信託事業とカード事業のシナジーにより新規顧客の獲得へ

 2015年12月、三井住友信託銀行は、米シティグループの一員であるシティカードジャパンの全株式を取得し子会社化。三井住友トラストクラブという新たな社名で、クレジットカード「ダイナースクラブ」の日本における唯一の発行会社としてスタートを切った。信託事業とカード事業の融合を目指す代表取締役社長の野原幸二氏に聞いた。

──三井住友信託銀行とダイナースクラブの親和性や補完性について聞かせてください。

野原幸二氏

 三井住友信託銀行は、預貯金を始め、ローン、資産運用、相続や不動産の相談など、様々なリテールビジネスを展開しています。信託銀行は一般的な銀行に比べ敷居が高いと思われがちですが、実際は多くの個人のお客様が利用されています。具体的には、退職世代の方や大手企業の役員、不動産をお持ちの資産家など、50代以上のシニアを中心に支持されています。一方、ダイナースクラブは、中小企業の経営者、医師、弁護士といった会員が多く、年齢は40~60代が中心です。

 三井住友信託銀行が今後リテールビジネスをさらに発展させていくうえでの課題は、カードビジネスでした。富裕層を中心とする両社の顧客層には親和性があり、かつ欠けているピースを互いに補完することができる。そのシナジーによって、サービスの強化や新規顧客の獲得を目指していきます。

──ダイナースクラブカードの特長についてご紹介ください。

 クレジットカードには大きく二種類があって、一つは決済を主な目的としたカード、もう一つはカード会社が提供するサービスを楽しんでもらうためのカードです。ダイナースクラブカードは後者で、その名の通り、食事を楽しむ人のために1950年にアメリカで誕生しました。

 会員向けのサービスやイベントは多彩で、例えば、毎年9・10月の2週間前後にわたって開催している「フランスレストランウィーク」には、全国500以上のフレンチレストランが参加、一律価格で限定コースメニューを提供し、昨年は5万人以上に楽しんでいただきました。

 対象レストランの所定のコース料金の1名様分、もしくは2名様分が無料になる「エグゼクティブダイニング」というサービスや、普段は海外の要人や大使館関係者しか入れない大使公邸で、大使とともにディナーを楽しむ会、京都・醍醐寺の夜桜ライトアップを貸し切りで楽しむ会、料理評論家の山本益博さんの実況解説を楽しみながら、銀座「すきやばし次郎」のお寿司(すし)を堪能する会など、独自のコネクションを活用したプランを多数ご用意しています。他社のステータスカードも似たサービスを提供していますが、この分野の先鞭(せんべん)はダイナースクラブであり、「食」を中心としたサービスのクオリティーについては自負があります。

──「国内最大・最高の信託事業と、独自の展開を遂げてきたカード事業を融合する本邦初のビジネスモデルを確立し、クラブメンバー・社会に貢献し続けます。」というビジョンを掲げました。具体的な取り組みについて聞かせてください。

 ダイナースクラブは法人向けの商品にも高い実績があります。国際航空券や物品の購入経費の精算事務を一本化し事務処理コストの削減を実現するカードレスの決済サービスや、コーポレートカードの発行サービスを銀行の法人取引先に紹介し、昨年度は約300社の企業に採用してもらっています。

 また、日本が誇る食文化や食の伝統を未来へつなげようと頑張っている生産者を応援する、「日本の食文化応援プロジェクト」に取り組んでいます。例えば、日本酒の品評会「SAKE COMPETITION 」への協賛です。協賛したご縁から「ダイナースクラブ若手奨励賞」を設立し、表彰した蔵元の商品を会員誌「SIGNATURE(シグネチャー)」で紹介したり、懇意の料理店に置いていただいたりしています。また、昨年8月、本邦初となる投資型クラウドファンディングにおけるクレジットカード決済を開始。日本の食産業などに関わる事業者と、その活動を応援したい会員を結ぶチャネルを作りました。こうした独自の切り口でカードサービスの可能性を広げていきたい考えです。

──従来の顧客層のライフスタイルや嗜好(しこう)をどのようにとらえ、今後どのようなサービスが求められると見ていますか。

 超高齢社会において、食を含むT&E(トラベル&エンターテインメント)のニーズ拡大と多様化を予想しています。当社の得意領域を強化して優位性を保ち、シニア層はもとより獲得競争が激しい若年層に訴求していきたい。現在74万人の会員数を、2020年をめどに100万人に増やす目標です。

──リーダーとして組織を率いる上で、糧になっている職務経験は。

 私は三井住友信託銀行で37年間勤め、2002年から3年間は岡山支店の支店長を務めました。この時、東京と地方の時間軸の違いを痛感したんです。都心と違う時間軸の中で暮らしや価値観を紡いでいる人の方がはるかに多いことに改めて気がつき、以後、都会視点に寄らず複眼的に物事を考えるようになりました。日本で提唱されるダイバーシティーは国籍や性別が中心になりがちですが、アメリカ系のカルチャーを持つダイナースクラブは他の分野でも幅広く取り組んでいます。自分の経験に基づいてできることは、価値観のダイバーシティーだと思っています。

──リーダー信条は。

 ブレない信念、ビジョンの浸透、筋肉質の人材育成。この三つがリーダーの責任だと思っています。

──愛読書は。

 司馬遼太郎の『街道をゆく』シリーズ、塩野七生の『海の都の物語 ヴェネツィア共和国の一千年』、リー・クアンユーの自伝『リー・クアンユー回顧録』、弘兼憲史の『黄昏流星群』などです。好きな作家は、筒井康隆、松本清張、黒木亮、宮部みゆき、佐藤優、原田マハ、恩田陸、ジェフリー・ディーヴァー、スコット・トゥローなど。ジャンルを問わず乱読しています。

野原幸二(のはら・こうじ)

三井住友トラストクラブ 代表取締役社長

1955年山口県生まれ。京都大学法学部卒業後、78年住友信託銀行(現三井住友信託銀行)に入社。東京営業部長、名古屋支店長等を経て、2010年常務執行役員、12年三井住友信託銀行常務執行役員、14年専務執行役員。15年4月三井住友トラスト・カード社長。同年12月から現職。

※朝日新聞に連載している、企業・団体等のリーダーにおすすめの本を聞く広告特集「リーダーたちの本棚」に、野原幸二氏が登場しました。
(全国版掲載。各本社版で、日付が異なる場合があります)

広告特集「リーダーたちの本棚」Vol.97(2017年5月27日付朝刊 東京本社版)2.6MB


「リーダーたちの本棚」の連載が書籍化されました。詳しくは以下の関連記事をご覧下さい。

【関連記事】
朝日新聞広告特集「リーダーたちの本棚」の連載が書籍化『私をリーダーに導いた250冊』が刊行