健康食品に社会的なポジションを与え、セルフメディケーションを広めることが重要

 機能性表示食品のヒット商品を生み出しているファンケル。健康食品事業を展開する企業として、機能性表示食品への人々の関心の高まりをどう捉えるのか。メーカー視点での課題と、課題解決に向けた取り組みについて宮島和美代表取締役社長執行役員に聞いた。

健康食品のメーカーとしてセルフメディケーションを啓発

──無添加化粧品のメーカーとして1980年に創業、94年には健康食品事業を本格的に開始しました。その背景について聞かせてください。

宮島和美 宮島和美氏

 当社が健康食品事業を始めた背景には、創業者・池森賢二の想(おも)いがあります。池森は、「ひとつの事業は永遠ではない」「今日の利益は明日の繁栄のために使う」と語り、健康食品を無添加化粧品と並ぶ成長分野に据えました。きっかけは、自身の体験です。長く口内炎で悩んでいた池森は、人に勧められたローヤルゼリーで悩みを解消しました。ただ、当時のローヤルゼリーは高額で、もっと手軽に摂(と)れるようにしたいと考え、健康食品の価格破壊に挑んだのです。スキンケア商品の会社として、美しい素肌を身体の内側から作る「食べる化粧品」を広めたいとの想いもありました。商品化に際しては、当時根強かった健康食品に対するネガティブなイメージを払拭(ふっしょく)するべく、「サプリメント」という新しい言葉とアルミのパッケージを考案、広告に現役を引退したばかりの原辰徳氏を起用して販売を開始しました。

──機能性表示食品への人々の関心が高まっています。機能性表示食品を製造・販売する企業として、こうした動きをどう捉えていますか。

 ファンケルは、研究所や生産工場を充実させて愚直なほど真面目にモノづくりに取り組んでいる会社です。商品開発においては、創業以来、機能の科学的な裏付けを重視しています。ですから、これまで特定保健用食品(トクホ)や栄養機能食品だけに認められていた機能性表示が新たなルールで認められ、人々の関心を集めていることをうれしく受け止めています。当社は、機能性表示食品の第一弾として、中高年の目のサプリメント「えんきん」を発売。その後、中性脂肪が高めの方向けの「健脂サポート」、食事の糖と脂肪の吸収を抑える「カロリミット」など9種の機能性表示食品を販売しています。

2016年3月27日付 朝刊 全30段

2016年3月27日付 朝刊 全30段1.0MB

──消費者と向き合うメーカーとして、消費者視点での課題と、課題解決に向けた取り組みについて聞かせてください。

 栄養摂取の基本は日々の食事です。当社では、ダイエットなどのために食事を取らずサプリメントだけですませてしまうことのないよう、啓発活動を行っています。それと同時に、健康食品に社会的なポジションを与えることが重要です。将来的にはサプリメントに関する法律を整備し、ルールを定めることも必要です。高齢化が進み、国民医療費が約42兆円にも及ぶ今、病気と健康の間の「未病」の段階で成人病予防などに努めるセルフケア、セルフメディケーションの重要性が叫ばれています。そうした中、サプリメントや機能性表示食品が改めて評価されており、当社も「未病」の観点をもっと生かしていきたいと思っています。

「モノ (品質)」 と「コト (体験)」 の両立へ

──健康食品のマーケティング手段が多様化しています。機能性表示の側面で、特に注目している点は。

 情報を伝えるツールとして重視しているのは、パッケージです。機能、成分、安全性、飲み方などを丁寧に表記する一方で、見た目のわかりやすさや選ぶ楽しさにも留意しています。しかし、当社の注文の6割がネット通販経由なので、実物を手に取ってパッケージの裏面を見ることができません。そのため、ネット通販ならではの工夫も欠かせません。また、買い物履歴によるニーズの検証やSNSの反響の検証なども行っています。ちなみに、問い合わせの中で圧倒的に多いのは、薬との飲み合わせです。そうした問い合わせの一つひとつをデータベース化し、電話対応やコミュニケーションに生かしています。

──他社との差別化や、顧客へのアプローチにおいて留意していることは。

 「モノ(品質)」だけでなく、いかに「コト(体験)」を提供できるかに心を砕いています。例えば、サプリメントをこれから取ろうと思っている方や取り方のわからない方でも、自分に合った商品を簡単に選ぶことができるよう、年代や性別ごとに足りない栄養を補えるサプリメントをワンパックにした「年代別サプリメント」を販売しています。今後もリアルな体験からオンライン上の体験まで、あらゆる角度からコトの創出に努めていきたいと考えています。

──制度の適正な普及に努め、健康を訴求する製造者として、消費者の健康や豊かな暮らしに寄与するために、今後どのような取り組みをしていきますか。

 「機能性表示食品」制度について一つ気になることがあります。各社からの届け出が増え続ける中、受理されるまでの期間が長くなっているのです。近年、トクホの市場が伸び悩んでいますが、その理由の一つが、許可までにかかる多大な費用と時間です。業界では、規制改革推進会議などの場で、機能性表示食品の届け出と確認を民間に委ねたらどうかと提案しています。アメリカでは、届け出に必要な書類が日本のおよそ1/60で、しかも事後の届け出です。そのため品数が豊富で、売り場で大きな存在感を示しています。市場拡大のためには、制度を作るだけでなく、制度を生かす仕組みが必要です。消費者の健康に寄与するために、国への働きかけを続けていきたいと思います。

宮島和美(みやじま・かずよし)

ファンケル 代表取締役 社長執行役員

1950年神奈川県生まれ。73年成城大学卒。ダイエー常務執行役員を経て、2001年にファンケル入社。03年常務取締役、07年代表取締役社長、08年代表取締役会長。13年に創業者の池森賢二氏が会長に復帰し、再び社長に。日本通信販売協会会長などを歴任。