デ・キリコの世界に没入
デ・キリコ(Giorgio de Chirico)は20世紀に活躍したイタリア人画家。後のシュールレアリスムに大きな影響を与えたと言われる「形而上(けいじじょう)絵画」を生み出しました。不安や違和感を幻想的に描く手法――。ポスターの絵も、ヒトのような、マネキンのような、空間がずれているような。会場には作品に通じる不思議な仕掛けもありました。
4月27日の開幕を前に開かれた報道内覧会へお邪魔しました。展示会場の入り口すぐの通路に、いきなり姿見鏡?と思いきや、自分の姿は映りません。代わりに、私と同様に不思議そうな顔で覗く、別の報道関係者が横切ります。
たぶん、これは鏡に見せかけた、ガラスのない窓のように隣の部屋を覗ける仕掛け…?この「なんだこれ!?」が、まさにデ・キリコの描く“違和感”なのでは……!?一気にデ・キリコ展の世界へ没入していきます。
日常に潜んだ非日常が描かれた作品たち
会場では、報道関係者向けに同展を担当する高城靖之学芸員が解説されていました。
高城学芸員によると、デ・キリコの代表作の一つに「谷間の家具」と題された絵画がありますが、普通は家具を置かない屋外、しかも殺風景な谷間に家具が置かれているという、あえて見ている人へ“違和感”を覚えさせることが彼の作品のテーマになっていると言います。
デ・キリコの絵画には顔のないマネキン=マヌカンと呼ばれるモチーフも多く登場します。表情も無く、何を考えているのか、どこを見ているのかさえも分からない…。
この“マヌカン”モチーフの登場は、第一次世界大戦の勃発と符合しているといいます。高城学芸員は、第一次世界大戦でモノのように扱われた無力な人間、戦争を引き起こしてしまう、理性を失った人間の暗喩ではないかと語っていました。
正直、解説を聞かないと、デ・キリコの絵のどこが“変”なのか全く分かりませんでした。なにか怖いな~、不気味だな~と感じながらも、それが何なのか感じ取れない不快な感覚は、日常でもあると思います。
きっとそれよりも悪手は、その違和感にも気がつかず、スルーしてしまうこと……。“変”なことに気づく、向き合う大切さを改めて教えられたような気がしました。
過去最大級回顧展・開催に至るまで
今回のデ・キリコ展は、これまで日本で開催されたものとはひと味違うと言います。朝日新聞社文化事業1部の小渕 洋子 プロデューサーに話を聞きました。
デ・キリコの回顧展自体は過去にも日本で開催された事例がありますが、展示はいずれも晩年の作品が中心でした。
デ・キリコを一躍有名にした「形而上絵画」は所蔵先がバラバラ。美術館だけでなく、個人コレクターが所蔵する作品も多く含まれます。そのため、こうした大規模な展覧会を開催するにしても、そのころの作品を集めることはとても困難だったのです。
そこで今回の展覧会は「デ・キリコ展の決定版にしよう」とチーム全員で意気込んで、活動初期である1910年代の作品を10点以上集めることを目標にしていました。結果として、1910年代の作品は10点以上、20年代も20点以上、集めることができました。
これだけ時代に偏りなく、彼の画業を辿れる回顧展はこれまでなかったと思います。過去最大級のデ・キリコ展が開催できた!と自負しています。
デ・キリコは、美術史において特異な地位を確立しているのに、日本では誰もが知っている画家とは言えません。我が道を行き、描きたいものを描き続けた、面白い画家なんです。90歳まで長生きしましたが創作意欲は衰えず、晩年になっても新しいモチーフを取り入れた作品を発表したりしていました。
彼の強烈な個性と人生を追体験できる『デ・キリコ展』、ぜひ足を運んで堪能してください。
朝日新聞社の展覧会 「協賛」というマーケティング戦略
朝日新聞社が主催する展覧会には「協賛」という形で、様々な企業・団体にもご参加いただいています。展覧会協賛の意義やメリット、実際についてご紹介しています。
広告朝日記事_協賛マーケティング
歴史を積み重ねた朝日新聞社の展覧会 文化を支えつつマーケティング活動に貢献する「協賛」という打ち手
デ・キリコ展 開催概要
・会期:2024年4月27日(土)~8月29日(木)
・休室日:月曜日、7月9日(火)~16日(火)
※ただし、7月8日(月)、8月12日(月・休)は開室
・開室時間:9:30~17:30、金曜は20:00まで(入室は閉室の30分前まで)
・会場:東京都美術館
・お問い合わせ:050-5541-8600(ハローダイヤル)
・公式サイト:https://dechirico.exhibit.jp/
【巡回情報】
・会期:2024年9月14日(土)~12月8日(日)
・会場:神戸市立博物館