日本発、世界へ アイデアとイノベーションでブランディングに貢献したい

 2012年、東京にオフィスを開設した欧米大手クリエーティブエージェンシーAKQA。海外市場で以前からパートナーであったナイキと日産自動車のコミュニケーションを、東京を拠点に展開する他、新たなクライアントの開拓も進めている。この3月に東京オフィスのマネージングディレクターに就任した葉村真樹氏に、今後の取り組みや、自身の経験などについて語ってもらった。

今の時代に求められているのは 「Art, Business & Code」

葉村真樹氏 葉村真樹氏

──AKQA東京オフィスのこれからのビジョンについて、どのように考えていますか。

 「クリエーティブファースト」を基本に、アイデアとイノベーションによって「経験」を提供していきます。
ブランドと消費者の接点をメディアの枠組みの中だけで考える時代は終わりました。消費者の行動が変わったからです。消費者の行動を変えた最大の要因は、テクノロジーとソーシャルメディアです。どちらも今や消費者の日常に不可分なもの。この歴然とした事実に、多くの企業が追いついていない現状があります。

 今の時代に求められているのは、「Art, Business & Code」です。私は、「Art」と「Business」をつなぐ役目を果たすのが「Code」、つまりデジタルテクノロジーだと考えます。表現の質を高めて消費者にインパクトを与えるだけでいいのか。ROI(投資対効果)やCPA(成功報酬型広告)にこだわって目先の利益を上げるだけでいいのか。そうではないと思います。しかし、これまでの日本における施策の多くは、「Art」「Business」「Code」が分断され、おのおのの追求にとどまっていました。それだけで長く愛されるブランドを育てるのは難しいと思います。

 羊かんの老舗「虎屋」は500年近い歴史をつないでいます。それはなぜか。「Art」と「Business」を両立させ、時代に合った「経験」を人々に提供し続けてきたからです。「経験」はテクノロジーによって、より面白く、より刺激的になる。東京オフィスはそこに挑戦し、実績を重ねています。

──AKQA東京オフィスのミッションは。

 一言で言うと“From Japan to Global”です。例えば、海外ブランドが日本でキャンペーンを展開する場合、グローバルキャンペーンのローカリゼーションに終始するケースが多いですが、そんな海外ブランドであっても日本発でグローバルに展開できるようなものを創っていきたいと考えています。あるいは、逆に日本のブランドが、最初は日本市場を対象とした取り組みであっても、最終的にはそれがグローバルに広がっていく。そういったことを志すあらゆるブランドのパートナーになることが、東京オフィスのミッションです。

──東京オフィス開設以来の実績について、いくつか紹介してもらえますか。

#UGOKIDASE TOKYO #UGOKIDASE TOKYO

 ナイキの取り組みとしては、2012年に「#UGOKIDASE TOKYO」というキャンペーンを、ロンドンオフィスと組んで展開しました。ナイキの「Nike+ Running」(Nike+ SportWatch GPSやiPhoneなどを使い、ペース・距離・消費カロリーなどランニングデータをリアルタイムでモニターすることができるプロダクト&サービス)を使い、市街地でのランニングや、都内にあるナイキの「UGOKIDASE STATION」に設置されたマシンで様々な運動を競うデジタル体験を提供しました。ツイッターやフェイスブックを通して注目が高まり、13年の「Design Week Award」誌の「best of show」を受賞しました。

Nike RUN TRACK Nike RUN TRACK

 昨年は、東京オフィス主導で「Nike+ Running」に蓄積されるデータを使用して、オリジナルのミュージックトラックを生成するウェブアプリ「RUN TRACK」を開発しました。データに含まれる、距離、速さ、時間帯、気温など様々な要素をもとに、国内アーティスト8組が提供した音源に、多種多様なエフェクトサウンドやリズムなどを組み合わせ、無数のパターンの楽曲を作ることができるアプリです。“ぐにゃり”と屈曲する裸足感覚のはき心地を提供するモデル「NIKE FREE」のキャンペーンの一環で、「NIKE FREE」の写真に「#GUNYARI」を添えてツイッターに投稿するとボーナストラックがもらえるキャンペーンも実施。フェイスブック上で2万4千以上の「いいね!」が集まり、ファン数も約1万から4万近くに伸長しました。

