これまでテレビ業界では、視聴率が評価の尺度として重視されてきたが、テレビ朝日はいち早く「視聴質」にも着目。慶応義塾大学との共同プロジェクトとして、1997年4月から、インターネットを用いたテレビ番組視聴質調査システム「リサーチQ」を稼働させている。視聴質に着目した背景や具体的な取り組みについて、編成制作局編成部マーケティング担当部長の檀野竹美氏、同部主任の渡邊美奈子氏に話を聞いた。
視聴質は視聴率と補完関係にあるもの
── 視聴質をめぐるテレビ業界の動きは。
視聴率以外の番組評価を模索しようという動きは古くからありましたが、1980年代に「視聴質」という言葉が使われ始め、放送局ごとに独自の評価基準で調査を展開するようになりました。その背景には、視聴率では推し量れない視聴者の「期待度」や「視聴時の気分」までをとらえ、番組づくりの指針にしたいとの各局の思惑がありました。同じ15%の視聴率でも、「なぜ見たのか」という動機や、「どこがよかったのか」という評価理由が分かれば、番組が目指すべき方向性がより明確に見えてくるというわけです。
── 視聴率との関係をどのようにとらえますか。
視聴質というと、視聴率と対抗するものとして語られることがありますが、両者は補完関係にあると考えます。また、「質」とは、番組内容の善しあしを指すのではなく、「勉強になった番組」も一つの質、「笑えた番組」も一つの質としてとらえています。いずれにしても、視聴質を視聴率が悪いことの言い訳に利用せず、視聴率を支えるものとして活用していこうとのスタンスです。
──「リサーチQ」開発の背景は。
従来行ってきた視聴質調査は、いわゆる「紙の調査」だったため、データを集計するまでに時間がかかり、実用性に乏しいという問題点がありました。そこで、インターネット調査のノウハウを持つ慶応義塾大学と協力し、1997年、ビデオリサーチの機械式個人視聴率の導入に歩をあわせて「リサーチQ」をスタートしました。インターネットの活用により、「速く」「安く」「多数から」「毎日」情報を集められるようになりました。さらに、視聴者の心の複雑な動きをとらえる「期待度」「満足度」「集中度」の3要素を抽出。説得力のある「質」の数値化を可能にしました。
社内の誰でも利用可能営業活動にも活用
── 調査方法と内容は。
http://www.rq-tv.com/
回答者はまず「リサーチQ」のホームページにアクセスし、番組表から見た番組をチェックします。次にチェックした番組について「見ようと思って見たか」(期待度)、「見てよかったか」(満足度)、「集中して見たか」(集中度)という指標別に5段階評価で回答。バラエティー、ドラマ、報道と、カテゴリー別の番組評価の選択肢もあり、意見などは自由回答欄に記入します。なお、携帯電話版ではコミュニケーション性をふまえ、「人にどれだけ勧めたいと思ったか」(オススメ度)という尺度が加えてあります。集まったデータは、テレビ朝日のイントラネットに載せ、社内の誰もがリアルタイムに見ることができます。また、毎日の調査以外に、新番組の細かい内容評価や、これから伸びそうなタレント、一社提供番組のスポンサー評価や、制作者が個人的に掘り下げたい番組評価など、特別に設定した「オプション調査」も実施できます。
── 調査結果の活用法は。
これまで培ってきた膨大な調査結果から、「『期待度』より『満足度』が低いと視聴率が下がる」「『期待度』より『満足度』が上回ると視聴率が上がる」といった傾向が分かっており、番組制作者は、スコアを参考に早めの番組改善や新番組の企画を行っています。また、営業担当者は、「『集中度』が高いのでCMも見てくれている可能性が高い」などの情報を広告主にフィードバックしたり、回答者が多くの属性を登録していることにより、興味の対象やライフスタイルがわかるため、それを営業活動に役立てたりしています。
── 登録会員数は。また、スタート当初から変化していることは。
開始から1年目は100名に満たなかった会員数ですが、現在は約3万7,000人が登録、1日の回答数は平均4,500人です。比率としてはF1、F2、M2層が多く、今後はティーンや団塊世代の会員を増やしていきたいと考えています。「リサーチQ」は、スタート以来、自由回答をキーワード検索できるようなシステムの整備や、日常の回答より深い内容が探れる調査項目の拡充など、様々な工夫を重ねており、そうした使い勝手の向上は絶え間なく続けていくつもりです。
── 今後の抱負は。
これまでのテレビ番組は、放送局が一方的に情報発信して終わるものでしたが、窓口さえ設ければ多くの反応が返ってくることが分かりました。デジタル多チャンネル時代に向け、「リサーチQ」のノウハウは重要になると思います。こうしたテレビ番組の質的効果に関するデータをますます番組作りや営業活動に活用していきたいですね。