営業も加わったパッケージ作りや地域重点戦略がヒットのきっかけ

 小学館が2007年12月に刊行した和田竜著『のぼうの城』。豊臣秀吉の小田原攻めで唯一落とせなかった武州(ぶしゅう)・忍城(おしじょう)(現・埼玉県行田市)。その総大将で、でくのぼうゆえに領民から「のぼう様」と呼び親しまれた成田長親を主人公とした物語だ。ストーリーの面白さに加え、著名人や書店員の後押しにも恵まれ部数を伸ばし、9月までに24万部を突破した。マーケティング局・書籍宣伝課の備前島幹人氏にうかがった。

備前島幹人氏 備前島幹人氏

── ずばり、ヒットの要因は。

 とにかく面白いということと、著者の和田さんが「超ド級エンターテインメントを書きたかった」とおっしゃる通り、読みやすく若者も楽しめるストーリーだったことがあると思います。時代小説の枠を超え、若者に人気の漫画家、オノ・ナツメさんを起用したことも大きかったですね。

── 広告戦略は。

 主人公の成田長親は埼玉県の人なので、県のヒーローとして売り出したいと考え、県内の書店を回って営業をかけました。全国の書店にはダイジェスト版を配布し書店員にアピールしました。年が明けて1月、『本の雑誌』の創刊者である北上次郎氏がラジオ番組で同書をほめてくださり、この声を新聞広告やウェブサイトに反映。さらに、POP書きの名人として知られる有隣堂の書店員・梅原潤一氏が書いてくれたPOP広告を複製し全国の書店に配りました。そして3月、テレビ番組『王様のブランチ』(TBS系にて放送)で司会の谷原章介さんが「今年のナンバー1」と言ってくれて、それを新聞広告やPOPに反映させていきました。若者への訴求としては、モデルの杏さんを起用し、『Oggi』を始め当社のさまざまなファッション誌で告知。テレビCMも展開しました。5月末には、新潮社が和田さんの第2作『忍びの国』を発売。宣伝物で『のぼうの城』の著者の第2作とうたってくれ、当社も2冊を並べて置くよう書店に働きかけたことで、いい相乗効果が生まれました。さらに、7月に発表される直木賞候補となり、急遽(きゅうきょ)そのタイミングで、「デビュー作にして直木賞ノミネート」というコピーを入れた新聞広告を掲載。8月には『ビッグコミック・スピリッツ』で漫画版が始まり、コミックファンにも読者の裾野(すその)が広がっていきました。

── 読者の声をプロモーションに生かした戦略が奏功しました。

 デビュー作で著者のことは誰も知らないだけに、面白いと言ってくれた人の声をいかにメディアに載せられるかが勝負でした。朝日新聞の記事も効きました。6月に「売れてる本」として取り上げられた直後から、書店のPOPに「朝日新聞に掲載」との字が躍り、大きなインパクトになりました。

── 今後の抱負は。

 同書はそもそも城戸賞を受賞した映画脚本を小説化したもので、映像化の可能性を秘めたコンテンツです。ぜひそれが実現すればいいなと思っています。

和田 竜著『のぼうの城』
7/4 朝刊