国内最大の投資信託「グローバル・ソブリン・オープン(毎月決算型)」(通称「グロソブ」)を主軸に約120本の投資信託を運用する国際投信投資顧問。リーマンショック以降、金融市場は低迷が続いているが、投資信託の未来をどう見ているのだろう。この6月に社長に就任した吉松文雄さんに聞いた。
──主力商品「グロソブ」が今年12月で運用開始から15周年を迎えます。グロソブのこれまでとこれからについて、聞かせてください。
グロソブは、運用開始の翌年の98年に銀行窓販が解禁されたことを契機に人気が高まり、2008年のピーク時の資産残高は約5兆7千億円、保有者は推定150万人以上にのぼり、当社の旗艦ファンドとなりました。しかし、同年にリーマンショックや欧州債務危機などの影響を受け、厳しい投資環境が続いています。
ただ、そもそも投資信託は、目先の利益を求めて短期売買を行うのではなく、長期投資によって安定的な収益を得るのに適した金融商品です。実際、グロソブも設定以来の騰落率は約30%のプラスとなっています。金融マーケットを育てるためにも、資産運用における長期投資のメリットをアピールしていかなければならないと思っています。
具体的な提案として進めているのは、お客様のポートフォリオ、すなわち投資商品の組み合わせによってリスクとリターンを分散させる方法です。例えば、為替変動リスクを低減しながら新興国の国債や政府機関債を主な投資先とする、当社の「エマージング・ソブリン・オープン(毎月決算型)為替ヘッジあり」という商品がじわじわと人気が出てきています。現在まで19カ月連続で資金流入が続いているファンドで、モーニングスター社“ファンド・オブ・ザ・イヤー2011” の高利回り債券型部門で優秀ファンド賞も受賞しています。その他、主要先進国通貨建の国際機関債を主要投資対象とする「国際機関債オープン(為替ヘッジあり)」も、相対的にリスクが低く、安心してお持ちいただけるファンドです。グロソブとこうしたファンドを組み合わせることによって、更に分散効果が出て、全体のバランスとして長期的に安定収益が期待される資産運用を提案していきたいと考えています。
「貯蓄から投資へ」という国の施策はなかなか進展せず、日本の個人金融資産に占める投信の割合は4%にすぎません。そのなかで投資の導入商品として健闘したのがグロソブで、これまでもこれからも、日本にとって重要なファンドだと思っています。
──どのような取り組みに力を入れていますか?
研修やセミナーを開いて投資環境や商品内容についてお客様にくわしくご説明したり、客観的なデータを入れた商品資料を充実させるなど、お客様満足度を高めるためのサポート体制の拡充に力を入れています。当社投資信託をご販売いただいている販売会社様に向けても多岐にわたる研修などを実施しており、格付投資情報センター(R&I)が行う投信会社満足度調査では、「販売会社に対するサポート力」で5年連続首位となりました。マーケットが不振なときには当然クレームが増えますが、逃げずに説明責任を果たすことが重要だと思っています。
また、今まで以上にお客様にアクセスできる体制を整えることを考えています。営業の基本は、お客様と直接会って、いいことも悪いこともおうかがいして、誠実にお答えしていくことです。社員には、「お客様のところに足を運んでご意見をうかがってくるように」といつも言っています。そして、社員それぞれが対話の中からヒントを見つけ、サービスや商品に反映していってほしいと思っています。
──大学卒業後、地方紙で7年間記者をされていました。金融界に転職したきっかけとは?
新聞記者の仕事は楽しかったのですが、新聞を読んでいたらたまたま三菱銀行の国際部門の中途採用の新聞記事を見つけて応募しました。私は大学時代、国際関係論を専攻し、一時は研究者の道を志しました。このときに師事したのが故・玉野井芳郎教授で、経済の大きな流れや時勢に惑わされない学者の生き様に触れ、とても影響を受けました。最終的には熊本日日新聞に入社しましたが、大学時代の経験を生かして、国際的な業務にチャレンジしたいと思い、転職したのです。
──銀行マン時代の経験の中で強く印象に残っていることは。
東京三菱銀行とUFJ銀行が合併して三菱東京UFJ銀行が誕生したばかりの2006年、新設のお客様ご相談部長となったときです。クレームの窓口となる部だったので、どうしたらお客様の満足度を高められるのかをいつも考えていました。その場しのぎで物事を解決しようとするのではなく、もっと真摯(しんし)にお客様の声を受け止めなければならないと思い、改革に取り組みました。最初は小さな部でしたが、会社にとって重要な部だと信じて、CS(顧客満足)やES(従業員満足)を推進するグループや、店頭サポートなどを強化し、最終的には100人を抱える部になりました。
──来年は創立30周年です。経営方針は。
いちばん大切なのは、すべての社員が「お客様のために」と考えて行動すること。そういう意味で、私の使命は、社員が働きやすい環境づくりだと思っています。目指すのは、少数精鋭ではなく、“全員精鋭”。社員全員が同じ方向を見て仕事ができる組織です。今年12月にグロソブは15周年、来年は創立30周年の節目ということで、もう一度グロソブのファンを拡大することと、その他約120本の商品のアピールに努めていきたいと思います。
──愛読書は。
学生時代から司馬遼太郎さんの作品のファンで、五木寛之さんの本などもよく読みます。最近では、水木しげるさんの自伝を読んだのをきっかけにその著作群にハマり、彼の生き様に圧倒されました。座右の書は、『あなたを苦から救う お釈迦さまのことば』『あなたを不安から救ってくれる お釈迦さまのことば』の2冊です。著書の北川八郎さんは、インド放浪や40日を超える断食を2回経験され、その体験を通して人の道を説き、著書の印税は恵まれない人に寄付されています。仕事で悩んでいるときに「利より信を求めよ」「少し損をして生きなさい」といった言葉に触れて心が救われました。最新の著書『幸せマイルール 心に清音をもたらす言葉集』も良書で、収益は東日本大震災の被災者に贈られています。
国際投信投資顧問 取締役社長
1953年生まれ。79年東京大学教養学部卒。同年熊本日日新聞入社。87年三菱銀行入社。国内外の支店長を経て06年三菱東京UFJ銀行お客様ご相談部長。10年三菱UFJ証券ホールディングス常務執行役員。12年6月から現職。
※朝日新聞に連載している、企業・団体等のリーダーにおすすめの本を聞く広告特集「リーダーたちの本棚」に、吉松文雄さんが登場しました。(全国版掲載。各本社版で、日付が異なる場合があります)