腑に落ちやすい言葉をキーワードとして示す

 資生堂のコーポレートメッセージ「一瞬も一生も美しく」や「リバイタル グラナス」、ワールドの「リフレクト」、パルコの企業広告などを幅広く手掛ける、ライトパブリシテイのコピーライター・国井美果氏。コピーに対する考え方や、そこに込められた思いなどについて聞いた。

国井美果さん 国井美果さん

──最近では、資生堂の「リバイタル グラナス」のキャンペーンにかかわられました。

 「リバイタル グラナス」は、30代からの女性に向けた新しいスキンケアブランドです。資生堂が約8年の歳月をかけて研究開発した「美容豆エキス」という新しい成分が、大人の肌の長所を伸ばし成長を促進するという、新発想のスキンケアです。その事実に加え、向上心が旺盛で、情報収集力があって、常に価値あるものを求める現代の30代以上の女性に、本当の意味でのぜいたくさをお届けしよう、そしてエールを送ろう、という思いから「女は成長をやめない。」というスローガンになりました。コピーワークは、資生堂のコピーライターの方と一緒に行っています。

 昨年11月には、60代の女性に向けた新しいスキンケアブランド「エリクシール プリオール」の誕生に伴って、資生堂の企業広告の新聞原稿を作りました。ブランドの純広告と同時の掲載で、相互で企業の思いを深める構造となっています。前田美波里さんご本人からお借りした18歳当時のはつらつとした写真に、「人生は、どこまで美しくなるのでしょう?」というキャッチコピー。そして、世の中の歩みと資生堂の歩みを年表風にしたボディコピーと共に、資生堂はいつも時代を明るく照らしてきた60代の女性を応援します、というメッセージを送っています。

──ワールドの「リフレクト」の新聞広告は、篠原涼子さんからの手紙というスタイルが印象的です。

 「リフレクト」は、仕事と育児や趣味などを両立している30代女性のためのファッションブランド。3年前から篠原涼子さんをイメージキャラクターに迎えて展開してきましたが、彼女自身が出産されたことでより一層「リフレクト」を体現する存在となったんです。そこで、働く女性を応援するメッセージと共に、売り上げの一部を育児支援のNPO団体に寄付するという具ますように。」というタイトルで、手紙の最後には篠原さんの直筆のサインが入っています。

パルコ 2008年春
キャンペーンポスター
2008年9月8日朝刊
ワールド「Reflect」
リバイタル グラナス
2008キャンペーンポスター

── パルコの企業広告も手掛けられています。

 パルコは、ずっと時代と共に歩んできた企業なので、今という時代をどう解釈し、パルコの思いとどう結べばいいか、と考えていきました。今は、頭ばかりで体を使わず、煮詰まってしまうような時代。そうすると人間としての本能が鈍くなり、それが結果的に最近の不幸なニュースにつながってはいないだろうか……。そんな生活者としての気分が、最終的に「あるこう。PARCO」というコピーになりました。「さあ、カラダを使って考えよう。」というサブコピーで、メッセージへの理解を深めています。それにファッションって、体で表現するものでもありますから。

── コピーに対するとらえ方や考え方が、変化してきた部分はありますか。

 よく練られた一行のコピーには、語り尽くせない魅力があって、私もそういうコピーを上手に書けるようになりたいと思います。さらに最近よく思うのは、情報量が圧倒的に多くなった中で、クライアントが迷うことなく目標に向かうことができて、かつ世の中の人が腑(ふ)に落ちやすい言葉を明快な“キーワード”として示すことが大切なのではということ。実際、キーワードが派生してキャッチフレーズになったりするケースが最近では増えてきた気がします。たとえば「女は成長をやめない。」の場合、“成長”というキーワードはもともと商品開発の段階から存在していた言葉です。キラキラ輝きながらすでにそこにあったけれど、まだブランドを語るキャッチフレーズにしようとは思われていない。それに気づき、確信をもって、世の中に発信しましょうと提案するのも、自分たちコピーライターの仕事だと思うんです。

生活する当事者意識を大事にする

──自分自身の“実感”をとても大切にされています。

 私たちは、企業と生活者の中立的な立場。「これはウソだ」と思うことはしたくありません。生活する当事者意識を大事にしながら、「読んだ人はどう思うんだろう?」と、常に自問自答し、自分が納得できるということを大切にしています。

 また、モノが売れないという今の時代、企業は本当に熱心に思いを語らないと誰も見向きもしてくれません。世の中の人たちに知って欲しくて一生懸命知恵を絞る。その時の熱意や熱量によって人は聞く耳を持つし、それがあなたにとってどれだけ大切かと切実に訴えかけることで、やっと振り返ってもらえます。そういう意味では、新聞広告というメディアは熱意を真摯(しんし)に伝えやすいと思います。 ただ、送り手側の熱意がひとりよがりになっていないか、常に客観的にバランスをとることも大切。消費者の利益を考えることや、夢を提供することを忘れて、ただいたずらに消費をあおることは良くないと思っています。

国井美果(くにい・みか)

東京都生まれ。立教大学卒業後、ライトパブリシテイにコピーライターとして入社。主な仕事に、資生堂「一瞬も一生も美しく」、資生堂リバイタル グラナス「女は成長をやめない。」、ワールドReflect「よく光るひとのふく」など。ADC制作者賞、TCC賞を受賞。