雑誌社と広告会社で構成する日本雑誌広告協会は、雑誌と雑誌広告が持つ質的効果や役割を研究し、アピールするための活動を多く行っている。同協会事務局長の三浦啓一氏に、雑誌および雑誌広告の質的効果をめぐる研究成果をはじめ、媒体価値開発の経緯や今後の課題などについて聞いた。
質的効果が深める愛読者との「絆」
── 広告効果の質的な側面に着目した背景についてお聞かせください。
インターネットに代表されるデジタル時代到来の影響で、雑誌の販売部数は減少傾向にあります。部数や到達率は、広告主への広告効果説明責任(アカウンタビリティー)が問われる今、重要な要素だととらえています。
しかし一方で、雑誌は、愛読者自身が、似ている内容の中から「自分に一番合った1冊」を自らの目で選び、お金を出して買います。一方、雑誌制作者もそういう「愛読者」に向け、カスタマイズした情報を送ります。この、まさに「絆(きずな)」という言葉がピッタリくる密接な関係は雑誌ならではの効果で、部数や到達率と遜色(そんしょく)のない雑誌の特長、魅力と言っていいと思っています。
2005年頃、米国雑誌協会(MPA)が雑誌と雑誌広告の価値を啓発しようと、「部数」という指標以外に、雑誌の持つ個性や読者の質に基づく「雑誌独自の媒体価値」をさまざまな観点からアピールし、関連業界や広告主から支持を得ていました。この動きに刺激を受け、当協会でも研究チームを発足させたのです。
MPAでは、読者と広告主の結びつきを作り出す雑誌の存在を「エンゲージメント」と呼んでいました。この言葉を「絆」と訳し、セミナーの名前にも使いました。
──セミナーの概要、反響は。
これまで3回開催しました。2005年の「雑誌と雑誌広告の媒体価値と魅力を探る」を皮切りに、「雑誌の未来と多メディア化の中での雑誌広告の可能性」(06年)、3回目は「“愛読者”と“雑誌”のチカラ」(08年)と、雑誌の持つ「絆」を多面的に探るテーマを設けました。 広告主、出版社、広告会社などから、1回目が490人、2回目が2日間で計1,034人、3回目が540人と、回を重ねるごとに参加者が増え、関心の高さを実感しました。
── こうした活動からの成果、課題は。
雑誌と読者の絆は、間違いなく強いと確信できたと思います。しかし、では雑誌に広告を出してどのぐらい商品が売れるのか、といった効果をデータで測るのは難しい。セミナーでも、参加者の広告三浦啓一氏主からは高い関心が寄せられましたが、では商品ごとにどのような広告を載せるか、どの雑誌に載せるのがいいのか、他メディアに比べて雑誌が優位な点は何かなどについては、今のところ計数的に証明されておらず、研究途上です。
つまり、「だから雑誌広告なんだ」と広告主が確信できる「武器」を探していくことが重要だと感じています。雑誌と一言で言っても、女性誌やコミックもあれば、専門誌もあります。媒体ごとに考える必要があるため、簡単に正解は導き出せないかもしれません。しかし、アカウンタビリティーへの要望が深まる今、広告主を説得する材料を探すことは、大きな課題だととらえています。
デジタル時代に問われるプリントメディアの「質」
── セミナーのほかに、雑誌広告の効果や役割をアピールするための取り組みは。
雑誌と雑誌広告についての理解を深めてもらうためのデータの整備と情報を発信をしています。その代表例として、07年に日本雑誌広告賞が50回を迎えたのを記念し、『日本雑誌広告賞50年の記録─雑誌広告は進化する』を刊行しました。これを見ると、雑誌広告は時代を映してきた文化だと再認識できます。
いい広告が載っていれば雑誌への信頼度も上がるので、広告の審査も当協会の重要な業務のひとつです。悪質な広告を排除すると同時に、広告自体の「質」を上げれば、結果として「絆」を深めることにつながるのではないかと考えています。
── デジタル時代において、質的な効果測定や評価が、プリントメディアにどのような可能性をもたらすと思いますか。
昨年からの世界的な経済危機の中、それまでのデジタル分野への投資が一息つきました。今後は、デジタルのあり方が見直されると同時に、既存のメディアが再評価されるのではないかと見ています。
特にインターネットなど情報が玉石混交のメディアに比べ、雑誌メディアはプロが取材し、編集しているため、ターゲットに合った深い「共感性」と「信頼性」という強みがある。これは新聞も同様です。まさに「質」が問われるようになってきているのだと考えます。
消費者もそれは認識していて、総務省のデータでも、選択可能情報量に対する消費情報量をメディアごとに分析したところ、インターネットの0.007%に対し、雑誌は33.2%、新聞が6.8%と、情報源としてはプリントメディアへの関与度が相対的に強いことがわかりました。
結局、雑誌も雑誌広告も、熱意を持っていいものを作る、それに尽きると思います。雑誌は何のために存在しているのかを常に自らに問いかけながら、媒体価値をさらに向上させ、広告を含めた雑誌の持つ情報が世の中に貢献できるよう努めていく考えです。