学際性と国際性を目指し、教育改革を推進

 「開かれた大学」を建学の理念とする筑波大学。「学際性」と「国際性」をキーワードに掲げ、教育改革に取り組んでいる。具体的な施策について、学長の永田恭介氏に聞いた。

筑波大学 学長 永田恭介氏 永田恭介氏

──筑波大学の理念は。

 筑波大学の建学の理念は、あらゆる面で「開かれた」大学であることです。本学の前身である東京高等師範学校の校長であった嘉納治五郎氏は、維新から間もない時代に外国人にも門戸を広げ、その数は7,000人に上りました。日本の高等教育を国際社会に開いた先駆者であったということです。この歩みに象徴されるように、本学が拠(よ)って立つ地域は、地理的にはつくばであり茨城ですが、その枠を超えた「世界」であると考えています。

 また、学際性も本学の大きな特徴です。本学が定義する学際性とは、専門分野を深化させる一方で、学問領域を越えて学際的な教育研究を促し、新たな学問分野を創成することです。そのための仕組みづくりにも努めています。

──教育改革の内容とは。

 主に二つの改革があります。一つは、大学院の学位プログラム制です。学位プログラムとは、学士・修士・博士といった学位の水準と学問分野に応じて達成すべき能力を明示し、その能力を学生が修得できるように体系的に設計された教育プログラムのこと。学部などの教育組織に教員が固定される従来型のシステムでは、個々の教員が提供する授業の総和としてプログラムが組まれるため、社会の要請や学生のニーズよりも教員の事情が優先されがちでした。それに対し、学内外の組織の枠を越えて教員が集まり、学生視点での教育内容を提供するのが学位プログラム制です。

 もう一つは、学群の入試改革です。本学は、学際的研究を先導する人材の育成を目指していますが、その一貫として、2021年度より入学定員の約25%を対象に「総合選抜」を導入します。入試時は大きな枠組みだけを選び、2年次から進みたい分野を決める仕組みです。これにより、学群や学類の枠を越えて学べる環境が整います。

──キャンパス・イン・キャンパス(CiC)構想を掲げています。

 CiC協定を締結した海外のパートナー大学との間でキャンパス機能を共有し、トランスボーダーな教育研究交流を実現するための取り組みです。学生だけでなく教職員が世界の大学をホームキャンパスとして自由に活動できるようにすることを目指しています。2018年3月現在、ボルドー大学(フランス)、国立台湾大学(台湾)、サンパウロ大学(ブラジル)、マレーシア工科大学(マレーシア)、グルノーブル大学(フランス)と包括的なCiC協定を、カリフォルニア大学アーバイン校(アメリカ)とユトレヒト大学(オランダ)と研究交流を主な目的としたCiC協定を締結しています。本学スーパーグローバル大学創成支援事業では、2023年までに13大学とCiC協定を締結することにしています。

 また、日本の大学との連携にも積極的に取り組んでいます。例えば、リベラルアーツ教育で知られる国際基督教大学(ICU)、またジェンダー教育で一日の長のあるお茶の水女子大学と協定を結び、教育研究を交換しています。

──最近のトピックは。

 本学は様々な産学連携の取り組みを進めています。例えば、昨年4月、トヨタ自動車と共同で地域未来の社会基盤づくりを研究開発する「未来社会工学開発研究センター」を本学内に設立しました。急激な少子高齢化と過疎化による産業競争力低下、農林漁業の担い手不足、インフラ老朽化などが社会的、経済的な課題となる中、「society5.0」(政府提唱による科学技術政策の基本方針の一つ。仮想空間と現実空間を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会)の実現に向けて取り組んでいるプロジェクトです。AIやICTの進化によって、交通、物流、医療など、日々の暮らし方が大きく変われば、法学、人間工学、社会工学、芸術デザイン、人間科学、ヒューマンケアなど、あらゆる知恵が必要になるでしょう。幅広い学問領域を持つ総合大学として貢献していければと思っています。

──学長として心がけていることは。

 時代とともに学生の評価基準はより数値化できるものに変わってきています。例えば、研究論文がどれだけ科学雑誌に掲載されたか、といったことに重きが置かれている。ただ、いざ社会に出た時には、コミュニケーション力や課題解決力など、数値化できないことが問われることが非常に多い。そうしたことの育成に教職員がいかにコミットできるか。私が大学時代に教わった教授陣は、プライドをもってそれをやっていました。学生たちとじっくり向き合う時間が必要だと思うので、学長として環境づくりに取り組んでいきたいと思います。

──未来に向けた筑波大学の取り組みについて。

 社会の進展において科学技術がカギを握ることは間違いありません。もちろん科学技術は万能でなく、ネガティブなことも起こり得る。その解決においても科学技術は求められ続けるでしょう。そして、新しい何かが生まれた時、それに付随する哲学、倫理、法律なども新たに必要となる。例えば、極めて賢い愛玩用のAIロボットが誕生したとして、そのロボットを壊してしまったら、持ち主から殺人に等しい罪で訴えられるかもしれない。あるいは、今は科学技術的な価値がないと思われている研究でも、突然価値を帯びるかもしれない。そうしたあらゆる可能性を包摂し、研究することが、総合大学の役割ではないかと思っています。

──愛読書は。

 高校生の頃から『風姿花伝』(世阿弥)を愛読しています。物事の本質をつく内容は、時代を超え、分野を超えて応用できる。しかも簡潔で読みやすい。世界に誇る不朽の名著だと思います。

永田恭介(ながた・きょうすけ)

筑波大学 学長

1953年愛知県生まれ。76年東京大学薬学部卒。81年同学薬学研究科博士課程修了。アルベルト・アインシュタイン医学校(米国)、スローンケタリング記念がん研究所、国立遺伝学研究所、東京工業大学生命理工学部助教などを経て2001年筑波大学基礎医学系教授。04年同学大学院人間総合科学研究科教授。11年医学医療系教授。12年同大学長特別補佐。13年から現職。

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(全国版掲載。各本社版で、日付が異なる場合があります)

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