「のど」からセルフメディケーションを

 200年の伝統を持つのど薬「龍角散」に加え、携帯に便利な個包装の「龍角散ダイレクト」、のどあめやトローチ、薬を飲みやすくする服薬ゼリーなど、画期的な商品を次々と生み出している龍角散。そのけん引役を果たす代表取締役社長の藤井隆太氏に、同社の取り組みについて聞いた。

藤井隆太氏

──龍角散は、のどに特化した商品を展開しています。

 薬というのは、必要な量を、目的とする場所へ必要な時間に届ける「ドラッグデリバリーシステム」がうまく機能すると効果的で副作用も少なくてすみます。当社の製品群は、いずれも究極のドラッグデリバリーシステムを実現しています。

 近年は、PM2.5によるのどの不快感を緩和するとして、中国本土や中国からの観光客を中心に需要が伸びています。また、大きな声を出したり歌ったりした後の声がれのケアとしても愛用されています。

──新聞広告などを通じて、セルフメディケーションの重要性を訴えています。

 日本には、少ない自己負担で高水準の医療を受けられるすばらしい医療保険制度が整っています。しかし、高齢化による医療費の拡大が進み、厚生労働省調べによると、2015年度の日本の概算医療費は41.5兆円と過去最高を記録しました。このまま拡大が進むと、日本の医療制度が危機的状況に陥るのは明白です。

 増え続ける医療費の中でも特に伸び率が高いのが、医療用医薬品です。その大きな要因に「残薬」があります。残薬とは、医療機関から処方された薬を飲み忘れたり、飲み残したりして余った薬のことです。私がそのことに気づいたきっかけは、当社が開発した服薬ゼリーへのニーズの高さでした。

 服用する薬の数が多い方や高齢者の悩みは、服用時の「のどストレス」です。下手をすると薬を気管内に飲み込んでしまう「誤えん」の原因になることもあります。それを防ぐために当社が独自に開発した服薬ゼリーは、介護や医療の現場、さらには子どもに薬を飲ませたい保護者の間で支持が広がっていきました。

 私は現場の声を直接聞くことをモットーとしているので、医療や介護の現場に何度も足を運びました。高齢者の多くが大量の薬の処方を受けているのですが、「症状は深刻ではないけれど、処方薬は安いので一応もらっておく」「よく飲み忘れる」という声が多く聞かれました。

 そうした問題解決の糸口と考えているのが、セルフメディケーションです。処方された薬が飲みづらい時は、服薬ゼリーを使って飲みきり、早い快復を目指す。生活習慣や運動の質を見直す。定期検診を受ける一方で、重複受診や頻回受診を避ける。OTC医薬品(市販薬)を賢く活用する──。こうしたことが不可欠だと思うのです。

 「医薬品が国の医療費を圧迫しているなら薬価を下げればいい」という論調もありますが、これには強く反対します。海外の安い原料を使うしかなくなり、薬の安心・安全が維持できなくなるからです。

──そうした中、今年1月に「セルフメディケーション税制(医療費控除の特例)」がスタートしました。

 セルフメディケーション税制は、スイッチOTC医薬品(医師の処方が必要な医療用医薬品から転用された特定の有効成分を含む市販薬)の年間購入額によって所得税や住民税の控除が受けられる制度です。スイッチOTC医薬品の年間購入額が自分と家族を合わせて1万2千円を超えれば控除の対象になります。当社製品では「龍角散せき止め錠」がこの対象です。

 一方、医療費控除は、1年間の家族の医療費自己負担額が合計10万円を超えた場合に確定申告をすると、その年の所得税が一部還付されたり、翌年の住民税が減額されたりする税制です。当社製品では「龍角散」「龍角散ダイレクト」、服薬ゼリーシリーズ、せき止めシリーズがこの対象です。

 この二つの制度のうち、どちらで申請したほうが控除額が大きくなるのか。新しい税制が、医療費の内訳を見直すきっかけになってほしいと思います。

──輸出やインバウンド需要の現状と、今後の取り組みについて聞かせてください。

 輸出に関しては、台湾と韓国で50年にわたる実績を積んできました。さらに、中国本土からの旅行客に対する個人観光ビザの発給要件が大幅に緩和された2010年、国内の家庭薬メーカーと連携して中国にて広告や販促活動を展開。これがインバウンド需要の増加につながりました。

