朝日新聞各本社の広告局・広告部には、クリエーター組織があります。新聞メディアを知り尽くしたプロフェッショナルとして、個々のソリューションを提供しています。新聞社発クリエーティブの強みとは何か。アートディレクターの副田高行氏と広告局クリエーターが、話し合いました。
副田高行氏と朝日新聞社広告局のクリエーターたち
アートディレクター
1950年福岡県生まれ、東京育ち。東京都立工芸高校デザイン科卒。スタンダード通信社、サン・アド、仲畑広告制作所を経て、現在副田デザイン制作所主宰。東京ADC会員。JAGDA会員。2008年度から朝日広告賞審査委員。
主な仕事は、サントリー「ナマ樽」「モルツ」、ANA「ニューヨークへ行こう」、トヨタ「エコ・プロジェクト」「REBORN」キャンペーン、シャープ「アクオス」など。77年朝日広告賞、81年、83年、84年東京ADC賞、ほか受賞多数。作品集『SOEDA DESIGN FACTORY THEREAFTER』。
クリエイティブ担当部長・今井克己、クリエイティブディレクター・山本忠一、アートディレクター・金子裕也、アートディレクター・末松学史、アートディレクター・山口 健(後列左から時計回り)
編集や印刷部門など各部門に直結し、企画性の高い紙面が実現
副田 僕は正直、新聞社の広告局内にクリエーター集団がいることをこれまで意識したことがなかったんです。でも、昨年度の朝日広告賞広告主参加の部の最高賞は、広告局の制作だったそうですね。それを聞いて驚きました。快挙ですね。
今井 局内制作の広告は、昔は連合広告が多かったのですが、近年は受賞した東京エレクトロンの広告(※1)のように一社単独の純広告に近いクリエーティブが増えています。朝日新聞社のクリエーティブチームは、編集や印刷部門にも直結しているので、企画性の高い提案ができるのが特長です。
副田 受賞作を見ると、広告枠の使い方にも企画性があります。外部のクリエーターは、決められた枠組みの中で表現するしかありません。どんな新しいことができるのか、一緒にタッグを組んで探ってみたいです。新聞社にこれだけスタッフがいるならば、クライアントとさらに密接にやれるのではないでしょうか。
金子 外部のクリエーターと組んで新しい広告のあり方を模索する取り組みは実際にあるんです。たとえば母の日にちなんだ花キューピット協同組合の広告(※2)は、日本デザインセンターのクリエーターと組み、本紙から飛び出る特殊形態の広告を企画し、山手線の駅即売店に展開しました。
副田 なるほど、新聞が花束のように見えてPOPの役割も果たしている。いいデザインです。また、媒体特性を熟知している新聞社発だからこそ実現できたといえますね。
山本 メディア発の企画はいろいろあって、その一つがマルチ広告です。日清食品「カップヌードル」の発売40周年を記念したマルチ広告(※3)は、夕刊の広告枠をまるごと使いました。
副田 マルチ広告なら読む時間ができるから、ページをまたいだストーリーを作れる。読者としては目で追いたくなるし、ページを戻って読み返したくなります。新聞ならでは、ですね。
末松 映画の広告では、「清須会議」特集のように、キャスティングや記事制作、デザインを広告局で行い、朝日新聞でしか読めないコンテンツを提供している企画もあります。
副田 朝日新聞ブランドは、キャスティングにおいて強みでしょうね。新聞社のクリエーターの仕事も楽しそうですね(笑)。
金子 人脈は幅広く、当社の読書推進プロジェクトのネットワークを生かして企画・制作した「オーサーズ・カフェ」(※4)では、「新聞をめくったとき、ふと目に留まる広告とは何か。それはやはり活字の持つ力ではないか」というテーマのもと、人気作家の書き下ろしエッセーをシリーズで展開しました。
山口 内山理名さん、大地真央さん、黒木瞳さんなどが登場したフォーエバーマークのシリーズ広告にしても、そうそうたる顔ぶれの女優陣が企画に参加してくださいました。
広告特集「author’s cafe(オーサーズ・カフェ)」シリーズ 朝刊 全15段
連報性を生かす 表現力も追究する
副田 こうしていろいろ見ていくと、新聞社発のクリエーティブには多くの可能性がある。表現の自由度も高いようですが、皆さんの制作数や制作時間はどんな状況ですか?
