『食堂かたつむり』は、無名の新人作家の作品にもかかわらず、これまでに22万部を売り上げた。この作品を発掘したポプラ社書籍局asta*編集部編集長の吉田元子氏にお話をうかがった。
人気アーティストのコメントが話題に
── 出版化からヒットまでの経緯についてお聞かせください。
2006年の第1回ポプラ小説大賞に応募された作品でした。選考にはもれましたが、テーマ設定が良く、著者の小川糸さんの実力も確信できたので書籍化を進め、今年1月、出版しました。失恋ですべてを失った女性が田舎に戻って食堂を開くシンプルな物語ですが、食について、母と娘の関係、さらに挫折した女性の再生と、読む人それぞれがスポットライトを当てて読める部分があることが、支持されたのだと思います。
世に出すにあたり、メーンの読者層である若い女性に好感度が高い人気アーティスト、スピッツの草野マサムネさんとポルノグラフィティの岡野昭仁さんから帯のコメントをいただきました。それが話題になり、早い段階から書店員さんたちから注目され、売り場では帯が見えるように平積みされるケースが多かったようです。さらに、この作品が売れていることが書店間で情報交換され、ほかの書店でも特設売り場を設けてくれるなど、好循環がありました。
── 読者の反響は。
最初のころ、読者カードが1枚も戻ってきませんでした。寄せられるのは小川さんにあてた長い手紙で、簡単な感想を書いて送る読者カードでは気持ちを伝えきれないと思ってもらったようなのです。さらに、ブログで作品の感想をつづる人も多かったですね。書店員さんたちも、この作品への思いを手書きのPOPなどにしてくれました。読んだ人がほかの誰かに「読んでほしい」と薦めたり、語ったりしたくなる作品のようです。
── メディアでのコミュニケーションについてお聞かせください。
早い時期から書評で取り上げられ、さらに、テレビの情報番組で紹介されて、売り上げが加速しました。こちらが意図したわけではないのですが、メディアに露出するタイミングが非常によかったですね。新聞広告については、ブログで「こんな広告が載っていた」と書いている人がいました。テレビ、新聞、ネットなど、あらゆるメディアによって広まったことが、ヒットにつながった理由だと考えています。
帯にはスピッツの草野マサムネさんと
ポルノグラフィティの岡野昭仁さんの
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