日本船籍最大級の郵船クルーズ「飛鳥Ⅲ」就航記念のエリア広告 光に透かして読み取る体験型のクリエーティブを採用

 「飛鳥Ⅲ」就航日に合わせ、朝日新聞で記念広告を展開。新聞を透かして読む体験型の仕掛けが注目を集め、セレモニーでは3000人に配布された。郵船クルーズが新聞広告を選んだ背景と、ブランド戦略としての活用について、同社・広報担当の大内麻里子氏に伺った。

日本のクルーズ市場を牽引する飛鳥クルーズ

 郵船クルーズは現在、豪華客船「飛鳥Ⅱ」と「飛鳥Ⅲ」の2隻を運航するクルーズ運航会社。「飛鳥Ⅲ」は、郵船クルーズにとって34年ぶりとなる新造客船で、2025年7月20日に就航したばかり。日本船籍最大の5万2,265総トンで、「飛鳥Ⅱ」と合わせると乗客定員は約1,600人で日本最大規模となる。いずれも横浜を母港とする日本籍船で、日本のクルーズ市場を牽引(けんいん)する存在だ。
 「飛鳥Ⅱ」と「飛鳥Ⅲ」の飛鳥クルーズでは、洋上での「最幸時間」を提供しているという。郵船クルーズ 企画マーケティング部 広報・ブランド戦略チームの大内麻里子氏は、「クルーズ文化を日本に浸透させていくことは、飛鳥クルーズの使命のひとつです」と話す。

郵船記事画像1 企画マーケティング部の大内氏。「飛鳥Ⅲ」の中心に位置する3層吹き抜けのアトリウムには、漆芸家 室瀬和美氏による高さ8.8m×幅3mの蒔絵作品「耀光耀瑛(ようこう・ようえい)」が展示されている。室瀬氏は、蒔絵(まきえ)の重要無形文化財保持者(人間国宝)

 「日本のライフスタイルに寄り添い、船内は非日常の空間でありながら、プライベートな空間である客室はくつろげる快適な空間をご用意しています。また、日本の伝統工芸作品やアート作品も多数展示しています。寄港地では、そこでしか体験できない観光ツアーもお楽しみいただけます。こうした取り組みを通じて、地域活性や伝統技術の継承、そしてアーティストの表現の場へとつながっていくことを目指しています」

ターゲット層の広がりと「飛鳥Ⅲ」の新コンセプト

 「飛鳥Ⅱ」は、「お客様の好みに寄り添う旅」がコンセプト。音楽や異国のカルチャーといった1つのテーマで船内を彩るテーマクルーズを行うなど、一体感を重視したサービスが特徴だ。「飛鳥Ⅱ」は今まで主に世界一周クルーズやグランドクルーズといった長期航路を提供しているため、乗客は主に定年退職された60代以上で、時間も経済的にも余裕のある方が中心でした。その一方で、夏休みやクリスマスなど短期休暇向けのプランも用意しており、近年は現役世代やファミリー層の乗船も増えています」(大内氏)

 一方、「飛鳥Ⅲ」は「お客様好みに広がる旅」というコンセプトを掲げている。全室海側でプライベートバルコニーを備え、個性豊かな6つのレストランなど、プライベートを重視したサービスを提供している。現役世代が通年で乗船できるように、3泊からのクルーズ旅行を打ち出し、ワーケーションにも対応できるように、ネット環境も整えている。

「飛鳥Ⅲ」 誕生までの3年間 情報発信が支えたブランド戦略

 「飛鳥Ⅲ」の構想が発表されたのは、2021年3月。情報発信にも注力し、本格的な建造開始に先駆け2023年6月に「A-TIMES」という特設サイトを立ち上げた。2025年2月には、「飛鳥Ⅲ」のオープニングクルーズ商品発表会を開催。
 ここで初めて、「飛鳥Ⅲ」のコンセプトを発表。今後の「飛鳥Ⅱ」と「飛鳥Ⅲ」での2隻運航の方針を打ち出し、2月24日付朝日新聞朝刊に15段広告を掲載。飛鳥クルーズブランドの醸成に向けて動き出した。

郵船紙面 2025年2月24日付け朝日新聞朝刊3.7MB

 「このとき新聞広告に掲載したコピーは、『幸を編む 至福の船旅』でした。これは、放送作家で『飛鳥クルーズ』のアンバサダーを務める小山薫堂さんが考案されたものです。同時に小山薫堂さんが出演するプロモーション動画と、葉加瀬太郎さんが制作したテーマ曲『ASUKA』も公開し、飛鳥クルーズブランドの世界観を打ち出していきました」(大内氏)

