ラジオの媒体特性を生かしリスナーが楽しめるCMを

 キヤノンマーケティングジャパン「EOS Kiss デジタル」、TOTO「ネオレスト」など、ラジオCMの可能性を切り開く新しい表現を手がける電通のコピーライター・CMプランナー、山本 渉氏。クリエーティブに対する思いや、ラジオCMを通した“言葉”への考え方などについてお話を聞いた。

 山本 渉氏

──「EOS Kiss デジタル」のラジオCMが、今年のカンヌ国際広告祭で、ラジオ部門のグランプリを受賞されました。

 テレビCMなどに比べると、ラジオCMにはそれほど力を入れていないクライアントも少なくありません。そんな中で、キヤノンマーケティングジャパンは、長くラジオで自社提供番組を持っていて、ラジオCMにとても力を入れていました。

 「EOS Kiss デジタル」の場合は、とにかくクオリティーの高いものをつくりたいというオリエンが先方からありました。

── クオリティーの高いラジオCMとは?

 ラジオならではの媒体特性を生かし、かつラジオを聴いている人が楽しめるものですね。「EOS Kiss デジタル」の場合も、“ラジオでしかできないことをやろう”というのが最初のテーマでした。

 ただ、デジカメは絵で表現する商品で、音だけで表現するラジオとはまったく逆のもの。それなら、この真逆の部分がうまくつながるといい企画になるんじゃないか、というところから発想していきました。自分自身がカメラ好きで、共感してもらえる企画を考えやすかった面もありますね。

 今回受賞した「あっという間」篇(下参照)は、わずか0.2秒という起動時間の速さを訴求しています。ただ、これだけではなく、別の商品特長にフォーカスしたものもプレゼンしました。

 1つのCMで訴求ポイントを絞ると企画を立てやすいし、リスナーにとってもすっと入りやすいですよね。一度にボールを3つ投げたところで、受け手はどれも捕れないですから。

── カンヌではどんな点が評価されたのですか。

 審査員が特に褒めてくれたのは、共感性や、きちんと機能を伝えられているという点でした。僕は会場には行かなかったんですが、笑いが起きている作品が他にもある中で、“機能を訴求できている”という本来の部分で評価されたのは、非常にうれしかったですね。また、アイデアがわかりやすいので、グローバルに一瞬で理解できるというところも良かったようです。

想像すればするほど面白くなるラジオCM

── TOTOのトイレ「ネオレスト」のラジオ広告、「テレビでできないCM」は、架空のテレビCMの内容をナレーションとSEで紹介する、まさにラジオならではの究極の広告です。

 このトイレは、そもそもとても商品力があり、トルネード洗浄という機能で便が非常に良く流れるんです。それを広告にするなら、実験した映像をテレビで流すのが一番なのですが、それはできない。でもラジオならそれを実況して映像を想像させることができる。そこで、この企画を思いついたんですね。

 ラジオは想像力の媒体だとよく言いますが、聞こえないからこそいろいろなことを想像して、想像すればするほど面白くなっていく。女性のナレーションが異様にまじめな声で「便のアップ」「流れ去る便のスローモーション」とか言っているので(笑)、ACCの会場(本作品で山本氏は2007年ACCベストCMプランナーを受賞)でも、みなさんクスクス笑っていました。何かをしながらラジオを聴いているリスナーも、このぐらいパワーがあれば振り向いてくれるのかなと思います。

── ラジオCMを制作する際、どんなことを重視していますか。

 僕の場合は、コピーだけでなく、細かいところまでディレクションもやっています。ラジオCMはリスナーにこう聴いてほしいという形を完成させてつくるものなので、原稿に加えて、声(ナレーション)、音楽、SE、間という4つの要素を計算して組み立てていきます。

 特に、最後の止めのナレーションとその直前の間は大切で、まだ笑いの余韻が残っているときに次の言葉が来てしまうと、きちんと伝わらない。「なるほどなぁ」と理解した瞬間に、「だからこの商品ですよ」と言う必要があります。

 また、ラジオの言葉は文語ではなく口語で、文章ではなくせりふ。ひとりのせりふが長いと飽きられてしまうので、ある程度テンポよく区切ってあげることも大切です。グラフィックなら文字で表現するところを、あえて言葉をなくしてSEだけにしてしまうこともあります。

 ……と、こういったことをすべて自分ひとりで考えられるのがラジオCMの面白さですね。入社2年目から4、5年間はラジオCMばかり作っていましたが、演出を自分でやることで、“こう言うとどう聞こえる”ということがわかり、結果として書くのもうまくなったように思います。

──今後、手がけてみたいことは?

 番組の中に広告が入ってきたり、いままで広告枠ではなかったところを広告に使ってみたりといった、ラジオCMの新しい枠組み作りですね。あとは、映画学科出身なので、テレビ番組の企画や脚本などにも興味はあります。キャリアがまだ長くないので、これからやりたいことはたくさんあります。

カンヌ国際広告祭2008 ラジオ部門グランプリ受賞

2007 ACC CM FESTIVAL ラジオCM部門ゴールド受賞

山本 渉(やまもと・わたる)

コピーライター・CMプランナー

2001年コロンビア大学映画学部卒業後、電通入社。主な受賞歴は、ACC賞ベストCMプランナー、ACC賞ゴールド、カンヌ国際広告賞グランプリ、クリオ賞ブロンズ、アドフェストシルバー、TCC新人賞など