二人で創る、新しいバルーンアートの世界

 「DAISY BALLOON(デイジーバルーン)」は、河田孝志さんと細貝里枝さんが2008年に結成したアーティストユニットである。これまでに商業施設のディスプレイや広告の衣装制作、アーティストの舞台衣装など、国内外で多彩な作品を発表してきた。河田さんの斬新なアイデアと細貝さんの確かな技術。二人だからこそ創作できる新しいバルーンアートの世界とは……。

思考と技術。ユニットの中での役割分担

──「DAISY BALLOON」は、はじめ細貝さん一人で活動していたそうですが、ユニットを組んだ理由は。

細貝氏 細貝里枝氏

細貝氏:知り合ったのは2008年、河田が運営しているデザイン会社に、私の作品のグラフィックを依頼したのがきっかけでした。河田からいろんなアイデアをもらうようになり、そうして出来上がった作品の方がバルーンアート以外の世界の人からの反響があることに気づきました。私自身、グラフィック的な視点の重要性を感じるようになっていたこともあって、ユニットを組んで活動することにしました。

河田氏:僕はそれまでグラフィックの仕事をメインにやっていたのですが、ある日、細貝が作ったバルーンドレスを見て衝撃を受けたんです。それは僕の持っていたバルーンの概念が一気に崩されるくらいのものでした。バルーンアートでいろんな人の概念を崩していくことで、何かおもしろい世界が作れるんじゃないかと思ったのが、ユニットを組んだきっかけです。

──作品の制作はどのように進めていますか。二人で一つの作品を作ることの難しさは。

河田氏 河田孝志氏

河田氏:作品を作るときは、はじめに僕が主体となって全体のコンセプトやグラフィック的なデザインを考えます。それをバルーンでどう構成していくかを考えて、実際に作っていくのが細貝です。「思考」と「技術」。人間の体で言えば「脳」と「手」のような役割を、それぞれユニットの中で担っています。

細貝氏:もちろん、オファーを受けた時の感覚はお互いに違うと思います。河田はまず全体的な見え方を考えるだろうし、私はまずバルーンでどう作ろうかという構造から考えます。なので、いつも最初は「いやいや、そうは言ってもそれはバルーンではできないでしょう」という話し合いからのスタートです(笑)。でも、バルーンの技法に限界という概念を作らない河田からの高い要求に応えようとすることで、私自身が気づかないうちに新しい技法を用いていることもあります。それがユニットならではの強みですね。

考えをすり合わせたり、意見し合ったり、二人で作る方が一人で作るよりも手間や時間はかかりますが、それ以上に広がりのある作品になると思っています。

バルーンという概念を崩す作品を作りたい

※画像は拡大表示できます

「Behave」Photographer:Satoshi Minakawa

──2015年制作の「Behave」は、少女が纏(まと)う二色のドレスが交差する、美しいフォルムが印象的な作品です。

河田氏:「Behave」は、成長過程にある少女の心の中を、行ったり来たりする感情の「揺らぎ」をビジュアル化したいと思い制作しました。ブルーが内側に輝く光で、イエローが外側に輝こうとする光をイメージしています。決して交わることのない対照的なものを交差させ、融合を試みた作品です。

細貝氏:河⽥からもらったコンセプトとデザイン案をもとに、膨らませた細⻑いバルーンを丸くひねり、それらを編んだものです。幅は1.5メートル×全⻑7メートルくらい。丸⼆⽇間作り続けました。出来上がったものは、柔軟性があるので布のようにクルクル巻いてスタジオへ搬⼊し、現場でこの形を作って撮影しています。

──バルーンという素材にはどんな特徴があるのでしょうか。

細貝氏:バルーンにはラバーバルーンと呼ばれるゴムのバルーンの他に、アルミや塩化ビニールなど様々な素材のものがあります。素材によって質感も、持ちも変わってくるので、作りたいものによって使い分けています。

バルーンは、空気を入れた瞬間から電子レベルで空気が抜け始め、劣化が始まります。空気を入れた瞬間が満開の花だとしたら、そこからどんどん朽ちていくのがバルーンアートの宿命。だからこそ「もたない」という特性を作品にどう活かすかが重要だと思っています。

河田氏:長期展示の依頼も多く、はじめは僕たち自身が「バルーンなんだから絶対にもたない」という概念にとらわれていました。でも、そのうちに「劣化していくこと、しぼんでいくことを逆に生かした作品を作れないだろうか」と考えるようになりました。

その一つが、2016年夏のフラワークリエイター・篠崎恵美さんとのプロジェクトです。透明のバルーンで作った格子状のカバーで生花を覆い、その変化を撮影したのですが、2日、3日、4日と経つうちにバルーンは劣化して小さくなり、蕾(つぼみ)だった花は成長して開いていく。バルーンと花が一つの時間軸の中で交差しながら融合していく、という作風を見つけることができました。

「Astral」Photographer : Masaki Ogawa

──これから二人でどんな作品を作っていきたいですか。

河田氏:バルーンが持っている楽しさ、幻想的な要素は⼤切に残しつつ、誰もが思い描くバルーンという概念を崩すような新しい作品を⼆⼈で作っていきたいと思っています。

細貝氏:ユニットを組んで10年になりますが、最近はバルーンアートといいながらバルーンに見立てた他の素材を使った作品など、バルーンアートの枠から飛び出した作品が増えてきています。これからもユニットだからこそ思いつき、実現できる作品を作り続けたいと思っています。

DAISY BALLOON(デイジーバルーン)

アーティストユニット

バルーンアーティストの細貝里枝と、アートディレクター・グラフィックデザイナーの河田孝志からなるアーティストユニット。2008年の結成以来、「感覚と質」をテーマに掲げながらバルーンで構成された数々の作品を制作。中でも繊細さが細部にまで行き渡った建築物を思わせるバルーンドレスは、多くの人々を魅了し続けている。日々、哲学的テーマを探求し、物や人とディスカッションすることをフィールドワークとしている。

http://www.daisyballoon.com