日本ならではの意匠を持つ最高級ブランド「グランドセイコー」、世界初のGPSソーラーウオッチ「セイコー アストロン」、レディースウオッチ「セイコー ルキア」など、多様な個性の腕時計を展開するセイコーウオッチ。国内では不動の地位を築いている同社が、グローバル展開を加速している。代表取締役社長 兼 COO 兼 CMOの高橋修司氏に聞いた。
──グランドセイコーを独立ブランド化しました。その狙いと、手応えは。
グランドセイコーの発売開始は1960年にさかのぼります。高級腕時計市場において世界をリードしていたスイスのメーカーに追いつけ追い越せという高い志のもとに誕生しました。ムーブメントの設計、職人によるハンドメイドの仕上げ、デザインなど、すべてを特別のラインで製造し、世界最高水準の精度、見やすい文字盤、日本ならではの美しいデザインを追求したブランドで、マーケティングを含めて独自の歩みを続けてきました。おかげさまで、国内では五指に入るラグジュアリーブランドとして定着しています。
海外販売の開始は、2010年。現在では世界の主要都市約80カ所にある直営店舗・セイコーブティックに置いたところ、ジャーナリストや時計愛好家の方々を中心に高い評価をいただき、今では売り上げの半分を占めるまでになっています。2014年には、同ブランドの「メカニカルハイビート36000GMT限定モデル」が、権威あるジュネーブ時計グランプリ「小さな針」(プティット・エギュィーユ)部門賞を獲得。日本の機械式時計が本場スイスで同賞に輝くのは初めてのことで、グローバル展開を本格化する弾みとなりました。かつてクオーツ腕時計で市場を席巻した当社は、実用性に優れた普及価格帯の腕時計メーカーとして認知が先行しています。そこで、高価格帯のグランドセイコーは、セイコーから独立したブランドとして新たなスタートを切ることになりました。
──グローバル戦略の今後について、聞かせてください。
当社は、ムーブメントも外装も自社一貫製造の「マニュファクチュール」。ジャパンメイドの商品力が強みです。ライバルと張り合うのではなく、職人の手仕事と最先端技術、さらには感性に訴える“エモーショナルテクノロジー”を追求し、世界での地位を確立していきたいと考えています。
商品の魅力に直接触れていただくため、セイコーブティックの拡充も進めています。欧米を中心に海外出店を2018年度中に現在の80店から100店まで増やす計画です。ブティックの世界観も含めて、ラグジュアリーなブランド体験を提供していきます。
広告やPRに加え、ブランドのウェブサイトやSNSなどデジタルマーケティングにも力を入れていきたいと考えています。
──経営方針として、これまでとは変えていくところ、これからも変えないところ、それぞれ聞かせてください。
現代社会はIT化もあいまって日々刻々と情勢が変わり、非連続化しています。予測を立てることよりも、変化にすばやく対応する、自ら非連続を起こして不都合な外部環境をはねのける、といった経営が必要です。既存の市場で消耗戦に明け暮れるのではなく、ブルー・オーシャン(競争相手のいない未知の市場空間)を開拓する気概を持つ。そうした意識に変わっていかなければならないと思います。
これからも変えないところは、「常に時代の一歩先を行く」という創業者・服部金太郎の理念です。2014年には、「ワクワク感・ドキドキ感」を醸成するような、感性に訴える「エモーショナルテクノロジー」の追求を目指して、グループスローガン「時代とハートを動かすSEIKO」を掲げました。たゆまぬ技術革新とともに、愛されるブランドを目指して、商品開発やプロモーションに磨きをかけていきたいと思います。
──リーダーとして組織を率いる上で、糧になっている職務経験は。
幸せなことに、商品企画、営業、マーケティング、広報など、人事以外のほぼ全分野を経験してきました。初めて配属されたのは情報システム部門で、8年間所属しました。あらゆる部署の仕事を分析する仕事で、若いうちに会社の仕組みや業務の流れを把握することができたので、貴重な8年間でした。この経験が今に生きています。
──リーダー信条は。
マーケティングのモットーは、「トレードオフ(二律背反)の打破」。そのキーは、コストを下げながら買い手にとっての価値を高める「バリュー・イノベーション」だと考えています。現業を効率化し、イノベーティブな仕事に振り向けるなど、働き方改革にも取り組みながら、トレードオフの打破を目指します。
リーダー信条は、「着眼大局、着手小局」。昔、親しい先輩からいただいた言葉です。私は頭でっかちなタイプで、物事を俯瞰(ふかん)するのは得意。それを見た先輩が、『大きなことばかり言っていないで、地道なことから手をつけろ』と思ったのかもしれません(笑)。そうした戒めも含めて大事にしている信条です。
──愛読書は。
『トレードオフ』と『ブルー・オーシャン戦略─競争のない世界を創造する』は、私の中で「経営のバイブル2部作」と位置づけています。前者は、愛される上質ブランドに賭ける勇気、後者は、海図のないブルー・オーシャン戦略(競争相手のいない市場を作り、新しい価値と利益を生むこと)に取り組む勇気をくれた本です。
セイコーウオッチ 代表取締役社長 兼 COO 兼 CMO
1957年東京生まれ。80年早稲田大学理工学部卒。服部時計店(現・セイコーホールディングス)入社。2013年セイコーHD取締役。15年セイコーウオッチ取締役専務執行役員。今年4月から現職。
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(全国版掲載。各本社版で、日付が異なる場合があります)
広告特集「リーダーたちの本棚」Vol.103(2017年11月28日付朝刊 東京本社版)2.6MB
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