新聞広告を使うことで、幅広いターゲットの人に情報を発信

 ファッション雑誌『STORY』は、発売当日の朝刊のほか、発売約1週間後に夕刊にも広告を出稿している。全5段スペースを漫画で構成したユーモアたっぷりの内容で、いわゆるファッション雑誌の広告とは一線を画する。手がけているのはデジタルライツの中木純さん。その制作過程、こだわりなどを聞いた。

中木 純氏 中木 純氏

――『STORY』の新聞広告を制作する上で、クライアントからの要望や話し合ったことがあれば教えてください。

 編集長から「発売日に出稿されるファッション雑誌の広告の概念にとらわれず、楽しいものを作ってほしい」と依頼されました。そこで、まず考えたことは、雑誌と新聞の特性の違いです。私は雑誌のタイアップ広告の制作を主に手がけているため、常に明確なターゲットを意識して制作をしています。それに対して新聞のターゲットは幅広い。それをポジティブにとらえれば、今まで『STORY』をはじめ、雑誌自体に興味がなかった人たちにも特集の内容や面白さを伝えることができるチャンスでもあると考えました。老若男女、日本全国の人々に向けて発信できるわけですから。

――新聞広告を作る上で、特に意識したこと、こだわりなどはありますか。

 『STORY』ができるだけ身近なものだと感じてもらうため、ファッション用語はなるべく使わず、漢字も少なめにするなど読みやすさを重視しています。娯楽性を高めるためにも、ビジュアルは写真ではなく漫画にしようと決めました。

――漫画の内容については、どのように決めているのでしょう。

 テーマは発売されている号の第1特集記事と決まっています。たとえば、「シャツとデニムが、私を語る!」という特集の場合、読者層のデニムにまつわる悩みと、その解決法を漫画で紹介しています。解決法はコーディネートの方法や色の選び方など雑誌で紹介されている記事をもとに考えます。大まかな内容を決めて人気イラストレーター、カツヤマケイコさんに相談した後、漫画にしてもらい、それを私がチェックするという手順で制作しています。悩み、解決、そのヒントはこの雑誌を見てね、という流れで紹介することで、ファッション雑誌の活用法がより具体的に示せると考えました。

――限られたスペースを最大限に生かした構成で、クスッと笑わせたり、納得させたり共感させたりする展開は見事ですね。

 悩みを共感してもらって、解決法で納得してもらう。それが一番の狙いです。また、広告を見たことがきっかけに『STORY』という雑誌と同時に、ファッション雑誌自体にも興味を持ってもらえたらうれしいです。

2010年8月9日付 夕刊 光文社 2010年8月9日付 夕刊
2010年9月7日付 夕刊 光文社 2010年9月7日付 夕刊
2011年1月6日付 夕刊 光文社 2011年1月6日付 夕刊
2011年2月7日付 夕刊 光文社 2011年2月7日付 夕刊

――そもそも、中木さんが広告業界で働くようになったきっかけは?

 学生の頃から、一枚の紙から物事を動かす広告の仕事に興味があり、広告制作プロダクションに就職しました。そこで編集の仕事に携わり、漠然とですが雑誌の仕事もしてみたいとも思っていました。そんな頃、阪神淡路大震災が起こりました。私は大阪出身で震災を体験したんです。それは人生について考えるきっかけにもなり、「自分のやりたいことを、やれるときにやっておこう」と上京して就職したのが現在の会社です。それから気づけば17年。雑誌のタイアップ記事の編集のほか、新聞をはじめとしたキャンペーン広告も手がけています。

――編集者という肩書ですが、クリエーティブディレクターという立場に近いかもしれませんね。

 なんでもやりますからね(笑)。ラフを描いて撮影の手配から、撮影現場でのディレクションもしています。今まで千件以上、広告タイアップの仕事をしてきました。雑誌の場合はターゲティングがはっきりしているので、自分とは年代の異なる、たとえば10代の女の子が読む雑誌の広告を作ることもあります。また、サラリーマンやOL、それに新聞読者のように幅広い層にも響くように、常にアンテナを張っているようにはしています。今後も、世代や性別の枠を超えた広告の仕事にチャレンジしていきたいと思っています。

こだわりの仕事道具は、クロッキー帳とCanon S90

クロッキー帳とCanon S90 クロッキー帳とCanon S90

 クロッキー帳はラフを描いたり、アイデアを書き留めたりするノートです。サイズはA4の横開き。罫線(けいせん)など何もない無地のほうが好みなので、長らくこのクロッキー帳をノートとして使用しています。デジカメは常に持ち歩いています。仕事のネタになりそうなものや、かわいいとかキレイだと思ったものを記録として残したりしています。

中木 純(なかき・じゅん)

デジタルライツ 編集者/ライター

1973年生まれ。93年大阪芸術大学短期大学部卒。同年、広告制作プロダクションに就職。95年に上京し、編集プロダクション、デジタルライツ入社。小学館、講談社、集英社、文藝春秋などで週刊誌、一般誌、情報誌、女性誌の記事制作に携わる。現在は雑誌のタイアップ広告制作を中心に、署名記事を書いている。

※新聞広告を手がけるクリエーターにインタビューする、朝日新聞夕刊連載の広告特集「新聞広告仕事人」に、中木純さんが登場しました。(全国版掲載。各本社版で、日付が異なる場合があります)

広告特集「新聞広告仕事人」Vol.19(2011年3月7日付夕刊 東京本社版)