 そして迎えた7月20日の就航日。郵船クルーズは、朝日新聞朝刊でエリア広告特集を発行した。

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 エリア広告とは、新聞販売所(ASA)単位や県単位など配布エリアを特定でき、年収や年齢、世帯構成人員などでもセグメントできるのが特徴だ。新聞とは別刷りの広告媒体で、サイズはタブロイド判やブランケット判、メガ新聞、パノラマワイドなど、さまざまな種類の中から選ぶことができる。
 今回は、朝日新聞東京本社版・大阪本社版・名古屋本社版、西部本社版の一部地域の朝刊に折り込み、サイズは新聞と同等のブランケット判で発行した。エリア広告は、新聞を広げると最初に出てくるように折り込まれるので、手元に届いた方々に確実に見てもらえる可能性が高い。「その特徴は、エリア広告での出稿を決める後押しとなりました」(大内氏)

新聞が体験になる 記念日を彩った就航記念広告の仕掛け

 7月20日の就航日を記念した特別な広告となるように生まれたのが、「新聞を透かして見る」という体験型のアイデアだった。表面は「最幸時間 飛鳥Ⅲ 本日就航」というコピーと、「飛鳥Ⅲ」のビジュアルでデザインされている。

エリア広告

 光に透かすのは、その裏面。新聞を両手で持って光にかざして見ると、表面にある「最幸時間」の「幸」と、「本日就航」「本日」という文字が反転して浮かび上がる。そして、「幸を編む 至福の船旅」というコピーと、「日本のクルーズ文化の先駆けとして、時代とともに進化し、磨かれてきたおもてなしの心。 」というメッセージが完成するという仕掛けだ。

エリア広告閲覧

 裏面のデザインは、「飛鳥Ⅱ」と「飛鳥Ⅲ」を並べたビジュアルを採用。この体験型のクリエーティブは、朝日新聞からの提案だったという。
 「就航日の日付入りの新聞広告は、記念となり、手元に残すことができるので、以前から出稿したいと考えていました。透かして見るという体験型のクリエイティブは、自分たちだけで考えていたら思いつかなかったと思います。記念日にふさわしい特別なクリエイティブだったので、とても気に入り、採用させていただきました」(大内氏)

 就航日の数日前、マスコミに「飛鳥Ⅲ」の船内をお披露目し、テレビやネットのニュースなどでも数多く取り上げられた。そして、就航日当日は朝日新聞でエリア広告を発行した。朝日新聞社による紙面のデザインは、他紙や雑誌広告にもアレンジして活用され、統一した世界観で記念日を盛り上げることができた。
 横浜港大さん橋国際客船ターミナルでは就航セレモニーを開催。郵船クルーズはエリア広告を乗船のお客様向けをはじめ5,500部増刷し、セレモニーの来場者約3,000人にも配布した。

 「祝賀ムードが高まる中で、3,000人以上の方々が新聞を手に取り、大さん橋で光にかざして楽しそうに見ていました。『飛鳥Ⅲ』を見送りながら、実際に体験している様子を見られたのは、とても感慨深いものでした」

新聞広告の意義と価値

 数ある広告媒体の中から新聞を選んだ理由は、飛鳥クルーズの顧客層と新聞読者との親和性が高いからだという。

 「これまで、『飛鳥』の世界一周をはじめとする豪華な旅行プランの商品広告を新聞に掲載すると、確実に問い合わせや説明会への申し込みが増加しました。ご連絡をくださるのは、いずれも本気でクルーズ船の旅行に関心をお持ちの方々で、以前から新聞読者との相性の良さを実感していました。特に数百万円から1千万円以上に及ぶ高価格帯のプランにおいては、信頼性の高い新聞に広告が掲載されていることが、お客様への安心にもつながると考えています」

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 今回は新聞広告の効果を図るために、公式サイトの「飛鳥Ⅲ」の特設ページにアクセスできるQRコードを広告紙面に入れていた。就航日当日、公式サイトへのアクセスは、通常の倍以上に伸長し、新聞のQR コードから流入も多かったと大内氏は振り返った。
 「SNSもチェックしていました。新聞広告を見られたリピーターのお客様が、SNSに喜びの声を投稿されていて、就航日の記念に発行してよかったと思いました」
 広告の波及効果は、社内や関係者にも及んだ。増刷した広告は、船内で働くスタッフや本社勤務の社員に配布した。
 「『飛鳥Ⅲ』の広告が新聞に大きく掲載されることは誇らしく、社内のモチベーション向上にもつながると感じています。広告を起点にブランド価値の広がりも実感しました」
 今後の情報発信については、新聞広告とデジタル施策の融合を模索していく考えだという。
 「今回の体験型のエリア広告を通じて、新聞広告の可能性を実感しました。2026年は、飛鳥クルーズ35周年と『飛鳥Ⅱ』の就航20周年という節目を迎えます。今後は、現役世代にも向けて、デジタルメディアでの接点を広げつつ、新聞広告も継続して展開していきたいと思っています。」と大内氏は話す。