森三中の3人がイメージキャラクターを務めるBIGの広告を手がけている、コピーライターの照井晶博さん。テレビCMのほか、小型の新聞広告は見覚えがある人も多いだろう。その広告制作のコンセプトをはじめ、照井さんの広告づくりにおけるこだわり、また、新聞広告の役割や今後の活動などについて聞いた。
――BIGの広告で森三中のメンバーがキャンディーズやプリンセスプリンセスに扮するシリーズは、どのようなアイデアから生まれたのですか?
宝くじは日本人なら誰でも知っている商品ですが、BIGはどんな内容のくじであるかを表明していく段階。宝くじのように「おなじみ」なものにするためには、どうしたらいいかスタッフ全員で考えていきました。いくつかアイデアがあった中で最終的に決まったのが、すでに世間の人に好かれている物や人とBIGを重ね合わせ、「おなじみ」なものにしようとする方法です。誰もが口ずさめるような懐かしい歌を替え歌にして、BIGを覚えてもらおうと考えました。替え歌自体は、1等当せん金が6億円であることや購入方法などを盛り込んでいます。
――小型の新聞広告が頻繁に掲載されています。「おなじみ」なものにするために何か工夫していることはありますか?
宝くじ売り場の前に「この店から1等が3本出ました」などと結果が貼ってあると、購買意欲って増しますよね。そこで、紙面の中にBIGが売られる店先のようなスペースを作ろうと考えました。新聞紙面をひとつの街だと考えたとき、そこに赤い看板のお店をつくって目に焼き付ける作戦です。イメージカラーである赤をベースに、BIG、6億円という言葉や購入方法、それらと森三中のビジュアルをパズルのように組み合わせて作っています。限られたスペースなので「BIGは1等最高6億円」「キャリーオーバー中」など事実を伝えるコピーが中心。いわゆるコピーっぽいひねりはほとんどないですが、この仕事はそれでいいと思って、若いコピーライターと二人でやっています。
道路標識のようなわかりやすさが理想
――看板のように作るという考え方は、この新聞広告に限ったことですか?
広告づくり全体において、道路標識のような広告を作りたいと思っています。標識って、とにかく簡単だし誰が見てもわかるじゃないですか。新聞だって見出しだけ追えば、だいたいの内容がわかるように構成されていますよね。ヤフーニュースのトピックスも14文字くらいのフレーズでニュースを伝えています。
人が一日に受け取る情報は、相当な量です。知りたいことは、その瞬間ケータイやPCで検索すれば、とりあえずの答えを見つけられる時代でもある。情報が洪水のようにあふれている今、人はせっかちになっていると思うんです。
――広告業界全般的に、そういった傾向なのですか?
自戒も込めてなんですが、広告業界全体を俯瞰(ふかん)してみると、まだまだ人が情報に接する新しい行動様式に追いついていないものも多い気がします。僕は東京コピーライターズクラブ(TCC)で審査員もさせていただいているのですが、広告コピーに表現のロマンや言い得て妙なレトリックを追求しているような昔ながらのコピーがまだまだたくさんある。キャッチコピーで目をひいて、ボディーコピーで説明をするという広告づくりは、今の時代に必ずしも合っているとは思えませんし、そもそも世の中の人ってコピーにも広告にも、広告業界の人ほど興味は持っていない。お作法や伝統芸能のように、無自覚に「広告はこうである」と思い続けてしまうのは危険なこと。世の中がこれだけ変化しているのだから、そのことを意識するのは当然だと思います。
特に新聞広告は15段というスペースは相当広い。昔以上に情報を整理しなければ読み飛ばされてしまうと思います。もちろん、言葉を尽くして語る深いコミュニケーションを全否定しているわけではありません。ただ、人が情報に向かう世の中のムードは、どんどんシンプルになってきているんじゃないかと感じているんです。
※キャッツ・アイ編:(C)北条司/NSP 1981,版権許諾証AB-200
――時代背景が大きく影響しているのですね。
そう思います。2004年に箭内道彦さんに誘われて風とバラッドに参加して、僕自身かなり考え方が変わりました。徹底的にリアルタイムであり続ける箭内さんの考え方や生き方にかなり影響を受けた気がします。過去のやり方というのは、偉大な先輩たちがその時代用につくった手法なんですよね。時代状況を考えずに、僕らが安易に乗っかってはダメ。その商品が、いまこの瞬間に存在する意義や意味合いをまっすぐに伝えることを必死で考えないと。
――BIGの広告のほか、サントリーBOSS「このろくでもない、すばらしき世界」、ホンダFREED「This is サイコーにちょうどいいHonda!」など、コピーから映像やビジュアルが思い起こせる有名な広告を数多く手がけています。
今、やらせていただいている仕事は、昔の自分では考えられない大きな仕事ばかりです。博報堂にいた頃は予算と責任が大きな広告、たとえばクルマやビールなどの仕事からは逃げてばかりいました。恥ずかしい話ですが、小さい仕事のほうが「面白いことができそう」と決めつけて仕事を選り好んでいたんです。ダメなヤツですよね(笑)。だから、BOSSもFREEDも、風とバラッドに参加してから手がけた仕事です。箭内さんといい、シンガタの佐々木宏さんといい、博報堂に入って最初についたのがコピーライターの谷山雅計さんだったりと、もし僕に才能があるとしたら、人に恵まれることかな、とも思います。
――新聞広告の可能性については、どのように考えますか?