NISSAN IDX NISSAN IDX

 日産の「コ・クリエーション」プロジェクトの一環として、昨年の東京モーターショーでコンセプトカー「IDx Freeflow」と「IDx NISMO」の発表に際し、日産ブースの来場者が、特殊なVRゴーグルを装着してリアルな3D映像を見ながら独自のデザインを創造できるバーチャル体験を提供。会期中に100台以上作られたコンセプトカーのイメージはソーシャル上でシェアされました。

これまでのキャリアで培った経験を生かし クライアントの共感を得るアイデアを提案する

──CEOのアジャズ・アーメッド氏、チーフクリエイティブオフィサーのレイ・イナモト氏と、どのように連携していくのでしょう。

 アジャズ・アーメッドは、CEOとして東京オフィスの仕事を見ますし、レイ・イナモトはチーフクリエイティブオフィサーとして全社的なクリエーティブの責任者であり、東京オフィスのメンターでもあり、折にふれてやり取りしています。

──葉村さんのこれまでの経歴は。

 銀行系のシンクタンク、広告会社を経て、グーグル、ソフトバンク、ツイッタージャパンに勤めました。グーグルでは、日本法人の経営企画業務と営業戦略企画を統括しました。ソフトバンクモバイルでは、iPhone4の販売や初代iPadの販売の責任者でした。ツイッタージャパンでは、広告事業の立ち上げの後、広告事業に関連する各種事業開発を担当しました。

 冒頭で「消費者の行動が変わった」と述べましたが、グーグルやツイッターといったデジタルプラットフォームはその変化を最も知っています。これまで広告会社が消費者の行動を見つめることで得られる洞察を元に、アイデアを作り上げてきましたが、今やそのようなプラットフォームの方がその変化を理解しています。しかし、プラットフォームにはその変化が分かっても、どう消費者を動かすか、というアイデア力がありません。グーグルでもツイッターでも、「消費者の行動にソーシャルメディアやテクノロジーが影響していることはわかるが、どういう手を打ったらいいのかがわからない」というブランド企業の声を多く聞きましたが、今、求められているのは、その「アイデア」だと思うのです。これまでツイッターでは、ポイント会社やテレビ局などとのパートナーシップで"Twitter Amplify"と呼ばれる新しい「アイデア」でソリューションを提供してきましたが、そのような経験も生きるのではないかと考えています

──「Art, Business & Code」を大事にしていく上で、クリエーティブ、マーケティング、デジタル、ソーシャルなど、あらゆる分野に通じた人材が必要ではないでしょうか。

 一人がすべてに通じている必要はないと思います。アイデアを出す人、戦略を練る人、アートワークを構築する人、チームを取りまとめる人など、それぞれに飛び抜けた才能を持った人材がコラボレーションする環境があればいい。AKQAにはそうした環境があります。また、東京オフィスであってもグローバルに募集し、採用しています。

 「5年前には実現不可能だったアイデアをブランドのために考案する」。AKQAがカンヌライオンズの事務局と共同主宰している学生向けコンペ「フューチャーライオンズ」で毎年出している課題です。これは、AKQA自身が挑戦していることでもあります。自分の経験も生かしつつ挑戦を続け、アイデアに共感してもらえるクライアントといいパートナーシップ関係を築いていきたいと思います。

葉村真樹(はむら・まさき)
葉村真樹氏

AKQA Tokyo マネージングディレクター

AKQA Tokyo の代表として東京オフィスを統括。コロンビア大学大学院修士課程修了(建築・都市計画/MSc理学修士)。東京大学大学院工学系研究科博士課程修了、博士(学術)。グーグル日本法人にて経営企画室兼営業戦略略企画部統括部長、ソフトバンクモバイルにて iPhone 事業推進室長などを歴任。直近ではツイッタージャパンにて広告事業の立ち上げとブランド戦略及び広告事業開発の東アジア統括を担当。博報堂ではストラテジックプランナーとしてMAA Globes Award金賞、NYフェスティバルAME 賞を受賞した経験もある。現在、明治大学公共政策大学院で兼任講師として「情報メディア戦略」の講座も担当。