サントリー「GREEN DA・KA・RA」の広告のクリエーティブディレクションを手がける赤松隆一郎さん。その制作の過程、広告づくりで大切にしていることなどを聞いた。
――グリーンダカラちゃんというキャラクターがかわいいと評判です。
GREEN DA・KA・RAは、果実など体にいい11種類の素材が入っていて、子どもも安心して飲める。グリーンダカラちゃんは、その象徴でもあります。子どもをキャラクターとして登場させるアイデアを、アートディレクターの佐野研二郎さんが1枚のビジュアルに表現してくれました。キャラクターを商品の化身と設定し、グリーンの帽子をボトルキャップに見立てたり、パッケージのハートマークをシャツの胸の部分につけていたり。新聞広告やポスターでダカラちゃんがパッケージと同じサイズになっているのは、この設定がもとになっています。
パッケージは、商品の特性がわかりやすく表示されたデザインです。デザインの完成度が高いので、広告ではパッケージを前面に出していくことが決まりました。
――出演者の女の子はどのように決まったのですか?
このキャラクターを使った広告案がプレゼンで通った時点では、出演者が誰になるか未定だったんです。アイデアは気に入っていましたが、イメージに合った女の子に出会えなければ、広告として成立しない可能性も含んでいました。
オーディションで出会った子どもは、400人以上。イメージに合う子をギリギリまで粘って探して、ようやく巡り合うことができました。名前はしずくちゃんです。しずくちゃんは、あるカメラマンの方を通じてオーディションに参加してくれました。オーディションでは、他の子どもは自分の番になるまでじっとしているのに、しずくちゃんだけは自由奔放。カメラの前を横切って僕らのところに走り寄ってきたりして、屈託がない子どもらしさが気になって気になって。ただ、当時まだ3歳でしたし、奔放なぶん、撮影本番でうまくいかない可能性もある。それはある種のリスクでもあります。それでも、この子にしよう!と、スタッフ全員で決めました。
しずくちゃんに出会えなければ企画も成立しなかった。どうなるか分からない、という部分を制作チームみんなで乗り越えたことで、僕らの想像を超えるチャーミングなキャラクターが誕生したのだと思います。リスクを取るかについてはクライアントの判断があることは当然ですが、クリエーティブディレクターとしての力量が試される部分でもあると思っています。
時間軸のあるストーリーとビジュアルを融合させた世界観
――広告の世界観はどのように作り上げていったのですか?
佐野さんが作ってくれたビジュアルと、僕が作った時間軸のあるストーリーを融合させながら、確立させていきました。具体的には、ダカラちゃんというキャラクターのアイデアから、最初に僕がイメージしたのが『サウンド・オブ・ミュージック』のような世界観です。先生と子どもがいて、緑があって、市場の中をおしゃべりしながら歩いていて、どの世代の人が見ても「いいな」と思える世界が広がっていて、そこに音楽がうまく重なったらいいかもしれない、とぼんやりイメージが固まっていきました。
僕の場合、広告を企画する手法のひとつに、自分で音楽(CMソング)を作るというのがあるんです。たとえば、11種類の体にいい素材が入っているという特性から、ダカラちゃんという女の子が市場で体にいい素材を集めている絵がイメージとして浮かんできて、「いいもの、いっぱい、あつめて、あつめて」というフレーズが生まれました。
――独特な手法ですね。
音楽を作るときの気分は、広告づくりの判断基準の一つでもあります。曲の構成でいうと、こういうことだな、とかイメージしやすいんです。今回はダカラちゃんという女の子がいて、市場を走っていて、そこにこういう歌が流れたら……というゴール地点がぼんやり見えていました。それから、その間を埋めていきます。そこが一番大変なんですけどね。(CMの動画はこちらからご覧いただけます:グリーン ダ・カ・ラ公式サイト)
サントリー「グリーンダ・カ・ラ」CM
――CMプランナーとして電通で働き始める前は、ミュージシャンを目指す銀行員だったそうですね。
大学時代からバンドをやっていて、メジャーデビューが決まって銀行員を辞めました。でも、事情があって、結局はプロのミュージシャンにはならなかった。無職になって、これからどうしようか考えたとき、次の仕事は少しでも音楽に近い、創作や表現する仕事に就きたいという思いがありました。そして流れ着いたのが、広告の世界。今でも音楽活動は続けています。曲を作りながら、広告のアイデアが浮かんだり、その逆もあるんですよ。音楽活動と広告制作、その両方を行ったり来たりしながら、どちらにもいい影響がある感じです。
――赤松さんにとって広告づくりに音楽活動は欠かせないものなのですね。
