紙の可能性を追求しながら新しい雑誌デザインを行う

 『GQジャパン』『ヴォーグニッポン』『ブルータス』『カーサ ブルータス』『ブルータス トリップ』など、ファッション誌やカルチャー誌を中心に、雑誌のアートディレクションとデザインを手掛けるCap代表のアートディレクター、藤本やすしさん。雑誌デザインに対する思いや、考え方などについてうかがった。

「今一番新しい」ことをどんどん試していく

 藤本やすし氏

──『ブルータス トリップ』は、斬新なデザインで書店の店頭で目立っていて、存在感がありました。

 『ブルータス トリップ』は、単なる旅行ということではなく、日常を離れて刺激を受けるという広い意味での“トリップ”を扱う新雑誌。だから、デザインについても何か新しいことをしようということで、編集部と作業を進めていきました。

 最近の雑誌はどれも“カタログ+ウェブ”というスタイルのものばかりで、「そういうのはもういいよ」という感じがありました。そこで、70~80年代に出ていた大判のグラフ誌のようなものを、あえて今登場させてみたらどうだろう、と思ったのです。

── 背表紙のところに糸が見える、独特な綴(と)じ方をしています。

 これは「かがり綴じ」という特殊な綴じ方です。紙の楽しさは、手で触ったときの手触りにあるので、それを追求したかった。見た目のインパクトもあります。
 今一番新しいものは何かと思ってあれこれ探してみたら、結果的にぐるりと時代を一周して、昔の手作り風のものに戻った、という感じですね。

──雑誌のアートディレクションを新たに手掛けるときは、最初に必ずダミー版を作られるそうですね。

 雑誌作りは、編集者、ライター、デザイナー、カメラマンなど、大勢のスタッフの共同作業なので、最初に具体的なひとつのイメージを共有することが大事です。雑誌の判型、紙、厚さ、ロゴ、レイアウトの雰囲気、表紙は人物なのか風景なのか、そういったところまで含めてダミー版を作り、プレゼンします。そこから編集部の要望を受けてやりとりを重ねて、ひとつの形を作り上げていきます。

── 雑誌デザインを考える際に、特に重視することは。

 まず、とにかく目立つこと。今では他の雑誌でもやるようになりましたが、ポップアップのページを入れたり、変わった質感の紙を使ったり、様々な特殊印刷などを試してきました。そうすることで、目立つだけでなく、雑誌の楽しみ方がどんどん膨らんでいくんです。
 また、当たり前のことではありますが、常に新しいことをするようにしています。ファッション誌、カルチャー誌は、常にもっとも新しいことを追求できますから。

 『ヴォーグニッポン』のようなモード誌からカルチャー誌までのデザインを幅広く手掛けているCapという会社は、いつも新しいことをしている──。そういうイメージ作りには気を使ってきました。その結果、今ではCapがある種のブランドになり、新しい試みを行うことについて任せてもらっていると考えています。

 今は男性誌と女性誌の両方をやっていますが、どちらかと言えば女性誌の方が新しいことに挑戦しやすくて、やっていて面白いですね。セレクトショップもいまは女性向けのお店が面白いですし、そういう時代なのでしょう。

 『ヴォーグニッポン』4月号
 『GQジャパン』4月号
 『ブルータス トリップ』1月号
(創刊 号・季刊)
 『GINZA』4月号
 『カーサ ブルータス』vol.98 5月号
 『ブルータス』NO.636

紙をめくる楽しさと手触りにこだわる

── 今までに100誌を超える雑誌のデザインを手掛けられていますが、新聞のデザインについてはどう思われますか。

 僕はネットはあまり好きではないので、ニュースも新聞で読みますが、新聞のインクのにおいや手触りが大好きです。
 デザインの面では、新聞はあくまでも読みやすさなどの機能性が最優先ですよね。一覧性があるし、紙面での扱いの優先順位がひと目でわかる。その分、雑誌とは違ってデザイン上の制限は多くなるわけですが、リーダビリティーを最優先するからこそ、新聞なのだと思います。

 僕は雑誌と新聞は完全に別物としてとらえているので、いまの新聞のデザインについて特に不満などはありません。むしろ、“新聞らしさ”をどうやって雑誌に取り込んだら面白いかな、というふうに考えます。日本の新聞にはないですが、ニューヨーク・タイムズの日曜版のように、様々なカテゴリーのページが集まって束ねられているスタイルなどは、とても面白いと思いますね。

── 今後の仕事の展開について、どのようにお考えですか。

 出版業界の中で紙の媒体を扱っている以上、ウェブに対する不安感というのはとてもあります。どんどんペーパーレスが進む流れも変わらないと思います。
 ただ、僕はウェブのデザインにはまったく興味がないんです。紙の手触りや、雑誌ならではのページをめくっていく感覚や楽しさが大好きなので、僕自身はやはりそこにこだわっていきたい。

 雑誌はヴィンテージやアンティークになり得ますが、ウェブにはそれがありません。古くなっても楽しめるモノとして残らないから、どうしてもウェブに対して愛着がわかないんです。
 それよりも、モノとしての紙の可能性をさらに追求していくことで、ウェブにはできない何かが生まれると思っています。そこに、今後も紙媒体が勝ち残っていける道筋があるのではないでしょうか。

藤本やすし(ふじもと・やすし)

アートディレクター

1983年にデザインオフィス「Cap」設立。アートディレクターとして過去に『マリ・クレール』『流行通信』『Olive』『STUDIO VOICE』『Tokion』『REAL SIMPLE』など、現在では『VOGUE NIPPON』『GQ JAPAN』『GINZA』『BRUTUS』『CASA BRUTUS』『BRUTUS TRIP』を手掛ける。デザイナーとしてかかわった雑誌は約100冊にのぼる。また、ルイ・ヴィトン、表参道ヒルズの広告印刷物や、アパレルのシーズンカタログのアートディレクターも務める。2007 年11月『雑誌デザインの潮流を変えた10人』をピエブックスより発行。
Capのウェブページ:http://www.cap3hats.co.jp/