査があったのですが、それらと比較するため新しく想定している調査設計でのパイロット調査を実施したのが、2010年10月です。各社がそれまで実施していた調査とそれほど差異もなく、実行が可能という結論が得られたので、2011年4月から新聞広告共通調査プラットフォーム「J-MONITOR」という名称でスタートしたというのが経緯です。
——「J-MONITOR連絡協議会」をこの4月に設立したということですが。
鵜澤 これまで「新聞広告効果指標研究会」という名称で活動を続けてきたのですが、運用から1年を経て、中日新聞、神戸新聞が新たに加わり、参加新聞社は7社8紙、エリアも首都圏、近畿圏、中京圏、福岡県の4エリアに拡大しました。これを機に「研究会」は発展的に解消し、今年4月から「J-MONITOR連絡協議会」として、共通プラットフォームの運営を行うことにしたのです。協議会の運営は議長、広報幹事、連絡会議担当幹事の三役が中心になって行います。初年度は議長役として産経新聞の私が、そして読売新聞の国友さんが広報幹事、それから「連絡会議」という調査の仕様やシステムに関して現場レベルの調整をする会議があるのですが、その連絡会議担当幹事が朝日新聞の遠藤さん、この三人が今年度の「J-MONITOR連絡協議会」の三役を務めることになっています。
データの客観性を生む仕組み
——共通プラットフォーム実現には、困難もあったと思うのですが。
国友 J-MONITORができるまで、新聞広告の客観指標が欲しいという広告主の要望に対して新聞社が主張していたことは、「それぞれの新聞社がきちんとした調査設計の広告反響調査システムを持っているのだから、それでいいだろう」ということです。一方、広告主側の主張は、「各新聞社の効果調査を横並びに比較できないのだったら、それはあるとは言えない」。そこが食い違っていたわけです。各紙の広告反響調査システムを共通化するためには、それまで各紙がやってきた調査を変えなくてはいけないし、蓄積してきたデータも継続性がなくなってしまいます。それが、各紙がデータの共通化に踏み切れなかった大きな理由だったのです。ところが、2009年10月に改めてJAAから新聞広告の客観指標を作って欲しいという強い要請があり、それが共通プラットフォームを作る後押しになったと思います。
もう一つは、J-MONITORの仕組みを各社の合意を得やすいものにしたことです。J-MONITORには二つの調査データがあります。一つは「定期調査」で、新聞の面別接触率と広告接触率をそれぞれ年間24回調査していくものです。これは、広告計画を行う時の基礎データになる調査です。それとは別に、新聞に出稿した個々の広告の反響調査ができる「個別調査」があり、これも「定型調査」と「カスタム調査」の2種類行える仕組みにしました。掲載された広告の反響調査を行って、それを広告主にフィードバックすることは、J-MONITOR以前から各新聞社が実施していて、従来からニーズが高かったので、それは引き続きできるようにしたのです。
一方でデータの共通化を図り基礎データの蓄積を行いながら、個別調査で新聞社の営業ニーズにも応えたところが、J-MONITORへの移行を各紙がスムーズに行えた理由だと思っています。
——共通プラットフォームの意義については、どう考えていますか。
遠藤 一番大きいと思うのは、データに客観性を持たせられたことです。それまで各紙がそれぞれ行っていた広告接触率調査や反響調査が共通プラットフォームになったことで、客観的なデータとして広告主から受け止められるようになったと思います。それから、調査設計が共通化されることによって、新聞社間の比較が簡単にできるようになったことも、共通化のメリットだと思います。
これまでは、モニターの募集方法や掲載された広告の調査時期も各社まちまちで、横並びの比較ができなかったのですが、J-MONITORでは調査設計が統一されています。例えば、広告はすべて掲載日の翌日0時から24時の間に調査します。モニター募集は、それぞれの新聞社の紙面で行いますが、告知には共通の広告原稿を使っています。また、モニター管理や実査は第三者機関であるビデオリサーチが一元的に行います。可能な限りデータの客観性を保つ仕組みにしています。
データに客観性が生まれたことで、広告接触率の平均値と個別広告との比較や複数回出稿した時の時系列の比較にも信頼性が生まれ、メディアプランニングにも有効に使えるデータになったと思います。
鵜澤 面別、広告接触率は昨年度の1年間でそれぞれ8000件を調べています。新聞社共同の調査の力だと思いますが、自社で独自に調査することは既に考えられなくなっています。それから、J-MONITORの仕様作りに当たっては、特に朝日新聞と読売新聞が何十年にわたって蓄積してきたノウハウを包み隠さず公開してくれたことが、実現に結びついたと思います。最初の半年は各社仕様をすり合わせるためにかなり激しい議論があったのも事実なんですね。
国友 確かに、モニター募集を新聞広告による公募にするのかエリアごとの無作為抽出にするのか、実査開始を掲載当日中にすべきだなど、意見のぶつかり合いはありました。調査の理想と現実性の両面から共通の調査設計に落とし込むために、そのように議論を尽くすことは必要だったと思いますね。
共同調査にもPR力が
——J-MONITORでは共同調査も実施していますね。
