「エンタメ化したSDGs」 をブランディングに取り入れる企業が増えている理由とは

 これまで、社会課題解決のため多くの企画を手掛けてきた「ハフポスト日本版」(運営:BuzzFeed Japan株式会社)。創刊10周年を記念した様々な特別企画を、編集と広告の強い協力関係のもとで実施中です。ハフポスト日本版編集長の泉谷由梨子さんに、10周年企画の意図や編集・広告の事例などについて伺いました。

──創刊10周年を機会に、取り組んでいることはありますか?

 2023年は、10周年企画と銘打って「未来を作る」と「アタラシイおいしい」という企画に取り組んでいます。

 「未来を作る」は、SDGsを「知る」から「どうアクションに繋げるか」を考える企画です。企業・団体の取り組みを紹介する「未来を作る仕事ラボ」と、個人の思いやパーパスをどう形にして、社会に活かすかを考える「未来を作る、自分になりたい」の2本立てになっています。

 SDGsなどに取り組む企業の先進事例を紹介したり、斬新なアイデアを形にしている若い世代の起業家に話を聞いたり、また、自分自身のことを考えてみるようなワークショップを実施したりと、皆さんが考える指針になるようなコンテンツとなることを目指しています。

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 また、「アタラシイおいしい」は食をめぐるサステナビリティなどの課題から、新しい「食の未来」を提案する企画です。SDGsの中でも「食」は多くの人が当事者性を感じられるテーマなので、「アクションに繋げる」入口としても最適な分野です。

 フードロスや輸送によるCO2の排出、食の安全保障など、課題が多くあるなかで、人にも地球にも優しい「アタラシイおいしい」とは何かを探求し、発信しています。

 10周年のオープニングとして開催したイベントでは、「SEE THE SUN / Food Up Island」の皆さんとのコラボレーションで、来場者の皆さんに「アタラシイおいしい」を実際に体験していただきました(※Food Up Islandは、カゴメ株式会社、亀田製菓株式会社、キリンホールディングス株式会社、サッポロビール株式会社、株式会社ニチレイ、森永製菓株式会社、森永乳業株式会社の7社が参加する食の共創コミュニティで、株式会社SEE THE SUNが事務局を務めています)

 公園でのイベントに、読者の方、未来の作り方を自分も考えてみたいと思っている方、サステナビリティを軸に就職を考えているため、企業の取り組みを知ろうとしている若者など様々な方に足を運んでいただいて大盛況となり、企業の皆さんの取り組みを知っていただくきっかけにもなりました。

 以前の記事でもお話しした通り、社会問題を一社だけで解決することには限界があるので、こうした企業同士の連帯にも改めて大きな意義を感じました。

 食のSDGsと聞くと「環境のために我慢する」というイメージの人もいると思いますが、ハフポストではサステナビリティと生活を天秤にかけず、どうしたら「第3の道、サードウェイ」を見つけられるかにこだわっています。「我慢」ではなく「楽しい・美味しい」という理由で取り組めるSDGsの実現を目指します。

 時事ニュースや難しい社会問題だけではなく、エンタメなどカルチャーができることを考えてきたメディアとして、そういったSDGsエンタメ化も得意としています。

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ハフポスト日本版 媒体資料


──ハフポストでは現在、SDGsに加えてウェルビーイングのテーマにも取り組んでいます。ウェルビーイングとは具体的にどういったものなのでしょうか?

 ウェルビーイングを直訳すると「幸福」ですが、一時的な幸せとは違う概念で「私の人生は辛いことも苦しいこともあったけど幸せ」といった、長期的な健やかさや、精神的な幸福感を意味すると、日本でのウェルビーイング研究の第一人者、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科の前野隆司教授は言っています

 元々、社会福祉や健康の領域で取り上げられてきたウェルビーイングが、最近は「ウェルビーイング経営」のように、ビジネス領域でも注目されるようになりました。その背景には、従業員が心身ともに健康で日々の仕事に集中できる状態であることが企業の業績とも深く関わりがある、といった指摘がされるようになってきたことがあります。

 特に最近、お声がけいただくことが多いのは社会課題領域の企業ブランディング、中でも採用広報を狙いとした広告のご出稿です 。ハフポストの読者はニュース記事やコンテンツを読み物として消費するだけでなく、社会と自分との関係を意識し、自分を磨くために深く読み込んでいる、学習意欲が旺盛な方が多いことが読者調査 でも判明しています。

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 広告主からは単にハイキャリアな人材というだけではなく、社会課題を通じて社会にしっかりとコミットしていたり、自己の成長意欲が旺盛な読者の属性が評価されています。ウェルビーイング経営に取り組む企業で、自分の力をきちんと発揮したいという読者の方と、意欲あふれる方を採用したいという企業との出会いを、ハフポスト上でも実現できているのではないでしょうか。

──ウェルビーイングはSDGsとも関係があるのでしょうか?

