ときに鋭く、ときに切なく、ときにユニーク。言葉を軸とする広告を数多く手がける、渡辺潤平社コピーライターの渡辺潤平さん。マイケル・ジャクソンのアルバムキャンペーンの背景や、コピーライティングに関する考え方など話を聞いた。
コピーライターは「イタコ」のような存在
――渡辺さんが広告業界を目指したきっかけを教えてください。
高校生の時、部活帰りにマイケル・ジャクソンの広告でジャックされている電車に乗ったことがきっかけなんですよ。マイケルの大ファンだったこともあり、とても衝撃的な光景で今でもハッキリ覚えています。広告っていろいろな表現方法があって、面白いかもしれないと興味を持ちました。
――最初に手がけた新聞広告は覚えていますか。
ハッキリとは覚えていないですが……デル社の広告で、「世界シェアNO.1 DELL」というコピーを書いたのが最初な気がします。そのときはもちろん、新聞をめくって自分が作ったコピーが出てくる時のワクワク感は今でも変わりません。
――広告の作り手として、新聞に対する思いなどあれば聞かせてください。
僕は個人的に新聞が大好きなので、積極的に読んでいます。バサバサとめくって読む、すこし不便なところや、大きめのサイズ感など、モノとしての新聞も好きなんです。ウェブと比べたら即時性は劣るけど、その分、考察された深さがある。新聞広告はポスターやCMでは語り尽くせないことを、言葉で伝えることもできると思います。
――コピーを作る上で、工夫していることは。
できるかぎり分かりやすい言葉を使うよう心がけています。そもそも、新聞広告は読んでもらえないもの、という前提で作っているんです。新聞は読みたい記事や、パッと目について興味を持ったところだけ読むという人がほとんどだと思います。
――新人のころと現在では、新聞広告の作り方や新聞を取り巻く環境など、何か変化したことはありますか。
新聞社自体が、新しいことにチャレンジしようと意欲的に行動し始めているように感じます。広告スペースも、今までより自由度が高まったと思います。新しい広告スペースを生み出したマネックスグループの広告も、そんな事例のひとつです。新聞の品格は保ちつつ、規制が緩和されている状況は、新聞広告で面白いことができるチャンス。僕たち制作者側からも、いろいろな仕掛けを提案していこうと考えています。
――新聞とそれ以外のメディアでは、広告作りの考え方は違いますか。
考え方は同じです。ただし、新聞は社会性が強いメディアなので、クライアントにとって大切な発表の場としての役割を担うことが多いですよね。「外出禁止令」というキャッチコピーを使ったフジテレビの新聞広告(2009年10月)もそのひとつ。クライアントに新聞広告を提案するとき、その日に掲載されるどの記事よりも目立ち、いちばん印象に残る広告にすると言っています。スクープ性があり、スキャンダラスでドキドキ感があって、世の中をびっくりさせる、そんな野心を持って作っています。
――コピーはどのような手順で考えるのでしょう。
企業の担当者からのヒアリングは欠かせません。そもそも、コピーライターはクライアントの「イタコ」のような存在だと思っているんです。僕の仕事は、クライアントの商品やサービスがあって、それをどんな言葉で世の中に発信していくか。ゼロから創作するのではなく、広告をする商品やサービスなどの特性や担当者の思いなどを言葉として生み出すことが僕の仕事だと思っています。
コピーの力で一気に話題に
――2009年1月、ユニコーンの活動再開の広告『今年は、働こう。』、2009年7月、GREEN DAYのジャパンツアー、ライブEP発売の広告『文句があるなら、選挙いこうぜ。』など、ユニークなコピーの背景にあるものは。
ユニコーンの広告を展開した当時は、リーマンショックや年越し派遣村など暗いニュースが続いていました。そんな時代背景を逆手にとって、ユニコーンらしい前向きさで世の中をポジティブにできないかと考えたものです。GREEN DAYの広告は、衆議院の解散総選挙が行われる直前で、さらに流行し始めたツイッターで、ネガティブなつぶやきを多く見かけた時期。そこから、「文句あるなら~」というコピーが生まれました。
――思わず笑ってしまうコピーの背景に、社会情勢がからんでいたのですね。
独特のユルい(?)空気感を持つユニコーンと、日本の政局とはまったく関係のない存在のGREEN DAYだから許されるコピーだと思います(笑)。
――ユニコーンの広告は、号外も配布されて大きな話題となりました。
ユニコーンの再始動を新聞広告で発表して、さらに主要都市で号外を配布した情報がウェブ上のクチコミで一気に広がりました。そして、実物がほしいと新聞を探し求めるファンが続出。いまだに、オークションサイトで取引されているんですよ。
――新しいクロスメディアのカタチですね。
今までのクロスメディアは、URLを目立たせて広告からウェブへと誘導する仕掛けでした。ウェブを充実させるために、ショートムービーを作ったり。けれども、それは作り手が一方的に思い描いたストーリーで、成功したと言えるのはほんの一部だと思います。実際には、一つのコンテンツにパワーがあれば、一気に話題になる可能性がありますし、コピーにこそその力があると思っています。言葉の使い方、火の付けどころ次第で新聞広告にもまだまだチャンスはあります。
これからのテーマは現状維持 いくつになってもコピーを書き続けたい
――最近はクリエーティブディレクターを兼務される機会も多いですね。
フリーになってから増えました。クリエーティブディレクターを兼務してもコピーを書くことは譲りません。新人のころから変わらず、基本的には全部自分で書いています。
――どんなときに仕事の面白さを感じますか。
言葉や企画を考えているときです。ギリギリまで机にへばりついて悪あがきします(笑)。歩きながらとか、ぼんやりしながら急に思いつく、ということは少ないタイプですね。
――渡辺さんにとって、理想の広告とは?
