IT時代を生き抜くために
僕は通信制のネットの高校、S高の校長であり、ソフトウェアエンジニアでもあります。僕たちの暮らしには欠かせなくなったITですが、これからのITを担っていく若い世代にはのびのびと育ってほしい。当校でも、様々な体験を通してやりたいことや好きなことを見つけられる機会を提供しています。それは社会が、基礎学力に加えて問題解決の能力やモチベーションなどを働く力として求めているからです。
ただこれからは、少子高齢化が加速する中で就労人口は減少し、ITを駆使して1人が多人数分の生産性を求められる時代。だから従来の働き方とはまた違った責任やストレスも生まれてくると思います。これはかつての僕の体験ですが、最初の就職先は最先端の金型を作るベンチャー企業で、ドリルで金属を削るソフトウェアの補助システムの設計を担当し、1カ所でもミスをしたら事故につながるという強い危機感を持って働いていました。
システム開発では途中で色々な不具合を修正して進みますが、それはテーブルゲームのジェンガみたいなものです。ある不具合の解消が別の不具合を発生させるかもしれない。それを慎重に高速で見つけて正しく直すというプレッシャーが途切れることなく続き、とても優秀な先輩たちも僕も精神的に疲れきりました。そこでこれはメンタル面を何とかしなくてはと、産業医でもあるメンタルトレーニングの先生が行ったセミナーを受講しました。
その時学んだ考え方は今も、悩みやストレスを抱えている人に役立つかもしれません。例えばスポーツで勝つことだけを目標にせず、プロセスの中に目標を細かく設定するというのも一つです。自分で試合中の小さな目標を決めておけば、それが達成できたら、負け試合でも途中まではいい行動をして成長できたとメンタルを安定してキープすることができるわけですね。
僕はつらいことがあると人に笑顔であいさつし、大きな声でハキハキと一日中しゃべります。感情は自分で変えられないけれど、不思議なことに行動を変えるといつの間にか元気になっている。自分で自分の機嫌を取る僕の手法の一つです。
ニッチな分野を掛け算しよう
自分を元気にするためには「好き」をエンジンにすることだと前回お伝えしました。色々な体験から好きを発見し、それを組み合わせて進んでいけばいい。例えば特定のeスポーツゲームがすごく好きで、1万時間以上もプレーしている生徒がいます。それでこの分野の選手になろうと思ったそうですが、他に天才プレーヤーがたくさんいた。じゃあどうするか。掛け算をするのです。
プレーヤーとしての能力は低くてもしゃべりがうまければ、その分野の実況者になるのはどうか。あるいはゲームファンを集めるイベントの企画やプロモートができるかもしれない。情熱を持って好きと言えるジャンルを組み合わせると、まだほとんどいない職業人になっていけるでしょう。ITエンジニアの僕が校長先生になっちゃったし(笑)。
これからは、既存の職業だけでなく、自分がやりたい組み合わせによる新しい仕事を目指していくのもいいと思います。
学校法人 角川ドワンゴ学園 S高等学校 校長
1982年広島県生まれ。東京工業大学大学院修了。先進的な金型ベンチャー企業を経て(株)ドワンゴ入社。ニコニコ生放送のシステム更新を指揮したITエンジニア。2016年からネット高校、角川ドワンゴ学園N高のプログラミング教育を担当。21年2校目となるS高にて現職。