ブライトリングやアルプス電気の企業広告などを手掛ける、ドラフトのアートディレクター、古屋友章さん。グラフィック制作に関する考え方や、広告への思いについてお話をうかがった。
大きな紙面を生かした迫力ある写真
――ブライトリングの広告ビジュアルは、日本法人だけが独自制作を許されているそうですね。
私はブライトリングの広告を5年前から担当しています。
ブライトリングの広告ビジュアルは、全世界で統一されていて、ブライトリング・ジャパンだけが独自の広告ビジュアルの制作を許されています。ブライトリングはパイロットのための腕時計なので、スイス本国で作る世界統一ビジュアルは飛行機と時計がモチーフです。ただ、日本では飛行機に対して戦争のイメージが多少あるということで、モノ寄りの自由な表現をさせてもらっています。
朝日新聞の一連のエリア広告(パノラマ6)は企業広告でもあり、販売店の企業広告でもあるという存在です。
――06年7月のエリア広告は、黒の背景でダイナミックな印象ですね。
この時計はほとんどすべての面が曲面でできており、実際に腕につけてみるとその輝きが非常に魅力的なのですが、普通のセットで撮影するとその魅力がなかなか伝えられないと感じていました。また、この時計を作ったスイスのデザイナーのプロダクトコンセプトは“すべての風を受けて光り輝いている”という話も聞いていました。そこで、日常の中で光るモノだし、色々な背景がある屋外で撮影しようと思ったのです。
ただ、実制作でディテールを作り込むのには苦労しました。ラフを作った秋の時期は空気がクリアで、風景の色彩も豊かでした。でも、実制作に取りかかったのは春で、光が強く、新緑の色が出過ぎて時計が緑に染まってしまうんです。ひたすら何枚も修行のように撮影したのですが、どうしても思い通りの写真が撮れず、最終的にはラフ用に屋外で撮影した写真をコンピューターで丁寧に書き起こして、新緑をイメージした色を作りました。
――同じく07年7月のエリア広告は、青い空が背景です。
これは、自分で撮った時計本体の写真と、他のカメラマンに撮ってもらった空の写真を合成しています。あえて空と時計のどちらにもピントを合わせられるので、面白いスケール感が出せました。
撮影には、リコーのGR-DIGITALという、コンパクトなデジタルカメラを使っています。大きいカメラだと被写体に寄りきれないのですが、このカメラはかなり寄れるので、パースの付いた迫力のある写真が撮れる。そして、ピントごとに何枚も撮影した複数の画像を合成して重ねることで、時計全体にピントが合って見えるようにしました。
「プロフェッショナルなパイロットのための腕時計」という製品哲学からくるものだと思いますが、ブライトリングは“異端でありながら本物”という、不思議な存在感のある時計です。その存在感を出すために、何か普通ではない手法で撮影することも考えていました。そういったこちらの本質的な意思をクライアントさんが理解し、共感してくれたのはありがたかったですね。
――いずれのビジュアルも、大きいサイズで見るのがふさわしい迫力がありますね。
ブライトリングの作る時計は、重く大きく男っぽいけれども、繊細で美しい。そのスケール感や美しさをきちんとメッセージとして伝えるためになるべくサイズの大きい媒体を選びました。B全のポスターや雑誌の見開き、新聞のエリア広告で展開しています。
「パノラマ」は、自宅で広げて眺められるものの中では一番大きいもの。エリアを細かくセグメントして届けられることに加え、新聞の持っている知的で品格の高いイメージを持ち合わせているので、ブライトリングの広告にはふさわしいと思っています。
――広告を作る上で大切にしていることは。
新聞でもSPでも、クライアントや商品の姿勢と同じスタンスで臨むようにしています。
たとえば、アルプス電気の08年の広告は、「イマジネーション」をテーマにしています。技術をイメージする力を持っているメーカーということですが、総合電子部品メーカーであるアルプス電気は、もちろん何千万個という部品を生産するわけですから、最後まできちんと責任をもったイマジネーションでなくてはなりません。だからこそ、楽しくてもうわついた広告にならない、地に足の着いたメッセージを世の中に投げかけられればと考えています。
基本的に、まじめにしっかりと作っている広告が好きなんです。ユニークなことをやっていても、芯はまじめで信用できる広告。作り手が考えているコトとかって無意識に出してしまいますから。だから、写真でもレイアウトでも、“○○っぽい”ということは意外と表に出てしまうので、そこは大事にしたいですね。
――今後手掛けてみたい広告は。
ブライトリングとアルプス電気は根底に似た部分があるので、作るものも多少似てくるのですが、今後は表現の幅をもっと広げていけたらと思っています。最近、周囲から“おじいちゃんっぽい”と言われるので(笑)、男っぽい広告以外のものをやってみたり、もう少し自分を不安定な状態に置いてもいいのかな、と思っています。
アートディレクター
1973年埼玉県生まれ。慶應義塾大学環境情報学部環境情報学科卒後、多摩美術大学美術学部グラフィックデザイン学科卒。2002年ドラフト入社。アルプス電気の新聞広告や、ブライトリングの新聞広告、展示会招待状、カレンダーなどを手掛ける。2003年東京TDC賞、2007年JAGDA新人賞を受賞