国友 実は最初はJ-MONITOR開始の告知PRの次善の策として実施したのです。スタートは昨年4月ですが、震災直後でPRどころではなくなってしまったので、4月末に「共同調査」という形で「震災・原発事故によるメディア・情報源の重要度変化」を調査し、J-MONITORスタートの告知を兼ねてリリースしました。震災で重要度が増したのは新聞とNHKという結果でしたが、この調査は主体の一般紙だけでなく業界紙でも数多く取り上げられました。また、震災後約半年のタイミングでもあった、9月1日の防災の日に合わせて「5紙共同防災意識調査」を行い、広く報じられました。これまで広告局で自主的に行った調査をニュースリリースにしても、それが記事として取り上げられることはほとんどなかったので、新聞社が共同で行った調査はPR力が違うことを実感しましたね。
鵜澤 共同調査は広告主にも評価を得ていますし、今後も継続して行う予定で、今年度のテーマを今、検討しているところです。
どういう価値が生まれたのか
——共通プラットフォームになって大きく変わったことは何でしょうか。
遠藤 掲載広告の個別調査を行って継続的にデータを取っておこうという意識が、広告主だけでなく、広告局の営業担当にも高まりました。新聞には客観的な効果データがないということで、メディアプランニングに加えられないケースもあるのですが、広告効果をきちんと押さえていくことは、もう一度新聞広告が注目されるきっかけになると思います。
鵜澤 産経新聞では、J-MONITORに参加することで非常に簡単に掲載広告の効果調査が行えるようになり、営業担当もデータを積極的に活用するようになりました。特に、全国紙に同時掲載する広告は比較のために個別調査を使うケースが増えていますね。
国友 J-MONITOR連絡協議会には、電通と博報堂DYメディアパートナーズも参加していますから、広告会社の立場として、いくつか要望も出ています。今のJ-MONITORの仕組みでは、個別調査の依頼は各新聞社に行うことになっていますが、全国紙同時掲載の場合は、窓口を一つにできないかというのも要望の一つです。それから、個別調査の「カスタム調査」の集計だけは各社独自に行っているのですが、それも共通の集計ができないかという要望が出てきています。
個別調査は各新聞社の営業的な観点で実施しているので、窓口を一元化してしまうと各新聞社の営業判断が入らなくなってしまう。そのへんは今後の検討課題だと思っています。逆に言えば、それはJ-MONITORが実際に使われているから出てくる要望だと思っていますが。
遠藤 調査のプラットフォームやフォーマットが一緒というのは細かいことのように思えるかもしれませんが、実際にやってみると重要性がわかります。新聞社の営業からすると、各紙比較されるわけですから仕事は今までよりシビアになったと思いますが、それ以上に、新聞全体として共通プラットフォームを持つメリットの方が大きい。それがどんな議論の時も忘れてならない点だと思いますね。
J-MONITORをどう活用するか
——広告会社にJ-MONITORを活用してもらうことも、今後は重要になると思うのですが。
遠藤 研究会の頃から電通、博報堂DYメディアパートナーズに加わってもらったことも画期的だったと思いますが、今後の取り組みについては、広告主だけでなく、広告会社のフィードバックをもらいながら進めていくことも大事だと思いますね。
それから、J-MONITORを広告会社にも積極的に使ってもらいたいということで、広告会社向けに面別接触率、広告接触率の定期調査で蓄積したデータをメディアプランに活用いただけるよう有料での販売も始まりました。ASP(注)を利用して平均値が出せるものから、広告主別の集計後のローデータ、個票レベルのローデータの三つのパターンを考えています。
(注)Application Service Provider:ビジネス用アプリケーションソフトをインターネットを通じて顧客に提供する事業者(方法)国友 今は掲載した広告を定型調査にかけ、その結果をクライアントに報告するという使い方が多いと思うのですが、データがかなりのスピードで蓄積してきているので、その有効な使い方もあると思います。面別接触率、広告接触率をどう使ったら新聞のデータとしてもっと活用が広がるのか。ぜひ広告会社からもお知恵をいただきたいと思います。
——協議会は、今後どのような活動を予定しているのでしょうか。
鵜澤 協議会になってから年間スケジュールを立てています。直近のスケジュールでは、6月25日に地方新聞社向けの説明会を行います。J-MONITORの参加社をさらに拡大するのが目的で、「J-MONITORとは何か」という基礎的なことから、1年間の活動実績と具体的な活用事例を交えながら、わかりやすい説明会にしようと考えています。それからJ-MONITORの1周年記念パーティーを7月10日に広告主をご招待して開催します。セミナーと懇親会という形になります。秋には広告主の実務レベルの方を対象に活用事例を紹介するセミナーも予定しています。
——J-MONITORに対する広告主の認知は、どのくらい進んでいるのでしょうか。
国友 J-MONITORがスタートして一周年ということで、広告主アンケートを実施したのですが、200社にお願いして80社から回答をいただきました。「内容まで知っている」が47.5%、「名前は聞いたことがある」が16.3%と、合わせて6割強の認知がありました。この6割のうち、定期調査の利用経験が45%、個別調査の利用経験が54.9%という結果でした。まだPRの余地がありますね。
J-MONITORは確かにうまく回り始めていますが、研究会から協議会に変わったことで、その役割も変わっていくべきだと考えています。単に共通プラットフォームの運営組織にとどまるのではなくて、今後はJ-MONITORを使って新聞のPRを新聞社横断的に考える場に発展させていかなくてはと思っています。