震災や原発など不安が蔓延(まんえん)する中、いい新聞広告には人々を勇気づけたり、世の中を活気づけたりする力があると思っています。子どもの頃、元旦に届く分厚い新聞にわくわくしていました。年始の広告は、いろいろな企業が「今年もよろしく」と自分の家に来てくれているようで、なんだかうれしかったのを覚えています。でも最近は広告も減っているし、新聞も薄くなっていますよね。来年のお正月が今から心配なのですが、ここ数年と同じように広告が少ないと、元日の朝から一層世の中の空気が沈んでしまうと思うんです。それはよくない。
日本には震災に負けず、前を向いて歩んでいる企業がたくさんあります。そういった現実やビジョンを世の中に発信することは、企業の社会的使命かもしれない。新聞のメリットは老若男女、日本全国、同じタイミングで一斉に届けられること。それを生かさないのはもったいない。だから2012年、来年の元旦は、今までにないくらい厚みのある新聞が届くといいなと思います。世の中を明るくするいい広告がたくさんあるといいし、そういう広告を自分自身つくれらたらと思います。
確実に生活者のもとに届けられる、役に立つ広告を作りたい
――今年2月、風とバラッド解散に伴い独立しました。最後に、今後についての考えを聞かせて下さい。
きれいごとに聞こえるかもしれませんが、世の中の役に立つ仕事がしたいと本気で思っています。商品やサービスの開発には、当然ですが大変な苦労があり時間もお金もかかっています。そんな商品開発や営業の方々はじめ企業のいろいろな思いが詰まった最後のバトンを僕ら広告制作者が受け取っているのです。だからこそ確実に生活者のもとに届けられる、役に立つ広告を作りたい。広告だけ褒められても、商品が売れないのでは意味がありません。もちろん、表現の仕事をする上で、面白いことをやりたいという適度な下心はあってもいいと思います。でも下心バレバレの広告じゃ企業の方に失礼だと思うんです。僕ですか?どうなんでしょう?今では自分が褒められることには、興味が薄れているかもしれないです。成長したのか?単に枯れてきたのか?自分ではわかりません(笑)。
分厚い名刺は、箭内さんデザイン。
風とバラッドの名詞には、箭内さんが浅野忠信さんに頼んで描いていただいたイラストが入っていました。それが好きだったので、独立してつくる新しい名刺にもイラストがたくさんあったらいいなと、箭内さんにお願いして描いてもらいました。全部で4種類。箭内さんデザインで異常に分厚い名刺です。ふつうの名刺の6枚分くらいあるので、ひとりでも6人分くらい働けよという箭内さんからのメッセージなのかもしれないと思っています。渡すとみなさん、ビックリされますね(笑)。
株式会社照井晶博 コピーライター
1969年生まれ。博報堂、風とバラッドを経て、2011年3月、株式会社照井晶博を設立。最近の主な仕事に、サントリーBOSS「このろくでもない、すばらしき世界」、ホンダFREED「This isサイコーにちょうどいいHonda!」、日本スポーツ振興センターBIG「出てます6億円!」、ユニクロ、ソフトバンク、資生堂ザ・コラーゲン「女でよかった!」、大阪ガス「たのむよ人間」、LGエレクトロニクスジャパン「TV or LGTV?」、ショーン・レノンとの共作絵本「ちょうどいいほん」等。TCC部門賞、ACCグランプリ、電通賞グランプリ、東京インタラクティブアドアワードグランプリ、カンヌ国際広告祭サイバー部門シルバー等受賞。
※新聞広告を手がけるクリエーターにインタビューする、朝日新聞夕刊連載の広告特集「新聞広告仕事人」に、照井晶博さんが登場しました。(全国版掲載。各本社版で、日付が異なる場合があります)