創業100年を機に静岡工場を再構築 LEDヘッドランプの需要拡大を目指す

 今年4月に創業100周年を迎える自動車照明器の大手メーカーの小糸製作所。昨年度は売上高、営業利益、経常利益、当期純利益ともに過去最高を記録。その強みや、今後の展望について、取締役社長の大嶽昌宏さんに聞いた。

 

大嶽昌宏氏 大嶽昌宏氏

──今年創業100年を迎えます。この節目に取り組んでいくことは。

 企業は存続することが大切なので100年はあくまで通過点だと考えています。つまり、これまでと変わらず「次の発展のために今できること」を実践していくのみです。ただ、100年の節目を利用して思い切ったことができるチャンスでもあるので、一つの大改善を図ろうと思っています。それは、静岡工場の再構築です。

 日本の自動車生産は1990年に1,300万台のピークを迎えましたが、それ以降は減少の一途をたどり、現在は900万台。少子高齢化が進む中、今後、800万台、700万台とさらに減少していくというのが大方の見方です。我々自動車部品メーカーも当然その環境下に置かれています。
  当社は九州にも生産拠点がありますが、静岡にある3工場はそれよりも古く、自動車生産のピーク時にはフル稼働していました。現在も施設や設備はそのキャパシティーを有しているわけですが、自動車生産量はピーク時に比べて30%減っていますから、それに合わせて自社工場の機能もコンパクト化する必要があります。単にコンパクト化するだけでなく、部品製造の各工程を物理的に近づけ、より効率的な生産ラインを整えていきます。将来的には今の半分まで圧縮し、オーバーキャパシティーを解消したいと考えています。

──海外展開の現状と今後について。

 当社は、米国、メキシコ、中国、台湾、タイ、インド、インドネシア、英国、チェコと、世界各国に生産拠点を構え、そのすべてが順調に業績を上げています。長年赤字が続いていた欧州も黒字化しました。現在、慎重に進出のタイミングを計っているのは、ロシアとブラジルです。すでに両国でビジネスを始めている自動車メーカーからは、ぜひ進出してほしいとの要請もあります。現在は、両国の情勢を調査しているところで、おそらく技術援助からスタートしてジョイントベンチャーを展開するなど、段階的な進出の方法になるのではと考えています。

──小糸グループの好調を支えている最大の要因は。

 それは、「現場力」です。工場スタッフの一人ひとりが使命感をもってものづくりに取り組み、品質の向上や生産工程の改善をはかっています。まさに「カイゼン」を地でいく人たちです。これは当社の先輩たちのおかげで、製品設計の問題点までも指摘できるようなスタッフを育成し、次の開発のアイデアにつなげてきたという積み重ねの成果といえます。QCD(Quality 品質・Cost コスト・Delivery 納期)の向上において欠かせない現場力は、これまでもこれからも当社の大事な資産です。

──成長をけん引している主力製品は。

 現在最も好調なのは、LEDヘッドランプです。当社は2007年、LEDヘッドランプの実用化に世界で初めて成功しました。トヨタ自動車「レクサス LS600h」に搭載されたLEDヘッドランプは、明るさと瞬時点灯に加え、省電力、長寿命、省スペースを実現し、世界を驚かせました。これによってデザインの自由度も高まりました。以後も開発を重ね、明るさはそのままにLEDの数は約1/5に、消費電力は約1/2以下になりました。現在、国内の主要取引先は、トヨタ自動車、日産自動車、本田技研工業、マツダ、日野自動車など、すべての自動車メーカー。海外の取引先は、GM、フォード、ハーレーダビッドソン、ルノー、PSAプジョー・シトロエン、ダイムラー、ボルボトラックスなど。国内外の多くの自動車メーカーから「LEDヘッドランプならKoito」との支持をいただいています。

 もちろん、リーディングカンパニーだからといって安閑とはしていられません。競争は激化しており、新技術、新商品の開発に挑戦し続けています。その一方で、先を行き過ぎてうまくいかないこともある業界なので、マーケティングを徹底し、自動車メーカーや消費者のニーズをしっかりと捉えた上で、0.5歩進んだ技術を提供していきたいと考えています。

──LEDヘッドランプの実用化に世界で初めて成功した2007年に社長に就任されました。

 就任した翌年にリーマン・ショックがあり、その後、円高、尖閣問題、東日本大震災、タイでの洪水と、次々に深刻な問題が起こりました。減収減益は避けられず、厳しい時期が続きました。ただ、絶対に人員削減はしないと心に決めていました。創業者・小糸源六郎のおいで5代目社長、そして私の父である大嶽孝夫が、戦争で悪化した財務体質の改善のために人員削減を行ったことについて、「あのようなことは二度としたくない」と言っていたのを知っていたからです。
  そこで、リーマン・ショックのあった年に設備投資の凍結を断行しました。社内からは強い反対意見がありましたが、その後に相次いだ様々な問題を思うと、早めに決断して良かったと思います。その結果、雇用と現場力を守ることができました。

 14年3月期は、国内が消費増税前の需要拡大に加え、北米、中国、アジアにおいても自動車増産や新工場の稼働が順調に進み、売上高、営業利益、経常利益、純利益ともに過去最高となりました。今年度は、消費増税前のかけこみ需要の反動減などが懸念されますが、北米における受注増や、中国など新興国での自動車増産が見込まれることから、前期比増収を予想しています。

──リーダーとして心がけていることは。

 何の冊子だったのか覚えていないのですが、「ボスとリーダーの違い」について書かれた特集がとても気に入り、切り取って目の届くところに置いています。「ボスは、『わたしが』と言い、リーダーは、『わたくしたちが』と言う」。「ボスは、『誰が悪いか』を指し、リーダーは、『何が悪いか』を指す」。「ボスは、『それがどのようにして行われるのか』を知りたがり、リーダーは、『それをどのようにするか』を知っている」。他にもいくつかの言葉がある中で、この3つが特に気に入りました。どこまでできているか自信はありませんが、なるべく心がけていることです。

大嶽昌宏氏 大嶽昌宏氏

──愛読書は。

 私は、一度読んだ本はそれきりで、何度も読み直すことはありません。ただ、高校2年生の時に石坂洋次郎の青春小説に夢中になり、『陽のあたる坂道』『青い山脈』『あいつと私』など彼の作品を片端から読みました。そこまで一人の作家にのめりこんだ読書経験は、後にも先にもありません。

 

大嶽昌宏(おおたけ・まさひろ)
大嶽昌宏氏

小糸製作所 取締役社長

1947年静岡県生まれ。69年慶應義塾大学法学部卒。同年三菱自動車入社。77年小糸製作所入社。87年取締役。02年ノースアメリカンライティングインク(米国)CEO。05年小糸製作所代表取締役副社長国際本部長・経理本部長。07年から現職。

※朝日新聞に連載している、企業・団体等のリーダーにおすすめの本を聞く広告特集「リーダーたちの本棚」に、大嶽昌宏さんが登場しました。(全国版掲載。各本社版で、日付が異なる場合があります)

広告特集「リーダーたちの本棚」Vol.71(2015年3月17日付朝刊 東京本社版)