アイデアに困ったら、最後の最後は歌えばいいと思っています(笑)。仕事では締め切りが迫ったり、アイデアが面白くないと焦っていると、スイッチが入ります。スイッチが入ると、手に取った雑誌の特集記事が参考になることもあるし、偶然見かけた写真がヒントになったり、求めている情報が目の前に立ち上がってくるんです。そういう断片でアイデアの欠けている部分を埋めていきます。
ある程度企画がまとまった時点で、人に話すようにもしています。話している相手がつまらなそうな顔をしたり、いま一つ伝わっていない感じがすると、なんとかしてわかってもらおうとか、面白くしようと、その場でどんどんアイデアを付け足したりしながら、がんばるんです。そうすると、頭で考えるよりも前に言葉が出てきたりして、「あれ、今言ったこと、なんかいい感じじゃない?」なんて自分で驚くことがあります。「いいものゴクゴク。」というキャッチコピーも後輩に企画を説明しているとき、急に出てきた言葉。紙に書いていない、説明しながら生まれたコピーなんですよ。
平凡な言葉のキャッチコピーでも、核心を突いた言葉であれば止まっている一瞬が力強いビジュアルとなり、新聞広告だとページをめくる手を止めることができると思っています。
印象に残る表現で、商品の特性を必ず伝える
――広告づくりにおいて、赤松さんが大切にしていることとは。
当たり前のことなんですけど、商品やサービスの機能や特性など伝えるべきことから絶対に逃げない。むしろ、必ず言う。とはいえ、広告で伝えるべきことを、そのまま伝えるのは面白みに欠ける。正しいことを、そのまま言っても印象に残りにくい。だから、何かしらサービスするんです。今回作ったCMで死守したのは「いいもの、いっぱい、あつめて、あつめて」というフレーズです。サービスしたのは最後の「できたのは、こちらになります」というフレーズ。字余りでモニョモニョって歌うところ、定型から逸脱したところがポイントです。たとえば、とても流暢(りゅうちょう)にしゃべる話のうまい人が話の途中で引っかかったりすると、そこだけが強く印象に残ったり、その人をよりチャーミングに見せたりすることってあると思うんです。
――最後に、今後やってみたいことを聞かせてください。
商品が売れるという効果がちゃんと出ること、いいものを見たなと思ってもらえること。この二つが両立する広告を作ることが目標。広告はクリエーターの作品ではないのはわかっています。ただ、広告の作り手である僕らにも、今の時代を生きていて感じることや思うことは当然あるわけです。それがクライアントが伝えるべきことと上手に重なるからこそ、唯一無二の表現が生まれるのだと思います。
広告を見る人に「なんか、いいよね」って思ってもらうために、広告の企画のバックグラウンドのような部分も自分の中でしっかり考えるようにしようと思っています。クリエーティブの後ろにきちんと折り込まれた物語を存在させると、1枚のグラフィック、30秒のCMの中に独特の空気感が漂うんです。言葉では説明がつかないものを漂わせるために、自分の中にしっかりとしたストーリーを、物語を持っておきたい。たとえ商品が前面に出たベタな広告だとしても、「なんか、いいよね」っていう、モヤっとして言葉では説明できない空気感が漂う、そんな広告をこれからは作っていきたいと思います。すごく難しいんですけどね、頑張ります。
モンブランの水性ボールペン
40歳になったときに自分で買いました。それまでは100円ショップで買ったボールペンとかを使っていたんですけど、今は何を書くにもこれを使っています。
「ノックの帽子屋」のハット
天然パーマで寝癖がひどい(笑)。それを隠すためにかぶっています。東京・曳舟にある帽子屋「ノックの帽子屋」のハットは、横山智和さんという職人さんが作った帽子です。
電通 クリエーティブディレクター/CMプランナー
1969年 愛媛県生まれ。筑波大学第二学群 日本語・日本文化学類卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)に入行。1998年、電通西日本に転職、2003年、電通に移籍。サントリー、大和ハウス工業、ミツカン、P&G、おやつカンパニーなどの広告を担当。カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル銀賞、アジア太平洋広告祭金賞、ニューヨークONE SHOW金賞、ACC金賞、特別賞など受賞多数。ミュージシャンとしても活動中。
オフィシャルサイト http://www.akamatsu-ryuichiro.com
※新聞広告を手がけるクリエーターにインタビューする、朝日新聞夕刊連載の広告特集「新聞広告仕事人」に、赤松隆一郎さんが登場しました。(全国版掲載。各本社版で、日付が異なる場合があります)