佐伯泰英氏の時代小説「居眠り磐音 江戸双紙」シリーズは、既刊27巻で累計830万部を突破している。版元の双葉社営業局局次長の戸塚源久氏にうかがった。
──ヒットをどう分析しますか。
とにもかくにも作品の力です。
主人公、脇役ともキャラクターの描き方が秀逸で、また、時代小説ではありますが恋愛小説としての側面もあり、女性の読者がついてくれたのもヒットに結びついているととらえています。
編集面では、文字の大きさを通常よりも大きくしました。文庫の時代小説は年配の読者が多く、書店からも「もっと字が大きくならないか」といった要望が聞こえてきていました。売り場で手にしたときに読みやすさから購入し、作品のファンになってくれた読者もいたようです。今では、他社の文庫作品も文字を大きくするようになりました。
── NHKでドラマ化されました。
それぞれの読者の中にそれぞれの世界観ができあがっていたため、ドラマに対して当初は賛否両論ありましたが、放送の回を重ねるごとに人気が上がってきました。文庫は男女とも60代前後が主な読者層ですが、ドラマは女子高生など若い人たちも見ているようで、新たなファンの広がりを感じます。テレビをきっかけに、より幅広い読者層を獲得できたらと考えています。
── 新聞を使った広告展開についてお聞かせ下さい。
作品の広告というより、「佐伯泰英」という作家をメジャーにしていきたいという編集担当の強い思いを受け、新聞広告では佐伯先生の名を前面に出すよう心がけました。さらに、全国津々浦々まで伝えるため、100万部、130万部を超えたタイミングで地方紙に出稿しました。紙面では「○○県のみなさんへ」と、その土地土地の人へ向けたメッセージを掲載、これが大変好評でした。読者だけでなく書店員のみなさんにも届いたようで、「売れるから売る」のではなく「おもしろいから売りたい」と積極的に売っていただいたことも、ヒットにつながったものと思っています。そして200万部を超えたときには「メジャー感」を出すため、朝日新聞に全面広告を掲載しました。
こうしたコミュニケーションや読者の反響について佐伯先生がとても喜んで下さり、結果、作品にはますます勢いがついています。新たな読者を獲得するためにも、私たち版元はコミュニケーションなどにさらに工夫をこらしていく考えです。