企業、クリエーター、そしてメディアが一体となり、声なき声を拾い上げ、光を当て、社会に届ける

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小さなリアルを拡張するために、自分たちを主語にせず意思表示をする

──変化の過程を共有しムードを変えていく上で、メディアができることは何だと思いますか。

辻氏・牧野氏

:意思表示をすることだと思います。社会の何にフォーカスを当てるか。それによって意思が感じられることもあります。例えば、女性の「生理」に関するテーマを取り上げることも、そのメディアの一つの意思表示です。メディアごとに色は違うし、それぞれ人格もありますよね。いろんな意見や解釈が複数あることは当然で、だからこそ読者は立体的に物事をとらえることができるのだと思います。
 ⼤切なのは、意⾒や意思を持ちつつ、⾃分たちを主語にしないことだと思います。SNSのムーブメントから始まったトレンドを、テレビで取り上げることも増えています。つまり、主語が⼤きいところから発信するのではなく、⼩さなリアルを拾い上げて、少しでも⼤きく拡張することがメディアの役割の⼀つ。小さな声に⽿を傾け、光を当てて、社会に届ける。決して簡単なことではないけれど、企業もメディアも私たちクリエーターも、真摯に取り組むべきことだと思っています。

牧野:ブランドの思想を基に社会を批評することを指して、僕は「ブランドジャーナリズム」という言葉を使っていました。その考えのきっかけとなったのが、国際⼥性デーにアメリカのウォール街に設置された「Fearless Girl(恐れを知らない少⼥)」をSNSで⾒たことでした。Fearless Girlは、資産運⽤会社であるステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズがビジネス社会における⼥性の地位向上を訴えるため、⾦融界の強さの象徴でもある「チャージング・ブル」に⽴ち向かうように設置した⼥性の像です。それを⾒たとき、ものすごく衝撃を受け、社会⽂脈をとらえて社会を批評する、これがジャーナリズムだと思いました。
 ジャーナリズムについては、まだまだ勉強中なのですが、SNSが浸透した今は、コミュニケーション自体がジャーナリズムという考えもある。社会正義を実現し、弱者を守ることがジャーナリズムとするならば、メディアの方々はそれをこれからも継続してほしいと思っています。

:日常にはいろいろな事実があります。その事実をそのまま伝えることも、大事なジャーナリズムの役割だと思います。ただ、「ジェンダー平等が大事です」とストレートに伝えても、正論なので「そうですよね」で終わってしまいます。そのとき何か「見立て」があると伝わりやすくなるような気がします。たとえば、企業のアイデンティティーやパーパスを見立てとして加えたり、今回のように国際女性デーに企業独自の見立てでメッセージを発信したり。そんな「見立て」を考えることが、私たちクリエーターの役割でもあり、そこにジャーナリズムとクリエーティブの接地点もあると思っています。

──最後に、新聞や新聞広告に対するご意見をお聞かせください。

牧野:よく言われていることだとは思いますが、新聞社が積み上げてきた歴史があるので、企業が正式にメッセージを発信するときは、手元に残すことができる新聞が適していると思います。また、最近は新聞広告がSNSで拡散されている事例が多いですよね。二次拡散という機能にも期待しています。

:本来、新聞で記事と広告は区分けされています。ただ、国際女性デーや3月11日の紙面は、それぞれのテーマに合わせた広告が掲載され、特集が組まれたりしますよね。そのため、当日の新聞広告を見ると、モーメントをつかむことができる。ターゲットではなくトピックで区切ることができるのは、新聞独自の表現だと思います。
 牧野さんも言われたとおり、新聞は手元に残せることが魅力でもありますよね。ただ、SNSで新聞を見た人が、「手に取って読みたい」と思ったとき、若い人はどこで買えばいいのか知らない人もいるはずです。月極(つきぎめ)で購読しなくてもコンビニなどで買えることは、より強化して伝えるべきことかもしれません。
 私はこれからもジェンダーの平等について考え、活動を続けていきます。そのアウトプットの場を、広告に限らず、アパレルや飲⾷などにさまざまなジャンルにも広げていきたい。社会の変化に少しでも寄与できるよう、業界の垣根を越境しながらアクションを続けていきたいなと思っています。

辻氏・牧野氏
牧野圭太(まきの・けいた)

DE 共同代表

博報堂(2009-2015)、文鳥社(2015-)、カラス(2016-2020)、2021年からDE Inc. (DE="脱"がテーマです)。著書「広告がなくなる日」発売中。#from_outlandというメルマガやってます。
文鳥文庫 店長。酒屋「花」、コーヒー「烏」を渋谷桜ヶ丘に創業。

辻愛沙子(つじ・あさこ)

株式会社arca CEO / Creative Director

社会派クリエイティブを掲げ、「思想と社会性のある事業作り」と「世界観に拘る作品作り」の二つを軸として広告から商品プロデュースまで領域を問わず手がける越境クリエイター。リアルイベント、商品企画、ブランドプロデュースまで、幅広いジャンルでクリエイティブディレクションを手がける。
2019年春、女性のエンパワメントやヘルスケアをテーマとした「Ladyknows」プロジェクトを発足。2019年秋より報道番組「news zero」にて水曜パートナーとしてレギュラー出演し、作り手と発信者の両軸で社会課題へのアプローチに挑戦している。