満足度とインフルエンサーを軸に新聞の効果を検証

 日本新聞協会は2007年、「全国メディア接触・評価調査」を実施し、その結果を『購買満足と新聞エンゲージメント』としてまとめた。この調査を監修した明治学院大学経済学部教授の清水聰氏に、新聞エンゲージメントの考え方や、自ら情報を発信する「インフルエンサー」の影響力、さらに調査から導き出される新聞の効果、役割などについて聞いた。

新聞エンゲージメントは購買満足を高める

──「新聞エンゲージメント」について解説してください。

清水 聰氏 清水 聰氏

 昨年の調査では、「商品に満足している消費者のメディアの使い方」を考察しました。その結果、「認知・関心」「情報検索」「購買行動」といった意思決定プロセスにおいて、新聞で「認知・関心」した場合に、満足度が高いことがわかりました。この結果を踏まえて、新聞自体に関する満足は何から得られるのかを探っていこう、ということに。折から広告業界を中心に「エンゲージメント」という言葉が流行しており、「読者とのきずな」という側面から新聞の満足度を考察してみようというのが発端でした。

 そもそも「エンゲージメントとは何か」という本質論から始めた調査分析ではありません。そこで、これからも読み続けたいかという「継続意向」と、「現在その新聞に満足しているか」の二つの変数で構成するものを「新聞エンゲージメント」と位置付けました。その上で、記事と広告という二つの要素に分けて満足度を調べたところ、記事への評価はもちろん、広告も同じように高いポイントを示しました。新聞へのエンゲージメントを高めるためには、わかりやすい内容にするとか、活字を大きくするとかいった点ばかりに目が行きますが、実は広告に対する興味や評価も新聞エンゲージメントに大きな影響を与えていることがわかったのです。

 特に若い人や女性の広告に対する評価が高かった。この層は流行に敏感なのでインフルエンサーになりやすい。さらに、新聞エンゲージメントが高く、意思決定プロセスをしっかりと踏んでいる人ほど購買後の満足度が高く(図1)、インフルエンスしやすいこともわかっています(図2)。この結果から、新聞広告を通じたコミュニケーションが、購買満足、ひいてはブランドへのエンゲージメントを強めることにもつながる可能性があると見ています。

日本新聞協会『購買満足と新聞エンゲージメント』から一部抜粋 日本新聞協会『購買満足と新聞エンゲージメント』から一部抜粋

新聞広告は「聞き耳」にも訴える

── 昨年の調査以降、新たな研究、考察は。

 2年ほど前から日本マーケティング協会でインフルエンサーの調査を進めています。現在は、インフルエンス力があるだけでなく、商品への心理的コミットメントが強い人を「コミュニケーション型生活者」と名付け、この層がどういう商品を支持するのかを見ています。というのも、コミュニケーション型生活者の支持率が高い商品は、商品鮮度が高く、売れ行きもよいことがわかったからです。

 インフルエンサーの中でも最先端の人は「単なる新しいもの好き」の傾向が強く、速報性のあるニュースが好きで、新聞はあまり読みません。しかし、最先端の次に位置していて、色々な情報を見聞きした上で早い段階で「いい」と判断できるのがコミュニケーション型生活者であり、最近では「聞き耳」とも呼んでいます。この人たちは地に足のついた情報を重視するため、新聞や新聞広告を読みます。この聞き耳層をしっかりと取っていくことができれば、新聞広告の効果をさらに実証できると考えます。

 ブログを読むことの影響についても考察しています。おもしろいことに、内容が肯定的でも否定的でも、品質や性能に対する評価はあまり変わりません。しかし「買いたいか、買いたくないか」ははっきりする。つまり、自分の中のモヤモヤとした評価に対し、背中を押して「イエス、ノー」をはっきりさせる力がブログにはあるようなのです。では、どうしたら肯定的なことを書いてもらえるか。商品に満足しているかが当然重要で、これについては前述したとおり、意思決定プロセスをしっかりと踏んでいる人で満足度が高くなります。「認知・関心」の媒体として力を持っていることから、新聞広告はブログなどでの情報発信においても重要な役目を果たすのではないでしょうか。

── 新聞広告に期待できる効果、役割は。

 新聞にはそもそも、社会性や信頼性という強みがあります。だからこそ、新聞広告に出ている商品なら間違いないから検索してみようと企業のウェブサイトやブログをチェックし、「いいもの」と確信すれば、購買後にいい情報を発信してくれる。それも、ただの新しもの好きではなく、情報判断力のある聞き耳層が「認知・関心」の段階で新聞広告を重視しているとすれば、これは広告を出す企業にとっては当然望ましいことですし、そこでの有効性を説明できれば新聞社にとってもいいこと。まさにWin-Winの関係が築けるのではと考えています。

 さらに、「認知・関心」媒体としては強い新聞ですが、記事の内容や閲読マインドに連動した広告を、試験的に週末特集版などで展開することができれば、「情報探索」の効果も期待できます。編集記事と広告の区別は重要ですが、新しい活用の仕方や展開の可能性があるのではと考えています。

清水 聰(しみず・あきら)

明治学院大学経済学部教授

慶応義塾大学大学院商学研究科博士課程修了 博士(商学)。専門は、消費者行動論、マーケティングリサーチ。主な著書に、『戦略的消費行動論』(千倉書房)など。