虫コナーズとプロポーズ、意外な組み合わせで引きつける

 電通関西支社の古川雅之さんと直川隆久さんは、ともにCMプランナー/コピーライターという同じ立場でキンチョウ(大日本除虫菊)「虫コナーズ」の広告を生み出した。広告の制作過程や広告への思いなどを聞いた。

文字とホワイトスペースだけでインパクトのあるものを

古川雅之氏(右)、直川隆久氏(左) 古川雅之氏(右)、直川隆久氏(左)

――「虫コナーズとプロポーズはほんの少しだけ似ている」というコピーの新聞のシリーズ広告が生まれた経緯を教えてください。

古川さん(以下、古川) 虫コナーズは多くの商品展開をしていて、テレビCMは商品ごとに違うクリエーターがチームを組んで作っています。CMでは同じ職種(プランナー)で組むこともよくありますが、グラフィックで、しかもほぼ同年代のコピーライター2人というのは珍しいケースだと思います。新聞広告は15段も力がありますが、1段や2段のシリーズも目立つので、なにか面白いことができるんじゃないかなぁと考えはじめました。

直川さん(以下、直川) 虫コナーズはテレビCMが先行していて、売れ行きもいいので、説明的でなくても大丈夫だと思いました。2段というスペースで、ホワイトスペースを生かした文字だけの表現によっていかに目立つものを作るかを考えました。

古川 それぞれが考えたものを持ち寄って一緒に考えるということを、何度も繰り返します。最初は商品周りの話をするんですが、だんだんそれて雑談になります。そうやって脱線キャッチボールをするうちに、たとえば「奥さん美人ですね~。だから虫コナーズを買ってよ」といった「言葉のお中元」シリーズはどうかとか、中国語で罵詈雑言(ばりぞうごん)を並べるのは面白いんじゃないか、いや意味分からんなとか。んんーー何かないか〜となって、奥さんを褒めちぎる流れで、プロポーズの言葉はどうだろうということになって…男2人で向かい合ってキザなせりふを上の句、下の句に分けて言い合っていたら、こんなことになりました。周りで見てたら異様だったと思います。

直川 最終的にキンチョウさんがこの案を選ばれたわけですが、けっこうナンセンスな冗談です。「虫コナーズとプロポーズはほんの少しだけ似ている」というコピーで「なんだコレ?」と思ったり、「いや似てないって」と心の中で突っ込んだりしてもらえたら成功かなと思っています。

2011年6月2日付 朝刊 大日本除虫菊 2011年6月2日付 朝刊
2011年6月9日付 朝刊 大日本除虫菊 2011年6月6日付 朝刊
2011年6月9日付 朝刊 大日本除虫菊 2011年6月9日付 朝刊
2011年6月16日付 朝刊 大日本除虫菊 2011年6月16日付 朝刊
2011年6月19日付 朝刊 大日本除虫菊 2011年6月19日付 朝刊
2011年6月21日付 朝刊 大日本除虫菊 2011年6月21日付 朝刊
2011年6月29日付 朝刊 大日本除虫菊 2011年6月29日付 朝刊

広告には力がある ただし、「効いてナンボ」

――制作にあたり、キンチョウからはどのようなオーダーがありましたか。

直川 今回については、「例年の予算で何回も掲載できるような広告」というオーダーでした。

古川 キンチョウさんは、目立つ広告ほど商品が売れるという成功体験を重ねてこられた会社だと思います。広告の力を信じてくれている分、ハードルが高くて僕らは毎回必死です。だけど決して「おもろかったら何でもええ」というワケではなく、やっぱり商品から離れることのないところでの企画を選ばれるように思います。

直川 表現を受け入れる許容量が大きい半面、「広告は効いてナンボ」というドライでシビアなところがあります。広告を、機能する道具として合理的に見ていらっしゃるのでしょう。

――新聞広告にはどのような特性があると考えますか。

直川 雑誌は「見る」感覚なのに対して、新聞は「読む」モード。ある程度文字数を入れても大丈夫という認識があります。

古川 テレビで面白CMをやろうと思うとバラエティー番組や漫才など競争相手も多いですが、新聞はもともと真面目なメディアなので、ちょっと珍しいことをすればすごく目立つチャンスがあるのかなぁと・・・。

2010年5月22日付 朝刊 2010年5月22日付 朝刊

直川 真面目なものほど落差も崩せる余地も大きいですよね。手元にブツがあって、めくった瞬間に目に入ってくる強さは新聞ならではでしょう。

古川 去年は井川遥さんの写真を逆さにして、「キンチョール」→「ルーチョンキ」「エコタイプ」→「プイタコエ」などコピーも逆にした7段広告をつくりました。これも、ページをめくった時に中身がひっくり返ってたらびっくりするんじゃないか、という思いつきで、ためしに作って新聞に張ってみたらすごい異物感があった(笑)。

――ほかに手がけた新聞広告は。

古川 以前、福井新聞からテレビCMをつくってほしいと依頼をいただきました。テレビCMのプレゼンの場に、新聞広告も自主的に作って持って行きました。新聞を広告するのだから新聞紙上でもっとファンになってもらうようなことをした方がいいのでは、と。「家族で話そう」というテーマで、1回30段・1年で12回掲載しました。子どもを産むのが怖かったという若いお母さんの話や、思春期の息子に宛てたお母さんの手紙など、普段新聞紙上ではやらないようなテーマで。個人的なことをあえて取り上げることがいま「新聞でやる意味」じゃないかなぁと思ったんです。新聞は物事を体系立てて読める媒体ですし、毎朝自宅に届いて、家族みんなが読める場所に置かれることが多いでしょう。真面目なことでも、今の時代に刺さるテーマであれば、話題にしてくれるのではないかと思います。

