飛鳥クルーズの広告制作を手がけたコピーライターの谷山雅計さん。コピーをつくる上で大切にしていること、広告制作者側から見たメディアの変化などについて聞いた。
身近な旅として飛鳥クルーズを訴求
――飛鳥クルーズの新聞広告はユーモアを交えたコピーが印象的でした。
飛鳥クルーズの利用者の中心は60歳以上のシニア世代。クライアントが課題としているのは、利用者の年齢層を広げることです。飛鳥クルーズといえば、世界一周という印象が強いと思います。年代問わず認知はされているけれど、豪華なイメージが強すぎて自分とは関係がないと思ってしまう。僕自身、そうでした。まるで商品が神棚に上がっているような状態なんです。そこで、まず神棚から商品を下ろす方法を考えました。
――10回にわたる小型広告のほか全15段の広告が2回、という展開でした。
今回の広告の内容は、飛鳥クルーズのクリスマスクルーズを訴求するというものです。10月28日付の全15段は、飛鳥クルーズ就航20周年を記念した企業広告でした。もともと飛鳥クルーズは世界一周だけではなく、2泊3日で利用できるクルーズなどもあります。そのことをもっと伝える必要があるな、と。京都に行こうか、ホテルのスパにエステしに行こうか、飛鳥でゆったり過ごそうか。そんな選択肢のひとつとなるようなコピーを考えました。最初に掲載された全15段の広告は、メッセージ性を持たせています。船のゆったりしたスピード感と効率主義で動く社会のスピードを掛けあわせ、新たな価値観を飛鳥の広告を通じて表現しようと考えました。
社会的なメッセージを含ませた広告に最適なメディアは、やっぱり新聞だと思っています。その他のメディアでできないわけじゃないのですが。新聞の媒体としての信頼度は、どんなにメディアが多様化しても、変わらないとも考えます。ウェブは便利だけど、なんでもできちゃうところが両刃(もろは)の剣でもある。それを面白みとして付き合っていく必要があると思います。
――そういった時代感覚をつかむ秘訣(ひけつ)はあるのでしょうか?
広告のクリエーターはたくさんの商品と接して、それについて考える仕事です。今日、クルマのことを考えて、明日はシャンプーのことを考えて、明後日は……という日々。企業は、今の時代に売れる商品を一生懸命考えて作ります。それらの商品には今の世の中に漂うエッセンスがぎゅっと濃縮されているんです。だから、商品と真剣に向き合って世の中の人にどう伝えていこうか、考えていくうちに、気づくと商品を介して時代性を感じとっています。もちろん、本を読み、映画を観たり、ウェブをチェックしたりもしています。でも、あくまでも人並みです。広告を作る仕事をしているから、必死になって情報を得ようとはしていません。特に僕はそういうタイプのコピーライターかもしれません。仕事の過程において物事を知り、世の中を感じ取っているんだと思います。
――具体的にひとつのコピーに対して、いくつくらい考えるのですか?
若手の頃は100個、200個は当たり前でした。今でも1つのコピーに対して、最低50個くらいは作ります。基本的に手書き。ノートにぐちゃぐちゃと思ったことを書いたり消したり。打ち合わせのときには原稿用紙に清書をして持っていきます。仕事ごとにノートを分けたり、整理するのが苦手なんです。だから、ノートは基本的に1冊。時系列に順番に使っていきます。遊びではWindowsやiPadが普通なんですけどね。仕事だけアナログ。手書きで考えるリズムになれているから、あえて変える必要はないかなって。
小型広告 夕刊 計10回
基本は、一瞬のコミュニケーション
――メディアが多様化したことで、広告づくりに変化はありますか?
本質的な変化はさほど感じていません。新しいメディアは次々と出てくるけれど、なくなったメディアってないですよね。ラジオも映画もチラシも。銭湯にある洗面器の底の広告だって、いまだに残っていますから。もちろん、世の中の移り変わりは感じています。けれども、広告コピーの根本は人間の変わらない感情や興味に語りかける部分が大きいと思うんです。
広告はあいさつと似ていると思っています。新聞はポスターやテレビに比べれば、企業が伝えたいことをじっくりと語ることができるメディアと言われていますが、基本は一瞬のコミュニケーション。あいさつの仕方は、いつの時代もそうは変わらないですよね。
――コピーの書き方については、いかがでしょう。
僕個人としては、特にコピーの書き方も変化はないです。そもそも、コピーを書くとき表面的な時代性に振り回されないように気をつけているんです。たとえば、どや顔という言葉がはやっているから「どや」という言葉を使った表現を作ったとしますよね。一見、旬なコピーのように感じられるかもしれませんが、3カ月もすれば廃れてしまう可能性もある。
そもそも、価値観を変えるくらいの名コピーは、意外と普通な言葉を使っている例が多いんです。たとえば、1967年の「白いクラウン」(トヨタ自動車)というコピーもそのひとつ。高級車は黒塗りという当時の概念を取り払った名コピーです。的確な時代性をつかんでいるからこそ生まれたコピーだと思います。
――広告メディアの中で、新聞について意見を聞かせてください。
公共性があるので、社会的なメッセージを発信する場としてふさわしいと思っています。長年培ってきた新聞メディアの文化は、そんな簡単に廃れることはないはずです。そもそも、広告におけるメディアは「器」のようなもの。新しいメディアとか、古いメディアとか短絡的にカテゴライズをすること自体、あまり意味がない。インターネットは器自体の発明だったから、注目されるのは当然のこと。たとえば、もしテレビが最近、登場したメディアだったとしたら、50インチで映像が見られることに感動するはず。きっと、みんなテレビ、テレビって大騒ぎするはずです。
大切にしているのは、橋本治さんと糸井重里さんからの言葉
ひとつは、博報堂から独立するときに橋本治さんからもらった、お祝いの絵と言葉。その中で、特に気に入っているのが「前途洋々 or 多難」。「or 多難」というところがね、ポイント。リアルなメッセージがうれしかったのを覚えています。
もうひとつは、『広告コピーってこう書くんだ!読本』(宣伝会議)を出版したとき、糸井重里さんからもらったメッセージです。僕は糸井重里さんに強烈に憧れてコピーライターになったんです。それで、秋山具義さんが糸井重里さんからもらってきてくれました。どちらもオフィス内に飾っています。
谷山広告 クリエーティブディレクター/コピーライター
1961年大阪生まれ。1984年東京大学教養学部卒業後、博報堂入社。制作局を経て1997年独立。フリーランスのコピーライターとなる。おもな仕事に、東京ガス「ガス・パッ・チョ!」、資生堂「TSUBAKI」「UNO FOG BAR」、キリンビバレッジ「生茶」「ペコロジー」、新潮文庫「Yonda?」キャンペーン、東京海上日動火災「HELP!SMAP」、東洋水産「マルちゃん生麺」、郵船クルーズ「飛鳥クルーズ」など。TCC賞、朝日広告賞、毎日広告賞、日経広告賞、新聞協会広告賞など受賞多数。
※新聞広告を手がけるクリエーターにインタビューする、朝日新聞夕刊連載の広告特集「新聞広告仕事人」に、谷山雅計さんが登場しました。(全国版掲載。各本社版で、日付が異なる場合があります)