 「龍角散」や「龍角散ダイレクト」は、いわゆる“爆買い”現象も一時期見られました。それがあまりに進んだ際は、従来の愛用者に行き届かなくなるのを避けるため、一時は、出荷をコントロールせざる得なくなり、お取引先にご迷惑をかけてしまったこともありました。今は購買者の全体数が増え、安定的に売れています。製品の安心・安全に対する信頼がクチコミで広がっているようです。

 というのも、当社は原料となる生薬の国産比率を高めています。当社発祥の地である秋田県や各自治体の協力、農家の皆様の努力により、厳しい基準をクリアした薬用植物の本格栽培に成功した結果です。

 医薬品のみならず、日本で丁寧に安全に育てられた生薬そのものを買いたいという海外からの引き合いもあります。高齢化や人手不足に悩む日本の農業の活性化も含めて可能性を感じています。

──藤井社長は、桐朋学園大学を卒業後、プロのフルート奏者として活躍した時期もありました。その経験をビジネスにどう生かしていますか?

 音楽家というと感性がすべてのように思われがちですが、実際には論理的な組み立てが不可欠です。楽譜を正確に分析し、パートも音色も違う大勢の演奏者と寸分の狂いもなく音を合わせなければなりません。様々な職務の人と連携して経営計画の達成を目指すビジネスと基本は変わらないと思います。

 音楽家の感性がものを言っているとしたら、観客の反応を敏感に察知する能力でしょうか。ビジネスの場で言えば、顧客や取引先の反応を的確に読み取って対応していくということです。また、演奏家はオンリーワンの個性が光っていないと観客を魅了できません。当社は「のど」の分野のオンリーワンとして差別化を図ってきた会社なので、マインドは共通していますね。

 あとは「常に真剣勝負」ということ。私のフルートの師匠は、NHK交響楽団の首席奏者を務められた小出信也先生です。小出先生には「笛吹きのフルートは、武士の刀と同じ。いかなる場でも真剣勝負だ」と教えられました。ビジネスの場では、例えば台湾の代理店の代表者が100人ほど集まった宴席で、テレサ・テンの歌を中国語で歌った後にフルートを演奏しました。それまでガヤガヤしていた人たちがピタッと雑談をやめて清聴してくれました。演奏後は拍手喝采でしたね(笑)。

──愛読書は。

 音楽関係の本では、桐朋学園大学学長の梅津時比古先生がつづる音楽エッセー『音のかなたへ』や、コソボフィルハーモニー交響楽団首席指揮者の栁澤寿男さんの回顧録『バルカンから響け! 歓喜の歌』が心に残っています。その他、『なぜ、健康な人は「運動」をしないのか?』『医療防衛 なぜ日本医師会は闘うのか』は、健康産業に携わる身として注目し、セルフメディケーションに通じる内容に共感しました。

「よく知って、正しく使おうOTC医薬品」開催のご案内

■日時:2017年10月20日(金)12:00~20:00/21日(土)10:00~19:00
■会場:東京都日本橋 第1会場/福徳の森 第2会場/江戸桜通り地下歩道
■主催:日本一般用医薬品連合会(日本OTC医薬品協会・日本家庭薬協会) (公社)東京薬事協会 (公社)東京生薬協会 (公社)東京都薬剤師会 (公社)東京都医薬品登録販売者協会

 詳細は日本家庭薬協会からのお知らせ http://www.hmaj.com/news/20171020.html へ。

藤井隆太(ふじい・りゅうた)

龍角散 代表取締役社長

1959年東京生まれ。84年桐朋学園大学音楽部及び同研究科修了。小林製薬、三菱化成工業(現・三菱化学)を経て、94年龍角散入社。95年から現職。

※朝日新聞に連載している、企業・団体等のリーダーにおすすめの本を聞く広告特集「リーダーたちの本棚」に、藤井隆太氏が登場しました。
(全国版掲載。各本社版で、日付が異なる場合があります)

広告特集「リーダーたちの本棚」Vol.101(2017年9月27日付朝刊 東京本社版)2.4MB


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