誰にでも平等に与えられた時間というチャンス。それを効率的に活用し、様々なビジネスにおいて少ない労力で多くの成果を上げる実践法を紹介する本田直之氏の「レバレッジ」シリーズが累計70万部を超える人気を集めている。
修辞を廃して要点をつくドライな文体や、輸入雑貨の雑誌と見間違うようなスタイリッシュなカバーワーク。そして「一年の半分はハワイ暮らし」「サーファーにしてソムリエ」といったプロフィルが相まって、本田氏の著書には若い学生のファンも多い。一連の著作の狙いや、読者層を拡大させているビジネス書の現状に対する考えをうかがった。
カバーをかけずに持ち歩きたい本に
── 「レバレッジ」シリーズの第一弾は2006年12月に発売された『レバレッジ・リーディンング』でしたが、出版の経緯は。
これまで僕はいろいろな会社を経営してきましたが、社内のメンバーを見ていると、一生懸命仕事をして成果をあげている人と、かたや同じように努力していても成果があがらない人がいることに気がつきました。両者の行動パターンにはある種の傾向があり、成果があがっていない人ほど、時間がない、忙しいと言います。どうすればいいのか。効率的な仕事法について、機会があるごとに社員には話していたのですが、やがてそれを本にした方がいいだろうと考えるようになりました。
シリーズ化の構想は当初からありました。しかし、いきなり狭いテーマの本を書いても、僕のことを知らない読者が買ってくれないでしょう。そこで、「本を買う層というのは、いかに本を読んでそこからどう情報を得るかということに関心があるだろう」と考え、まずはビジネス書を効率的に読みこなすための本を書いて、手にとってもらおうと考えたわけです。
── 執筆にあたり心掛けたのは。
先に外見的な話をすると、「カバーをかけずに持ち歩きたくなるような本にする」ということです。社員に本を読め読めといっても、なかなか読まないんですよ。いろいろ言い訳をするけれど、突き詰めると本を読むこと自体が格好悪いと思っているフシがあるようでした。特にビジネス書には、ある種の胡散(うさん)臭さを感じている人もいるわけで、それを払拭(ふっしょく)するということは今でもすごく意識しています。
中身に関して簡潔にいえば「読みやすくて役に立つものにする」ということです。時間的な余裕のない今の社会では、ぱっと読んだらすぐ使えるような知識が求められます。そこで、僕の本は1時間で読み切れるように書いています。
成功モデルなき時代のサバイバルツール
── アメリカでも仕事をされていますが、日米のビジネス書を比較してお感じになる違いは。
日本の旅行ガイドは写真だらけですが、欧米では「ミシュラン」の旅行ガイドブックを見ても分かるように、ほとんど写真がありません。ビジネス書においても日本では図版や写真が多く、論理が脆弱(ぜいじゃく)でも視覚的になんとか理解できてしまいます。日本のビジネス書によくあるのは、著者が自分の思いばかりを書き、何がポイントかよく伝わらないということです。それは読者も論理の緻密(ちみつ)さをさほど求めてこなかったという面もあるでしょう。
一方、アメリカの文化はテキストから理解する文化であり、非常に書物を活用します。個人の読書経験が豊富ですし、ビジネス書においても論理の構築がしっかりしていて、ページ数の多い書物も読んでみると論旨が明瞭(めいりょう)で分かりやすいことが多いですね。自分の本に関しても、一番時間をかけるのは、全体の構成をしっかりと組み上げることです。構成や見出しの配置が決まれば、後の作業は楽ですね。
── 出版不況の中でビジネス書市場は好調であり、特に就業前の若者層や働く若い世代の関心が高まっています。
かつての高度経済成長期の日本は「連続の社会」でした。上司と同じことをやっていれば、社内でのポジションが上がり、成果も生まれたわけです。ところが今は、非連続の社会です。昔の成功モデルが通用しなくなり、歴史ある大企業すら無くなってしまうこともあります。
今ではサバイバル能力を自分でつけることが必要となり、これまでの読者層以外でも、自己投資としてビジネス書を読む人が増えているということでしょう。この先、社会の不況感が深刻化すれば、その数はさらに増えていくと思います。
ネット社会が生む現代のビジネス書
── 読まれているビジネス書の傾向の変化は感じていますか。
例えば、昔なら僕のような無名の人間の本は、そもそも出版ができなかったと思います。かつてのビジネス書は経済紙に広告が載るような、経済学者の分厚い研究書や、著名な評論家による未来社会論や経営訓のような大きなテーマを扱うものが主流でした。
しかし今求められているのは個人の生き方に立脚したユニークな面白さや、自己啓発的な切り口です。個人ブログの広がりによって、そのような無名な書き手を出版社側が探しやすくなりましたし、書き手側もネットから読者のニーズや評価をダイレクトに拾い、著作に反映することができます。個人がビジネス書を世に出しやすくなった中で、出版情報の発信も一般的な書籍の広告手法に近いコミュニケーションが考えられるのではないでしょうか。
レバレッジコンサルティング代表取締役社長
シティバンクなどの外資系企業を経て、バックスグループの経営に参画し、常務取締役としてJASDAQへの上場に導く。現在は、日米のベンチャー企業への投資事業を行うと同時に、少ない労力で多くの成果をあげるためのレバレッジマネジメントのアドバイスを行う。日本ファイナンシャルアカデミー取締役、コーポレート・アドバイザーズ・アカウンティング取締役、米国Global Vision Technology社取締役を兼務