常識を疑え!大衆デザインで世の中を動かしたい

 2013年元旦に掲載された集英社の新聞広告。アートディレクションを手がけた秋山さんに、制作の過程や広告への思いなどを聞いた。

モノクロで力強い印象と冒険感を表現
広告づくりの原点に出会う

秋山具義氏 秋山具義氏

――広告で使用されている写真は、モデルとなった角幡唯介さん自身がカナダ北極圏・ケンブリッジベイにて撮影されたそうですね。

 角幡唯介(かくはたゆうすけ)さんは集英社出版四賞のひとつ、開高健ノンフィクション賞を受賞されたこともある探検作家で、集英社側から角幡さんを広告のビジュアルとして使いたいというアイデアがありました。広告の打ち合わせをしている時期に角幡さんは北極園へ行かれていて、もしかしたら広告用にセルフで撮影してもらえるかもしれないという話になったんです。そこで、角幡さんが読書をしているようなシーンを撮ってほしいとリクエストしました。それをもとに、集英社の方が北極圏にいる角幡さんと直接メールでやりとりをして、いくつかの写真の中から選んで実現したものです。

 かつて、探検家が秘境で撮影してきた写真を広告に使用することはあったかもしれないけれど、今回のように現地にいる方にメールで連絡をとって、広告用に、しかもセルフで自分を撮ってきてもらうというやり方はなかったはず。そんなやりとり自体が新しいし、固いイメージのある新聞広告で面白いことをするチャンスではないかと思いました。

――モノクロ原稿ですが、力強い印象を受けました。

 メールに添付できる解像度の低い写真を全15段サイズに引き伸ばしているため、必然的に粗い表現となりました。結果論ではあるのですが、そのことにより冒険感が増したと思っています。

2013年1月1日付 全15段 2013年1月1日付 全15段

 僕が広告の仕事を始めた1990年ごろは、新聞広告はモノクロが中心で、版下で入稿していた時代です。製版のとき50線にするか75線にするか、角度はどうするかなど細かく指定していたのですが、それは少しでも表現したいイメージに近づけたいという思いがあったから。この広告の場合は、写真の解像度は低い上にモノクロなので、写真の奇麗さではごまかせない。当時の制作状況に近かったのです。

 北極圏という極寒の地で読書をしていることが面白みでもあるから、背景の見え方は重要。背景のスケール感が欲しくて、雪原の色調について印刷会社の方と何度も打ち合わせをしました。そうした細かい配慮は広告の本質を見せる上で大切で、そんな広告づくりの原点を改めて思い返すきっかけにもなりました。

――読書は、本能。という短いコピーもインパクトがあります。

 コピーは博報堂の石井ヤスヒロさんが考えたものです。正月元日は広告がたくさん掲載されますよね。いつも以上にカラーの広告が多いことも予想していたので、その中で少しでも目を引くように短いキャッチコピーを大きく配置するのがいいと思いました。集英社側からの、力強い写真とキャッチコピーで構成して欲しいという依頼にも答えられたと思っています。

デザインや考え方で何かできたら、変えられたら

――昨年の大ヒット商品、マルちゃん正麺の広告とパッケージデザインも秋山さんの仕事です。

 もともと僕はラーメンが好きで、最近あまり更新はしてないのですが、「ラーメンとデザイン」というブログをやっています。マルちゃん正麺の仕事は、クリエーティブディレクターでプランナーの福里真一さんとコピーライターの谷山雅計さんが「ラーメンのデザインといえば」と僕に声をかけてくれたのがきっかけです。

秋山具義氏 秋山具義氏

 「常識を疑え」という言葉が好きで、マルちゃん正麺の金色のパッケージも常識にとらわれず、商品の特性が最も伝わる表現を模索した結果、たどりつきました。自分の仕事は「大衆デザイン」。おしゃれなものが作りたいとか、ただ目立てばいいとかじゃない。大衆にヒットして、その商品が売れたり人気が出たりして、ようやく仕事したことになると思うんです。広告の仕事をしている人は、みんなそうだと思うけど、それがやりがいでもあります。

 出身が東京・秋葉原で小さい頃から、派手な看板やネオンサインを見て育ちました。その影響はデザインする上で少なからずあると思っています。目立つものの中で、より目立つものをと看板は作られますよね。色の押し出し方とか、感覚的に刷り込まれていると思います。

――ツイッターで情報発信をされていて、つぶやきから人柄も感じとれます。

 よくつぶやいているのは食べ物のこと。食べ物のことは興味を持ってくれる人が多くて、飲みに行きましょうと人づてに誘われることも増えました。それが縁で仲良くなって、仕事につながったりすることもあるんです。ツイッターを通じて知り合うところは現代風だけど、飲みに行って仕事につながるのは昭和の営業と変わらない(笑)。

 ツイッターでは世の中がどんよりした空気のときも、流されずマイペースにいようとか、ネガティブなことは書かないとか自分なりのルールはあります。自分が携わった仕事を知ってもらうきっかけも、かつては雑誌で紹介されるしか方法がなかったけど、今は自ら発信できますからね。つぶやきがきっかけで、雑誌の取材依頼が来ることもある。会社には営業はいないので、自分が営業のつもりでやっているのですが、ツイッターは営業ツールのひとつです。

――最後に、今後の活動について教えてください。

 仕事の中心は広告ですが、CDジャケットやブックデザインなど、幅広く仕事をしていきたいと思っています。飽きっぽい性格なので、ひとつのジャンルだけをずっとやるというのが苦手なんです。これからも必要であればコピーも書くしCMの監督もやるし、いろいろな球を投げていきたい。まだ詳細は言えないのですが、今、ずっとやってみたかった新しいジャンルの仕事をしているんです。告知できるようになったら、ツイッターでもつぶやくのでチェックしてみてください。

ドミノピザのロゴ入りロレックス

ロレックス ロレックス

  ロレックスの中古ショップで購入したもの。「ドミノピザで優秀な社員に贈られるものらしいです。ティファニーのロゴ入りのロレックスも売っていたのですが、自分らしいのはドミノピザのほうだなと(笑)」

 
 
 
 
 

糸井重里さんのサイン入り、ほぼ日手帳

ほぼ日手帳 ほぼ日手帳

  ほぼ日刊イトイ新聞のキャラクター「おさる」の生みの親である秋山さんは、糸井重里氏のファン。「僕が子どもの頃からコピーライターとして活躍されていながら、テレビの司会をやっていたり、雑誌で面白い連載をやっていたり。仕事をする上で一番尊敬している人です。ほぼ日手帳はずっと愛用していて、6年前から、毎年カバーにサインをしてもらっています。きっかけは、究極のオリジナルが欲しいと思ったから。それを糸井さんにお願いしたとき、これを頼まれたのは初めてだって言われて、うれしかった(笑)」

秋山具義(あきやま・ぐぎ)

デイリーフレッシュ 代表取締役/クリエーティブディレクター/アートディレクター

66年東京・秋葉原生まれ。90年日大芸術学部卒。99年デイリーフレッシュ設立。 広告キャンペーン、パッケージ、写真集、CDジャケットなど幅広い分野でアートディレクションを行なう。主な仕事に、東洋水産「マルちゃん正麺」広告・パッケージデザイン、AKB48「真夏のSounds good!」「UZA」CDジャケットデザインなど。

※新聞広告を手がけるクリエーターにインタビューする、朝日新聞夕刊連載の広告特集「新聞広告仕事人」に、秋山具義さんが登場しました。(全国版掲載。各本社版で、日付が異なる場合があります)

広告特集「新聞広告仕事人」Vol.37(2013年3月14日付夕刊 東京本社版)