朝日新聞が発行する「子ども新聞」、子どもたちの視点で伝える防災の教訓

 日本赤十字社愛知県支部は2012年から、朝日新聞社とともに「子ども新聞プロジェクト」に取り組んでいる。同プロジェクトの目的は、東日本大震災などの災害から得た教訓を、子どもたちの視点で未来に伝えていくこと。毎年、愛知県青少年赤十字加盟校に通う小学生が新聞づくりを体験し、2024年は東日本大震災と阪神・淡路大震災に関わる施設や企業などを取材した。子どもたちが作成した記事を朝日新聞の記者が編集し、タブロイド判の広告特集「子ども新聞」を発行。9月1日の防災の日に愛知・岐阜県内の青少年赤十字に加盟している小学校で配布された。

子どもたちの主体性を育むプロジェクト

「子ども新聞プロジェクト」は、子どもたちの主体性や自主性を育てることを目指す日本赤十字社 青少年赤十字の取り組みのひとつ。子ども新聞を通して青少年赤十字の目標である「気づき・考え・実行する」大切さを同世代に伝え、より多くの子どもたちの行動する力を育むことが目的だ。

防災は、青少年赤十字の取り組みの柱のひとつであり、子ども新聞は東日本大震災などの災害から得た教訓を伝えていくことをテーマとしている。

 子ども記者に挑戦するのは、愛知県青少年赤十字に加盟する各小学校から推薦された子どもたちで、2024年は愛知県と岐阜県内の小学6年生9人が参加した。

 日本赤十字社愛知県支部事務局 青少年赤十字課長兼 社会活動推進課長の深田陽一郎氏は、「震災などの災害から得た教訓を、未来を担う子どもたちに知ってもらいたい。大人が伝えるよりも、同世代の子どもの視点で考え、発信した情報のほうが身近に感じてもらえると考えています。子ども独自の感性や表現力で書いた記事は、大人にも深い印象を与えられるはずです」と話す。

 取材のテーマや方向性は、日本赤十字社の愛知県支部と岐阜県支部、朝日新聞名古屋本社、関西大学社会安全学部の奥村与志弘教授とともに話し合い、決定されている。

 日本赤十字社愛知県支部事務局 青少年赤十字課 青少年係長の杉浦慎二郎氏は 「防災や減災への意識をあらためて高めていくために、2024年は『身近なものを防災に生かす』というテーマを掲げました」と説明する。

 子どもたちは、奥村教授の指導のもと、自治体や企業、住民による防災の取り組みなどを取材した。たとえば、東日本大震災の被災地とはオンラインでつなぎ、宮城県石巻市に本社がある石巻日日新聞社が地震発生直後から壁新聞で情報発信を行っていたことや、津波被害の反省と教訓から生まれた宮城県女川町観光協会の防災行事について取材した。

 阪神・淡路大震災の被災地である大阪府と兵庫県には1泊2日で出向き、パソコン周辺機器大手のエレコム大阪本社では、同社の被災地支援や、日常でも非常時でも役立つフェーズフリー商品について話を聞いた。

 「特に印象的だったのは、懐中電灯と防災救助笛、簡易的なランタンとしても使える、乾電池式のコンパクトなLEDライトの話。ペットボトルの飲み口にライト部分を差し込むと、簡易的なランタンとしても使用できるようにデザインされており、このような日常と防災をつなぐ商品が広がってほしいと感じました」(杉浦氏)

 兵庫県神戸市の「人と防災未来センター」では、語り部から被災体験を聞いたという。淡路島にも訪れ、防災食としても注目されている島の特産品「淡路島手延べそうめん」や、災害時のトイレやベッドの問題を解決する兵庫県南あわじ市の取り組みを取材した。また、「日本一の防災の町づくり」を目標に掲げる福良町づくり推進協議会でも住民の思いなどを聞いたという。

信頼できる媒体イメージ

 深田氏は「朝日新聞社と協業するメリットは、実践的な取り組みができること」という。子どもたちは模擬体験ではなく、実際に現場に足を運び、取材をして記事を書く。その取材先は朝日新聞社の知見や取材経験などをもとに選定し、事前研修会で朝日新聞社の記者が取材方法やメモの取り方、記事の書き方を指導する。

 取材後は奥村教授によるワークショップ形式で、取材した内容を全員で共有する。

 「2種類の付箋を用意して、青い付箋には事実を、黄色の付箋には自分の考えたことを書き、それらを大きな模造紙に貼っていきます。その中から重要なものを取捨選択しながら、どんな記事にしていくかをみんなで考えます。そのプロセスを経て、一人ひとりが担当する原稿を書いていくという流れです。さらに、子どもたちが書き上げた原稿は、テレビモニターに映して記者の方が添削も行います」(杉浦氏) 

 子ども新聞の題字は、参加した子どもたちが描き、投票で決められた。

 「採用した題字のモチーフは、鳴門の渦潮です。最終日に兵庫県南あわじ市のうずしおクルーズに参加し、船から陸地を見て、津波について考えるという時間がありました。そのときの経験をもとに描かれた題字は、2024年ならではの表現になったと思います」(深田氏)

子ども新聞1
子ども新聞2
子ども新聞3
子ども新聞4
子ども新聞5
子ども新聞6
子ども新聞7
子ども新聞8

 子どもたちが書いた原稿をもとに、朝日新聞の記者が見出しや写真などを加えて記事に仕立て、今年度はタブロイド判を計40万部発行。9月1日の防災の日に、愛知・岐阜県内の青少年赤十字に加盟している小学校の全児童に配布した。 

 9月2日付の朝日新聞朝刊には、子ども新聞プロジェクトの活動を伝える5段カラーの広告も掲載した。

 新聞を読んだ子どもたちにも能動的で深い学びを提供したいと、2023年度版の子ども新聞から記事の合間にワークシートをつけた。2024年版は2カ所、『地元(地域)の災害状況を調べてみよう』『地元(地域)の名産・特徴は何だろう?』という記事とリンクするワークシートを用意した。

 校長先生方からの評判はよく、始業式で子ども新聞について話してくれたり、授業の教材として活用してくれたりすることもあるという。

 「新聞は信頼性の高いメディアというイメージがあり、保護者の方にも浸透していると思います。そのような新聞を発行する朝日新聞社と一緒に取り組むことで、子ども新聞プロジェクトの信頼性も高まり、各学校の校長先生をはじめとする先生方はもちろん、子どもを通じて新聞を手にした保護者の方にも、興味を持って読んでもらえるのではないかと思っています。それがひいては、青少年赤十字の取り組みを知ってもらう機会にもなり、日本赤十字社の宣伝にもなると考えています」と杉浦氏は話す。

 


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