古色を帯びた戦国時代の甲冑(かっちゅう)を纏(まと)い、目を閉じ静かに佇む侍はなにを想うのか──。その表情があまりに自然でリアルなため、実際に人が着ているのではと勘違いしそうだが、実はその造形には樹脂などの現代的な素材が用いられている。野口哲哉氏の作品は、緻密な研究と時代考証に基づく繊細な描写から、国内外に多くのコレクターを持つ。
ミクストメディア
高さ56cm 2015年
幼少期、昆虫や化石が放つ「いびつさと秩序が共存する美しさ」に魅了された野口氏は、やがて鎧兜(よろいかぶと)に興味を持つに至る。「鎧兜を初めて見たとき、エビやカニが座っているように見えた。それはまるで『人間の殻』にも見え、その殻についてとことん知りたくなった」。ものを徹底的に学問していく姿勢をリアリズム芸術に生かせると考え、鎧兜からそれを纏う侍の姿を想像しつつ、緻密な作業の上に遊びのエッセンスを織り交ぜていく。「作品作りで大切にしているのはデータと秩序。やるなら大真面目に遊んだ方が楽しい」と話す。
「人生はちょっと楽しくてちょっと悲しい。日々懸命に生きている人に共感してもらえる作品を作り続けるため、いくつになっても楽しい大人でありたいですね」
左から、
■ Talking Head 高さ86cm 2010年
■ Thing of the operation稼働する事 ─Haramaki Style紫糸威腹巻筋兜鉢付─ 高さ31cm 2010年
■ シャネル侍着甲座像 高さ78cm 2009年 Collection: CHANELK.K.
■ SAMURAI BOX 高さ18.8cm 2013年
現代美術作家
1980年香川県生まれ。広島市立大学大学院修了。主な展覧会に「医学と芸術展」 (森美術館/ 2009年)、「野口哲哉展 ─野口哲哉の武者分類図鑑─」(練馬区立美術館、アサヒビール大山崎山荘美術館/2014年)、「アートフェア東京」(東京国際フォーラム/2015年3月)など。企業とのコラボレーションとして、CHANEL(2007年)、Audi Japan(2014年)など。2015年には羽田空港国際線旅客ターミナルでアートディレクションを手掛ける。著書として「野口哲哉ノ作品集 侍達ノ居ル処。」(青幻舎)。