2008年4月、ポール・オースターやリチャード・パワーズなどの翻訳者として知られる東大文学部教授、柴田元幸氏が責任編集をつとめる文芸誌『モンキービジネス』がヴィレッジブックスから創刊された。柴田氏は、新たに翻訳した古典と現代作品の二作を毎号掲載。目次には川上弘美、古川日出男、川上未映子ら豪華な執筆陣と、新旧の海外作家らが看板の大小なく並ぶ。編集長の鈴木優氏にお話をうかがった。
内容の純度を高めすべての作品を同列に
── 創刊の経緯は。
数年前、柴田さんを軸に文芸誌をやることに興味はないかと、打診を受けたのが始まりです。当時は何も決まっていない中で、「かつての雑誌は、新しい人が新しいことにトライできる場でしたよね」といったことを柴田さんとよく話しました。僕は安原顯(けん)さんの時代の『マリ・クレール』や90年代初頭の『Switch』に刺激を受けた世代ですし、柴田さんもジェイ・マキナニーら新しい作家たちを次々と紹介した当時の雑誌文化の中で、翻訳家として登場しています。『モンキービジネス』が文芸誌なのかどうか。正直よく分かりませんが、新しい声をちゃんと拾い、それを広げようというのがこの雑誌の出発点です。
── 創刊号には「コンセプトもターゲットもない」といった趣旨の宣言があります。
柴田さんと編集部との間に共通認識としてあるのは、古典であろうが現代作家であろうがすべてを同列に扱うこと。それと埋め草的な原稿は一切載せないことぐらいです。創刊号にあった広告や弊社の刊行本案内も、この雑誌の世界にそぐわないと判断して第2号では外しました。
原稿を誰に依頼するかも柴田さんが決めています。例えばカフカを漫画化して連載するにあたり西岡兄妹(きょうだい)さんを指名された時は、守備範囲の広さに改めて驚かされました。すべてのレギュラー枠は、毎号の雑誌の中で読み切り完結しています。川上弘美さんにも新境地の短編をお願いできました。
── 文芸が売れないと言われる中で、反響や手応えは。
創刊号で小説の投稿を募集したところ、予想以上にクオリティーの高い作品が集ったことには驚きました。それも「誕生日が4月から6月までの方のみ」という応募規定にかかわらずです。それとカラフルな表紙のアートワークについては、「意外」という声も多かったですが、柴田ファンだけでなく、書店で手に取る層を開く役目を果たしたと思います。
次の3号は、柴田さんの新訳でサリンジャーの『ナイン・ストーリーズ』を一挙掲載します。連載を含めその他の作品はありません。つまり、それだけルールがない雑誌だということです。
と『もう一軒 おつまみ横丁 さらにおいしい酒の
肴185』(左)
『モンキービジネス』 vol.1(左)とvol.2(右)