 SDGsが掲げる目標の1つ「すべての人に健康と福祉を(GOOD HEALTH AND WELL-BEING)」には、ウェルビーイングの考え方も含まれます。社会の持続性を目指すには、社会を構成する個人のサステナビリティも大切です。

 働く人が心身ともに健康でいきいきと働けていると、一人一人の思いやパーパスと企業のパーパスがうまく結びついて個人だけではなくチームとしても力を発揮できるようになります。

 SDGsは、企業の本音では、株主・投資家との関係など「コスト」的に捉えている部分も多いのかもしれません。しかし、働く一人一人が企業の目指す方向を大切に感じていることは、企業と生活者とのコミュニケーションの場面でも必ず効いてきます。その点でも、社会と企業が共にサステナブルである状態を目指す土台として、ウェルビーイングは欠かせません。

──SDGsやウェルビーイングでよく読まれた記事はありますか?

 マルハニチロに勤めながら、水産業界の現状に警鐘を鳴らし続けてきた片野歩さんを取材した記事が、特に多くの反響を獲得しています。 

 企業の中の個人がどういった想いで組織を動かし、エポックメイキングな改革をしてきたのか。今後ますますAIが文章を書く時代は加速していきますが、こういった個人の情熱と社会の現実をすり合わせた記事は、経験と知識が豊富なエディターにしかできない仕事であり続けると思います。

 他にも「健康を通して人と組織を活性化する」という目標を掲げ、丸井グループの産業医・取締役を務める小島玲子さんの取材記事も、多くの方に読んでいただいています。 ウェルビーイング経営のトップランナーである丸井グループでは、「顧客」「取引先」「株主・投資家」「地域・社会」「将来世代」「社員」の6つのステークホルダーが重なり合う利益と幸せを拡大することと定めており、こうしたトップダウン式のエポックメイキングが実装されている事実が、企業にも希望になっていると思います。

──ウェルビーイングもSDGsのように、範囲が広く、コミュニケーションの掴みどころが難しいテーマだと感じます。

 SDGsがまだ知名度を獲得する前に、私たちはいかに「自分ごと」として認知してもらうかを考えました。2021年にはカレンダー企画を実施し、月毎に「チョコレート」や「就活」などの身近なアジェンダからSDGsを考える動画番組を毎月配信してきました。そのおかげで、多方面からの反響を得ることができ、読者や企業とも新たな会話が多く生まれました。

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▲SDGsをカレンダーで考える。「ハフライブ」では配信時の季節の話題から、SDGsを話し合います。

 ウェルビーイングにおいても「自分ごと」にすることを主軸に、色々な角度から照らしています。ウェルビーイングは経営上の課題だけでなく、企業が提供する価値としての観点でも注目されていますね。広告の特別企画としても、ファイナンシャル ウェルビーイング 、ウェルビーイング ファッション、ウェルビーイングと旅、地方創生などの特別企画を提案しています。自分の関心領域、企業のコミュニケーションとしてやりやすい形で提案していますので、「どこから始めたらいいかわからない」と悩んでいる企業の皆さんもぜひ、ご相談ください。

記事で紹介したイベント以外の他のハフポストの事例はこちら


泉谷由梨子(いずたに・ゆりこ)

1983年生まれ。2005年に慶應大学総合政策学部を卒業後、同年4月に毎日新聞社に入社。東日本大震災の被災地となった福島では、避難者の心と身体の健康の課題などを担当、2013年に退職。その後シンガポールに転居。日系出版社でビジネス誌編集者として勤めたのち、東南アジア各国からの女性移民労働者を支援するNGOで広報職員として勤務。2016年に帰国し、同年4月にハフポスト日本版に入社。ジャーナリズムの知識とグローバル感覚の両方を生かしながら、ジェンダー平等の問題や働きかた、子育て、男性育休などのテーマで、キャンペーン報道をリード。2018年副編集長就任後は、記事の取りまとめやコンテンツ全体の読者リーチ拡大、クオリティの向上などに尽力。20216月より現職に就任。