言葉が常に真ん中で仕事をしていること。究極を言えば、ビジュアルはいらないぐらい強い言葉を生み出したい。なんとなくカッコイイものではなく、きちんと言葉を発している広告を目指しています。
――そのために、特にこだわっていることなどはありますか。
言葉を磨くことは当然ですが、文字の印象には気を使っています。文字の置き方やフォントの違いで、印象はガラっと変わりますからね。ADの方にはしつこくて嫌がられることもありますが……(笑)。ユニコーンの『今年は、働こう。』という毛筆のコピーは、ディテールまでこだわって何度も書き直してもらいました。
――マイケル・ジャクソンのアルバムキャンペーンの新聞広告「マイケル、今日も世界は あなたの歌声で あふれてるよ。」というコピーは印象的でした。
マイケル・ジャクソンはここ数年、スキャンダラスなニュースばかり取り上げられる機会も多かったのですが、亡くなってから風向きが変わり、多くの人が彼の歌や人間性と真摯(しんし)に向き合っていることを実感していました。みんながマイケルの曲を口ずさんでいたり、世界中でブームのような状態になっていることを、マイケル本人に手紙で伝えるつもりで書きました。
――3月10日の朝刊に掲載されたベネッセコーポレーション「進研ゼミ」の広告もコピーが際立っていました。
東大の合格発表の日に合わせて掲載しています。受講者数も合格者数も年々増加していて、ベネッセとして自信を持っている講座であること、そして多くの受験生に期待と支持をされていることが伝わるコピーにしようと考えたものです。朝、この広告を見た来年の受験生が「次は自分の番だ」とやる気になる、受験生のお母さんが「進研ゼミがいいんじゃない?」と子どもに語りかける、そんな光景を思い浮かべながら書きました。
――では、最後に、これからの目標などを聞かせてください。
ポジティブな意味で、テーマは現状維持。いくつになっても、今の状態と同じように新しい仲間とドキドキしながら、言葉から離れることなくコピーライターとして働いていることが目標です。若手のアートディレクターに「あのオジサン、まだコピーあんなに書いてるよ。元気だよね」なんて言われるくらい(笑)。
渡辺潤平さんの原稿用紙!
愛用の原稿用紙。フリーとして活動するようになってオリジナルで制作した。角のない外枠と社名が印刷されている用紙はA4サイズ。
「角がないから、型にはまらない。というつもりなのですが、エッジがない、なんて言われたりもします(笑)」(渡辺さん)
コピーライター。1977年千葉県生まれ。早稲田大学教育学部卒業。博報堂、groundを経て2007年に渡辺潤平社設立。最近の仕事にPSPみんなのテニスポータブル「全員修造!」、進研ゼミ高校講座「第一志望に、いこう。」、マイケル・ジャクソン追悼広告、IPSAブランドスローガン「きれいは、ひとりに ひとつ。」、セキスイハイム新聞広告「辞書シリーズ」など。カンヌ国際広告祭メディア部門ブロンズ、TCC新人賞など受賞。
※新聞広告を手がけるクリエーターにインタビューする、朝日新聞夕刊連載の広告特集「新聞広告仕事人」に、渡辺潤平さんが登場しました。(全国版掲載。各本社版で、日付が異なる場合があります)