山本 時期にもよりますが、量は多いですね。オリエンを受けてから1週間後に掲載というケースもよくあります。
副田 媒体の特性上、スピードが求められるのでしょうね。
今井 その象徴が、ニュースアドです。たとえば三菱電機の広告では、同社が東京競馬場に設置した日本最大のオーロラビジョンに天皇賞のレースの先頭馬が映し出される一瞬を写真でとらえ、翌日の朝刊に掲載しました。15時40分の出走後、3時間以内に入稿というスケジュールでした。
副田 ずいぶんタイト(笑)。でも、タイムリーさ重視で、まさに新聞ならではの企画です。広告もニュース。昨日あったことが今日載るというのは、新聞広告にしかできない。ただ、スピードの一方で、表現も追究しているはずです。目に留まる何かがなければ素通りされてしまうのが広告の宿命で、コピーライターの仲畑貴志さんは、「広告のスタートラインはゼロではなくマイナスだ」という言い方をしていました。広告表現には企業の目的を満たし、かつ人の心を打つチャーミングな何かがないと。
山口 クリエーティブ的なアプローチを挙げると、旅行会社や航空会社を募って企画したマルチ広告は、モデルに佐々木希さん、撮影に川島小鳥さんを起用し、広告局の制作枠と純広告のビジュアルに統一感を持たせ、佐々木さんを旅人に見立てたストーリー「心の旅時計」(※5)を展開しました。朝日新聞デジタルにも特設サイトを作り、紙面と違う写真を掲載。ツイッターなどで多くの反響がありました。
副田 その広告は覚えていますよ。クオリティーが高いと思いました。でも、もっとやれる余地があるのではないか。やり直しの連続から、よい作品は生まれる。さらに上を目指してほしいです。
いい広告の決め手はコピーとデザインの化学反応
副田 新聞ならではのスピードやクリエーティブを生かさない手はないし、制作現場と広告主との距離の近さも感じました。あと大事なのは、仕事に対する思いの強さ。企業の宣伝部の熱意とクリエーターの熱意が合わさることで力作が生まれる。僕が昔一緒に仕事をした宣伝担当者には、「一緒に革命を起こそう」という気概を持ち、アイデアをたくさん持つ人がいました。
末松 アイデアという意味では、朝日新聞デジタルの使い方を含めて広告主に提案できる材料を私たちが持つことも大切だと思います。スマートフォンをかざすと画面上で立体映像が動き出す「AR技術」に対応するビジュアルの紙面展開など、新たな挑戦も始めています。
副田 テクノロジーとの融合を試みる一方で、新聞本来の読み物としての機能強化にも期待したい。記事をしのぐほどの読みごたえのある広告に出会いたいと、いつも思うんです。
金子 デザイナーという立場から見ても、コピーの力は大きいですよね。
副田 とても大きい。コピーライターとデザイナーは作詞家と作曲家の関係と似ていて、どちらかの出来が悪ければ名曲にはならない。ビートルズの名曲はジョン・レノンとポール・マッカートニーがいたから生まれた。広告も“レノン=マッカートニー”を目指さなければいけない。何を表現したいのか。表現の世界では、理屈だけではだめなところがあります。ビジュアルと言葉の掛け合わせで、化学反応を起こすのです。
社会性のあるメッセージは 新聞広告こそふさわしい
今井 改めてうかがいますが、副田さんは新聞広告についてどう捉えていますか。
副田 新聞広告は僕の人生を決定づけたと言ってもいい。弱冠二十歳のときに、かの有名なサッポロビール「男は黙ってサッポロビール」の新聞広告を見て大変な衝撃を受け、広告制作の道に入ったんです。以来あまたの新聞広告を見てきて、その役割を明確に意識するようになりました。それは社会性です。特に企業広告に必要な要素だと思います。だんだんと商品の差異がなくなる中で、どういう思想を持って活動する企業なのかを伝える場として、ジャーナリズムに基づく新聞こそふさわしい。また、公共機関の意見広告などは新聞社主導で積極的に展開してほしいところです。
今井 副田さん自身も社会的な広告を制作されています。たとえば日本医師会の広告。病院の株式会社化や学校保険医を題材としていました。
副田 医療現場の課題について、あくまでも生活者の視点で世に問いかけました。とても反響があって、学校医の広告には8千通ものファックスが寄せられました。
金子 企画性やデザイン性の追究に加え、そうした社会に一石を投じる姿勢が大事なのだと思います。
副田 そうですね。9.11同時テロの後に佐々木宏さんと作った「ニューヨークへ、行こう。」というANAの広告なども、社会に一石を投じたいという思いが強くありました。
山本 私たちも「世の中に対して発信する」という意識を高めて制作に臨んでいきたいと思います。
副田 期待しています。何しろ、紙面をまとめて見せてもらって、企画力も表現もすごく進歩していることに驚きました。朝日新聞に入りたくなっちゃった(笑)。ぜひ、一緒に広告を作ってみたいです。
今井 こちらこそ、ぜひ。今日は貴重なご意見をありがとうございました。
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