「家に帰れば、積水ハウス。」というコミュニケーションワードで展開する積水ハウスの広告シリーズを手がけているコピーライター/クリエーティブディレクターの一倉宏さんに、コピーを制作する上でのこだわり、新聞広告に関する考えなどを聞いた。
生活者の目線で表現
企業ブランドの信頼を積み重ねる
――「家に帰れば、積水ハウス。」の広告は、いつから始まりましたか。
2010年、積水ハウスが50周年を迎えるのを機にこのコミュニケーションワードをつくりました。ブランド広告、商品広告ともに統一して使用しています。テレビCMでは、1970年に小林亜星さんが作曲した「積水ハウスの歌」を50周年バージョンとして復活させ、作詞も担当させていただきました。アレンジも新しくして、村上ゆきさんをはじめ、曽我部恵一さん、アルケミストなどのアーティストが歌っています。
――家や家族をモチーフにしたボディーコピーも印象的です。
私自身、親でもあり子でもある生活者のひとり。特に設定などを決めず、自分自身の経験も踏まえて、生活者の目線で書いています。日々の暮らし、人生のあらゆることがコピーを創るヒントになるのです。商品広告ではスペックだけを書き連ねるのではなく、ブランドの信頼を積み重ねていけるようなコピーを考えています。
――言葉を考える上で、こだわっていることは。
とくに企業広告は擬人化して伝わるものだと思っています。広告を見た人は、そこで表現されていることを通じて、この企業は信頼できそうだとか、自分たちの気持ちをわかってくれそうだとか、そんな風に伝わっていくと思うんです。いいところを言うのは広告だから仕方ないんですけど、自慢話ばかりする人のことを信頼するかどうか。人にたとえて考えてみると、明らかですよね。
――広告すべきことをセンスよく表現するのは、クリエーターの腕の見せどころでもあると思います。
大学卒業後、サントリーの宣伝部に入社しました。入社試験で書かされたテーマが「ソフィスティケート(洗練)について」というくらい、「露骨は下品だ」と捉える伝統がありました。テレビCMなどは露骨なものが求められがちですが、それをどこまで洗練されたものにできるかが勝負。とはいえ、かつて手がけたサントリーモルツのCMでは、商品名を連呼して、最後に「うまいんだな、これがっ。」という、一見、実にわかりやすい広告を作ったこともあります。このダイレクトな言葉がユーモラスなコピーとして成立したのは、その時のCMプランナーの佐藤雅彦氏の企画した、非常に計算されたストーリーとかけ合わされたからこそ。彼の手柄でもあります。
――いいセンスや洗練というのは学べるものなのでしょうか。
10代までの過ごし方や育った環境で決まる気がする。急に身につくものではないからこそ、自分の持っているセンスで一番いいものを使うしかないと思います。
今の若手も同じでしょうが、若いころは一つのコピーに絞るまでに100本は軽く超えるくらい、コピー案を書いていました。現在は、ひたすら書くというよりは頭の中でシミュレーションして、ある程度の数に絞ってから書き出しています。でも、ああでもない、こうでもないと考える作業自体は変わっていません。
当然ですが、最初からメジャーな仕事をやってきたわけではありません。駆け出しだった頃は、新聞の突出広告の小さいスペースで、商品コピーを書くという仕事もしてきました。どんなに小さなサイズでも何百万人の目に留まるチャンスはあるわけです。だから、もし最後まで読んでもらえたら、「なんかいいな」と読み手に思ってもらえることを目指して書いていました。
言葉のコミュニケーションが好き
ビジュアルとのかけ算で広告表現の可能性を広げたい
――現在まで仕事を続けてきた、その原動力は。
好きだからだと思います。言葉でなされるコミュニケーションが好きなんです。もちろん、広告自体も好きなんですけど、それ以上に文章を書くことが好きなんです。10代半ばで詩を書くことに目覚め、ガリ版刷りの詩集や雑誌に投稿して掲載された詩を「いいね」と言ってもらえたとき、本当にうれしかった。それが原点なんです。だから広告だけが好きで広告業界に入った人とは、少し違います。
――最近の広告を見ると、言葉よりデザインの力が目立つことが多いように思います。
デザインに対するプレステージが高いんですよね。だから、広告もデザイン重視になりがちなんだと思います。芸術の世界では、「言葉のアーティスト」は詩人なわけですが、まったく少数派。詩が書けるからってモテるとかもないですから(笑)。今から20年くらい前、石が1個と石が2個写った2枚の写真とコピーを組み合わせて、博多にあるデパート「岩田屋」の広告を作ったことがあります。石が1個の写真には、「いじわるは、少年のI LOVE YOUでした」、2個のほうには、「泣き虫は、少女のI NEED YOUでした」と書きました。そうすると、ただの石の写真だったのに、なんとなくそんなイメージに見えてくるんです。不思議なんですけどね。こうしたビジュアルと言葉のかけ算によって、表現できる可能性はまだまだあると思っています。
――新聞広告の役割について、どのように捉えていますか。
新聞は情報を丁寧に伝えられるメディアだと思っています。企業ブランドの構築にはイメージを積み重ねていくことが大切なので、新聞をしのぐものはない。とはいえ、最近は、「この広告を出したら、売上を測るPOSデータがどれくらい上がった」とか、どうしても即時的な効果が求められる風潮がある。そうした中でも、積水ハウスは広告に対する軸がぶれていない。企業側も長いスタンスで広告と向き合っているのです。今、広告を見た高校生が、将来、家を建てるときに「積水ハウスっていいな」と思ってくれることが理想。そういう蓄積のためにも広告自体の完成度の高さはもちろんですが、メディアに露出し続けることも重要です。
老眼鏡とちびた鉛筆に注目!
東京コピーライターズクラブ(TCC)に30年間会員で在籍したことを記念して贈られる、クマの置物。アートディレクターの副田高行氏がデザインしたTCC賞のトロフィー(左)と同じモチーフ。30年間コピーライターであった証として、クマが持っている鉛筆は短く、老眼鏡もかけている。チャーミングな置物。
憧れの先輩、杉山登志さんが描いた絵
「伝説のCMディレクター、杉山登志さん手がけた資生堂の広告に憧れていた」という一倉さん。それを知ったサンアドの酒井睦雄氏からプレゼントされた絵。「酒井さんが最後に杉山さんと会ったときにもらったという、貴重な絵です」
コピーライター / クリエーティブディレクター
1955年、群馬県渋川市生まれ。筑波大学卒業後、サントリーに入社。仲畑広告制作所を経て独立。東京コピーライターズクラブ副会長、筑波大学、多摩美術大学非常勤講師。作詞家として斉藤和義「ウエディング・ソング」「おつかれさまの国」などの作品がある。著書に『ことばになりたい』(毎日新聞社)『人生を3つの単語で表すとしたら』(講談社)ほか。詩やショートストーリーも発表している。TCC最高賞、ADC賞、朝日広告賞など、受賞多数。ホームページ www.1-kura.com
※新聞広告を手がけるクリエーターにインタビューする、朝日新聞夕刊連載の広告特集「新聞広告仕事人」に、一倉宏さんが登場しました。(全国版掲載。各本社版で、日付が異なる場合があります)