意表をつく、笑わせる どう印象に残すかが広告制作のだいご味

――広告を作る上でのこだわりはありますか。

直川隆久氏

直川 強烈な広告体験としていまでも覚えているのは、小学校5年の時にテレビで見た「ケンミンの焼ビーフン」であり、キンチョウの「ちゃっぷいちゃっぷい、どんとぽっちい」です。電通に入ってからも、堀井博次さんや佐藤雅彦さんの活躍にあこがれましたし、面白いことをしたら見ている人が笑ってくれるのでは、といつも思っています。

古川 僕の場合は、いたずらに近いというか、目の前の人をびっくりさせたり「アホやなぁ」とよろこんでほしいという普段の気持ちの延長のような…。

直川  テレビCMに関していえば、量を流せば何とかなるという状況は、もう二度と戻ってこないでしょう。

古川 でも逆に、情報量は10年前の何百倍といわれる現代でも、新聞の1段、2段広告でもちょっと珍しかったり面白かったりすれば、やっぱり目立つし話題にもなるんじゃないかと思います。僕らは変なこと、面白いことがやっぱり好きで、企画中でも雑談、脱線ばかり(笑)。「都心部でビルが取り壊されて更地になったら、何が立っていたか思い出せなくなるのはなぜか」とか、「なぜこの店の焼き飯はメンチカツ定食より高いのか」とか、まぁくだらないことばかり話してて締め切りが来る。ほんとムダな時間を使っています(笑)。

――クライアントの要望に対してはどのようなスタンスですか。

古川雅之氏

直川 どういう表現やツールがダメで、何ならいいのか、クライアントによって意外と様々で、「これはダメなのにこっちはいいの?」と驚く時もあります。だから、案の「自主規制」はなるべくしないようにと心がけています。

古川 言いたいことはコレとコレとコレ、伝えたい内容と相手はこう、とパズルのように組み立てても、企画にはならないのがムツカしいところです…。言いたいことを全部言うことと、伝わることは別なんだと思います。そこを知っている会社は、きっと広告の力を信じていて、その分「伝わること」「広がること」をシビアにジャッジされているように思います。そこが僕らの正念場というか…。ほんとにいつもムツカしいです。場合によっては、ピースが欠けている「未完成な」パズルの方が世の中が振り向いてくれたり…。

――広告業界を目指す人や若手クリエーターへアドバイスをお願いします。

直川 どんな広告が好きかがはっきりしていると、それをまねるところから始めて、やがて超えていけるかもしれない。こういうものを作りたい、こういう人になりたいというごくごく単純な動機があるかどうか。

古川 広告業界はチャンスが平等にあって、しかもそのチャンスが大きいように感じます。広告のことが好きで一生懸命考えたら、テレビや新聞越しに皆が口にするようなものを作れる可能性もあるわけで。ほかの分野で一流といわれるようになるのは難しいですが、広告は出合い頭にそういう体験ができることもある。「メディア環境が変わってきた」とか難しいことを考えず、人を笑わせたりびっくりさせたりすることが好きなら、広告はとてもいい場だと思います。

アイデアが浮かぶ気がする電通のノート

電通のノート 電通のノート

「B5判の大きさといい、書きやすい紙質、ちぎりやすいリングとじといい、使いやすくて、めくるといいアイデアが浮かぶような気がします…たぶん気のせいです」と2人。「打ち合わせの内容や思いつきを書いたり」(直川さん)、「企画のできない現実逃避で、意味のない似顔絵を妙にリアルに描いてみたり」(古川さん)。新しい仕事が始まると新しいノートにタイトルを書き入れるが、途中で終わってしまうことも、3~4冊使うこともあるという。 (お気に入りのノート/HOLBEIN MULTI-DRAWING PAD)

古川雅之(ふるかわ・まさゆき)

電通関西支社クリエーティブ局 CMプランナー/コピーライター

1969年生まれ。グラフィックプロダクションから大広を経て1999年電通関西支社入社。大日本除虫菊、関西テレビ、ケンミン食品「ケンミンの焼きビーフン」、梅の花、千趣会、サントリー「それから」、福井新聞などのテレビCM、グラフィック、ラジオCM制作などを手がける。ACCテレビグランプリ、佐治敬三賞、TCC新人賞、OCC賞グランプリなど受賞。

直川隆久(なおかわ・たかひさ)

電通関西支社クリエーティブ局 CMプランナー/コピーライター

1972年生まれ。95年に電通入社。以後関西支社で大日本除虫菊(キンチョール、虫コナーズ)、関西電気保安協会、KOBELCO、近畿広域地上デジタル放送推進協議会のテレビCM、タウンページ新聞広告などの企画・制作を手がける。劇団「満員劇場御礼座」の役者としても活動。ACCラジオ部門グランプリ、大阪広告協会佐治敬三賞を受賞。

※新聞広告を手がけるクリエーターにインタビューする、朝日新聞夕刊連載の広告特集「新聞広告仕事人」に、古川雅之さん、直川隆久さんが登場しました。(全国版掲載。各本社版で、日付が異なる場合があります)

広告特集「新聞広告仕事人」Vol.23(2011年7月28日付夕刊 東京本社版)